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たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*夢から覚めたら*
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眠り姫ー4

「死んでても楽しそうだけど。あなた達を見ていたら」

 ひとしきり笑った後、美夕は言った。とんでもないことを言い出す彼女に俺は慌てた。

「いやいやいや!ダメだって、死ぬのは。俺とか転生保留されてて、ほぼ妖怪とか地縛霊みたいなもんよ?この死に神のオッサンに見込まれたせいで」

「誰がオッサンだ」

「……」

 またまたコント開始……かと思いきや、美夕はじっと俺の顔をみつめてきた。

「……何?」

「似てる」

「え?」

「私の幼なじみの男の子に似てる。なっちゃんていうの」

「なっちゃん……?」

「いつも私を笑わせようと、おもしろいことを言ってくれる男の子……だけど私は、彼の顔を見るだけで良かった。それだけで元気をもらえたの」

「そいつ今どこにいるんだよ?」

 美夕は一筋の涙を流しながら笑った。

「いなくなっちゃった。みーんないなくなっちゃったの。誰もいなくて寂しくて、小さい頃に読んだ絵本の中みたいな世界を空想して浸ってた時期もあったけど……もう、全部消えてなくなった」

「絵本の中みたいな……空想……」

 呟いた俺に美夕は馬鹿みたいでしょ?と笑った。

「空想の中では、私は理想の女の子なの。可愛くていつもおしゃれな服を着て……どこへでも自由に行けて、好きだった男の子と恋人になって――――でも、それも結局夢でしかなかった」

 俺は黙って話を聞いていた。美夕は本心では生きたいと願ってる。だけど昏睡状態に陥る前に味わった絶望と、目を覚ました後にまた同じ思いをするんじゃないかという恐怖心が彼女の覚醒を邪魔しているんだ。

「……夢で終わらせなければいいんじゃね?」

「え?」

 美夕は怪訝な顔をした。

「やればいいじゃないか。全部。目を覚まして、現実の世界で。生きていれば、きっと何だってやれるって」

「簡単に言うのね。現実はそんなに甘くないと思うけど」

「そうかもな。それでも俺はあんたに挑戦してほしいと思うよ。出来れば俺もやってみたい。俺は一度死んだ人間なんだ。生きてた時のことなんか、ろくに覚えてないけど……でも、もしまた生まれ変わったら……何に生まれ変わるかわかんないけど――――与えられた人生を精一杯生きたいと思うよ。あんた先にやって見せてくれよ。俺、見てるから」

「……本当に似てるわ。ふざけたことばっかり言うけど、本当は優しい……なっちゃんみたい」

「ああ、幼なじみの男?そいつにも会えるだろ。目を覚ましたら」

 ううん、と美夕は首を振った。

「彼は……五十嵐夏生は死んだわ。十六歳の時に……この病院で」

 ……まただ。動いていない筈の心臓の鼓動が、俺を揺らした。

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