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たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*夢から覚めたら*
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眠り姫ー3

「答えろよ。本気で死んだ方がマシだって思ってんのかよ?」

 突然声色を変えた俺に美夕は驚いたように目を見開いた。

 何も答えないなら俺が言わせてもらう。

「リハビリっていうんかな、ああいうの頑張ればいつか歩けるようになるんじゃないの?やってみてもないのに最初から諦めんなよ。たとえ歩けなくてもさ、死んじまう最期の瞬間まで諦めずに足掻(あが)けよ!あんた生きてるんだから!せっかく生きてるんだからさあ!」

「……」

 美夕は黙って俺を睨んでいる。険悪なムードにさすがのソールも俺の肩に手を置き、落ち着かせようと声をかけた。

「ルース、落ち着……」

「うるせえ!お前は引っ込んでろ!これは俺の仕事なんだろ!?」

「……わかった。任せる」

 八つ当たりに近い感じで怒鳴ったのに、ソールは俺の予想に反してすんなりと引き下がった。

 俺は美夕に向き直り、思ったことをそのままぶつけた。

「なあ、なんでそんなに卑屈になってんだよ。せっかく生きられるんだ、生きといて損はないと思うぜ?死んだらそこでゲームオーバーだ。笠原美夕って人間はこの世からいなくなって、そのうち皆忘れ去る」

「……今だって同じようなものよ」

 ポロポロと涙を零しながら、美夕は口を開いた。

 いかん、女の子を泣かせてしまった……。

 ソールに視線を送るも、彼は相変わらずの無表情で助け舟を出すつもりはなさそうだ。

「私は十三歳から昏睡状態でここに入院しているのよ。その間、親以外に来た人は誰もいないわ。仲の良かった幼なじみでさえ、私のことなんか忘れて……誰も、誰も私のことなんか……っ」

 泣きじゃくる美夕は酷く幼く見えた。

 なんだかこの光景は前にも見たことがある気がする。


 ――――泣いていたあの子は、誰だっけ……?


 (なぐさ)めの言葉を考えてみたけれど、何も思い浮かばなかった。

 そもそも、必要なのは慰めじゃない。

 彼女の生死を決定する権利が俺に与えられているのなら、絶対に生きて欲しいと思う。

 それは、俺が一度失ったものだから。欲しがり続けてもまだ与えられていないものだから。

「悲劇のヒロインぶるのもいいけどさ、もっと前向きに考えられないもんかね?あんたそんなに可愛いのに何ひねくれて引きこもってるんだよ?もったいない」

「可愛い?私が?そ、そんな、嘘ばっかり……」

 美夕は両手で頬を押さえ、ジロリとこちらを睨んだ。

「本当だって!目を覚まして鏡見てみろよ。で、ちゃんと歩けるようにリハビリとか治療とか頑張れ!もしかしたらさ、一生懸命頑張ってる姿に通りすがりイケメンが一目惚れして大恋愛に発展するかもしれないぜ?そんでそいつはどっかのデカい会社の御曹司で既に妊娠中の婚約者がいてしかも超絶ムスコンおかんがいて、すんげえどろどろした展開に――――」

「話が逸れているぞ、ルース」

 熱の入った俺の説教をソールが止めた。

「お前は昼ドラの見過ぎだ」

「しょうがないだろっ。あんたいっつも会議だの何だので家を空けてるんだから、退屈なんだよ!」

「だから助手になれと言っているんだ。そうすれば四六時中共にいられるから退屈しないだろう?」

「は?いや、別に俺はそーいう……バッカじゃねえの?だいたい……」

「プッ……」

 俺達のいつものやり取りを見て、美夕は吹き出した。

「え……?」

「ご、ごめんなさい、おかしくってつい……アハ……アハハハ……」

 いきなり腹を抱えて笑い出した美夕に俺とソールは目を丸くした。

 何、俺達何かおもしろいこと言った?

 その後、美夕の笑い声が収まるまでしばらくかかった。

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