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たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*夢から覚めたら*
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眠り姫ー1

 眠っている女の子の枕元に立ち、俺とソールは彼女の顔を覗き込んだ。

 艶やかで長い黒髪、雪のように白い肌。切れ長の目を縁取る睫毛は長く、毛先がくるんとカールしている。酷く痩せているけれど、とても魅力的な子だ。

 目が開いたところも見てみたいと思った。瞳の色はどんなだろう……?笑ったら……?

「この子、死ぬんだ……?」

 ぽつりと呟いた俺に少し間を置いてソールは言った。

「いや……つい数日前まで生死の境をさ迷っていたが持ち直した」

「へえ……そりゃ良かった」

 俺はピクリとも動かない女の子の頬を人差し指で軽く撫でた。

「良かったと……そう思うのか」

 ソールは静かな声で尋ねた。

「え?うん、まあ……こんなに可愛いのに死んだらもったいないじゃん」

「そうか……」

「そうだよ。生きて楽しいこといっぱいやってから死んだ方が絶対お得だろ。どーせ皆いつか死ぬんだし」

 軽いノリでそう言った俺はソールが馬鹿だの不真面目だのと悪態をつくのを期待していた。彼との会話の掛け合いはおもしろいから好きだ。

 だけどソールは押し黙ったまま、何も言わなかった。

「ソール?」

 覗き込むと彼は一瞬はっとしたような顔を見せた。だがすぐにいつもの無表情に戻り、抑揚のない声で語り出した。


「この人間の娘はかつて“(せい)“への凄まじい執着を持っていた。他人を陥れ、彼らの生命を奪い自分が目覚める為の糧にしようとした」

「へえ……」

 そんなふうには見えないけどな、この子。そう思いながら俺はソールの話の続きを聞いた。

「しかしある出来事をきっかけに急にその執着は消え失せ、今に至っている。彼女の肉体はいつ目覚めてもいい状態まで回復した。しかし彼女の意志が覚醒を拒否しているのだ。それが原因で時折危篤状態に陥り、また持ち直す。ここ数年間その繰り返しだ」

「そんなことがあるのか。じゃあ、本人が死にたがってるからって理由で殺しに来たのか?この子を」

「上からの命令が下ればそうするつもりだ」

 仕事一筋の頑固者。それがこのソールの長所であり短所であると俺は思っている。時々それがおもしろくなくて、俺は彼に反抗することがある。

「ふーん……で、命令とやらは下ってるのか?」

「いや、まだだ」

「じゃあ今日は何の為にここに?」

 ソールの答えは意外なものだった。

「今回の仕事は“仕分け“だ。対象である者を生かすべきかどうか、現場の私が判断することになっている」

「仕分け……そんなことまでやらなきゃなんないの、死に神って」

「ああ、忙しい。だからお前に助手にならないかと誘っているんだ」

 ソールは困ったように笑った。今日は珍しくいろんな表情を見せる彼に、俺は少し戸惑いを感じていた。それを悟られないようにいつものように横柄に振る舞う。ベッドに腰掛けて足をぶらぶらさせながら、どうでもいいような素振りで話を続けた。

「で、どーすんの?この子」

「彼女と対話し、決断する」

「俺は?見てるだけでいいの?」

「いや。対話するのはお前だ、ルース」

「え……?」

 揺らしていた足が無意識に止まる。

 俺が、この女の子と話す……?そして、生かすか殺すか決めるのか?

「な、なんで俺が……そんな責任重大な仕事、やだよ」

 誰かの生死を左右する決断なんて、自分がやるべきことじゃない。やりたくない。

 ぶんぶんと首を左右に振っているのに、ソールはそれを無視して眠る女の子の額に手をかざした。

 今までの手伝いで何度か見たことがある。命を奪う相手にそれを告げる時にやる動作だ。

「おいっ……俺はウンとは言ってな……」

「……誰?」

 か細い女の子の声。

 魂が肉体を離れ、スーッと起き上がった。目を開いた彼女の魂は向こう側が透けている。不安そうに何度も瞬きをしながら俺とソールを交互に見ている。

 怯えている彼女を安心させようと、俺は声をかけようとした。だが俺より先にソールが口を開いた。

「笠原美夕、我々はお前の命を刈るものだ」

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