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たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*夢から覚めたら*
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死に神の助手

「なあなあソール、いつになったら転生出来るんだよ?」

 しつこく尋ねる俺にソールはうんざり顔で振り返った。

「あ、今しつこいって思っただろ。顔にそう書いてある」

「……ああ、思った」

 死後、一定の期間を置いて最終確認というやつも済んで、俺はいつでも転生OKの筈だ。

 なのにソールははぐらかすばかりで一向に転生の話をしようとしない。

 それどころか最近じゃ彼の仕事の手伝いをやらされている。今も現場へ移動中だ。

「俺、早く生まれ変わってやりたいことあんだけど」

 人間界は面白いことであふれている。テレビゲームとかいう遊びをやってみたい。それから、スポーツも。狭い空間に限られた人数で集まり、大声で歌を歌うカラオケというのも面白そうだ。他人同士で身体を擦り寄せて呼吸を荒くするアレは何の意味があるのか不可思議で仕方ないが、興味はある。食べ物も、きっと実体があったら今よりも旨く感じられそうだ。

「……生まれる前からそんなに煩悩まみれでは転生させられんな」

 俺の考えを勝手に読んだソールが呆れ顔で言った。

「はあ~!?何だよ、それ…まだ転生したらダメってことか!?」

 いきり立つ俺を見てソールはニヤニヤと笑う。

「魂の浄化の進捗度がイマイチだということだ。清らかな魂へとブラッシュアップしてこそ、次に生を受けた時により充実した……」

 ソールは意地の悪い笑みを浮かべ滔々(とうとう)と語り出した。そんな彼を眺めながら、俺はぼんやりと考える。

 彼は最初会った時よりも表情が豊かになった気がする。死に神のクセに、人間臭くなりつつある。出会った頃はもっと無機質なイメージの男だった。何が彼を変えていったのだろう?

「……」

 それはさておき、俺は口を尖らせ抗議した。

「ブラッシュアップぅ?何だそれ。浄化浄化って言うけど、洗濯出来るもんじゃないだろ、魂なんて。だいたい死に神の助手なんかやってたら嫌でも人間の汚れた部分を見ちまうんだからさ。清らかなタマシイ?なれるか、そんなん!」

 まくし立てる俺を見ながらソールは笑った。そう、まるで人間みたいに。

「来期は異動願いを出しておくから、もうしばらく私の(そば)にいる気はないか?」

「はあ……あんた俺を無給で働かせといて、転生延期する気かよ。ていうか来期!?異動!?意味わかんないんですけど!!サラリーマンかよ」

「正式に助手になるのなら、もっと私のことを教えてやる」

「はああ……イヤ、結構です。遠慮しときます……」

 そんな夫婦漫才的なやり取りももう慣れ親しんだものになっていた。

 

 本当はどうしたいんだろうと考える。

 実をいうと人間界の娯楽には興味があるものの、奴らが持つ妬みや憎しみといった感情にはヘドが出そうな程嫌悪感を感じる。

 このまま実体のない、自由気ままな存在でいるのも悪くない。

 ソールは俺に彼の仕事を手伝いをさせるが、今のところそんなに大変じゃない。

 食べたいものがあると言えばどこからか仕入れてくるし、行きたい場所があると言えば連れていってくれる。

 今のこのお気楽な生活を手放して、(いち)からスタートするのか?

 ソールのことも何もかも忘れて、人間もしくは別の何かに転生……。

「うーん……悩むわ……」

「何をぶつぶつ言ってるんだ。仕事中だぞ」

「あ、はいはい」

 気持ちを切り替えてソールが指差す方に目をやると、白くて大きな建物が見えた。

「病院?」

 死に神の手伝いをして、何度かこういう施設で人の死に立ち会ってきた。

 また誰か死ぬのかな。

 爺さんかな、婆さんかな。子供だったら嫌だな……。

「この人間だ」

 ソールが指差したそれは、瞳を閉ざし横たわる黒髪の女の子だった。

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