眠り姫ー2
「命を、刈る……?」
「ああ、そうだ」
ソールは言うなり大きな死に神の鎌を見せた。
「きゃ……!!」
当然、女の子は驚き悲鳴を上げた。
「おいおいソール!そんなもんしまえよ。怖がってるじゃないか」
そう言った俺をムッとした顔で睨むと、ソールは鎌を壁に立て掛けた。そして自分も背を壁にもたれ腕を組み、憮然たる表情で俺から彼女に話すように目で合図を送ってきた。
そんな突然、どうすりゃいいんだよ……。
「えーと、あの……まず最初に、怖がらせてごめん。君にあれを使う予定はないから安心してね」
明らかに怯えている女の子に声をかけると、彼女は恐る恐る尋ねてきた。
「でも、死に神さん……なんでしょう?」
「ああ、まあそんなとこ。でも、今日は君から命を奪う為に来たんじゃないんだ。生きる気持ちをなくしてるみたいだから、励ましに来たってわけ」
「励ましに?」
「だよな?ソール」
ソールは貼り付けたような無表情でああと頷いた。
なんでそんなに無愛想なんだよ!俺の前ではめちゃくちゃ表情豊かなクセに……心の中で文句を言いながら、目の前の女の子に笑顔を見せた。
最初の三秒間の第一印象ってすごく大事だっていうのに、このソールのおかげで相手に俺達のことを怖く怪しい奴だと印象付けてしまった。巻き返せるかどうかは俺の手腕にかかっている。
「俺、ルース。君の名前は?」
女の子はベッドに付けてあるネームプレートを指差しながら名乗った。
「笠原美夕」
すかさずソールが口を挟む。
「さっき言った筈だ。ちゃんと聞いてろ」
「笠原……美夕……」
トクン、動いていない筈の心臓が鼓動したように俺は揺れた。
美夕……その名前、その顔、どこかで……。
「どうした?ルース」
俺の僅かな異変に気付いたソールが声をかけてくれたが、平静を装った。
「あ、ああ、いや、なんでもない。美夕ちゃんていい名前だな~と思って」
「ありがとう……」
「えーと、美夕ちゃんさあ、そろそろ目を覚ますつもりないか?でないとあそこで壁にもたれ掛かってる怖い人が、君のこと生かせばいいのか殺せばいいのかわかんないみたいで……」
「私は怖くない」
不機嫌さを隠さずにソールがぼやいたがそれは放置して、俺は美夕という女の子に話し続けた。
「身体の方は、だいぶ回復したらしいぜ?寝てばっかだと退屈だろ」
軽い調子の言い方が気に障ったのか、美夕はそっぽを向いた。
「目を覚ましても、どうせ以前と変わらない生活でしょ?行きたい場所にも行けない制限ばかりの毎日がまた続くんなら、このまま死んだ方がマシだわ。自由に動ける他の人達を見なくて済むもの」
「死んだ方がマシ?マジで言ってんの?」
卑屈とも取れる彼女の物言いに俺はなんだか無性に腹が立った。
……ヤバい。俺、キレたらソールよりも怖いかも……。




