rest in peace.死者よ、安らかに眠れー1
「ルース」
またあいつが俺を呼んでいる。まだ眠いのに。
「おい、聞こえているんだろ。いい加減に起きろ」
「う~……もうちょっと寝かせろよ」
大きなあくびをしながら上体を起こすと、目の前に声の主がいた。
「ちょ、顔近過ぎだって。あービックリした」
ベッドから立とうとした俺の腕を掴み、そいつはジィッと俺の目を覗き込んできた。
「確認だ。お前は誰だ?」
「……名前など、ない」
感情のないアンドロイドのように答えると、そいつは「よし」と俺の頭を撫でた。
保護者のようなその行動に、俺は頬を膨らませた。
「あのさー、子供扱いしないでくれる?俺はもう……」
「もう、なんだ」
「もう……何歳だっけ?」
「知らなくていい。お前はまだ生まれてもいないから年齢はない」
「あんたは?何歳なの?」
「さあな。それよりさっさと着替えるんだ。今日は最終確認の日だと言ったろ。だいたい我々には睡眠など必要ないんだ。食事もな。なのにお前ときたら……」
ぶつぶつ言いながら、そいつは俺に朝食を差し出した。
俺にも彼にも、睡眠や食事は必要ない――――俺達は生きてないから。
三年前、俺は死んだ。
人間の男で、歳は十六だったらしい。
その時の記憶は今の俺にはない。
今の俺は転生を待つ身で、実体は持っていない。
でもさ、腹も減るし眠くもなるんだ。
だって人間は死んだ奴に言うじゃないか。
ゆっくりお休み。好きな物を好きなだけ食べていいのよ。
俺、誰かがそう言ってるのを聞いたことがある。
「ルース」
「ん?」
「大丈夫か?」
「……え、大丈夫って何……」
「お前の呼び名だ。ルースでいいのかと聞いたんだ」
「あ、ああ……うん、いいよ。ソール」
理由はわからないがいつも俺の隣にいて、かいがいしく面倒を見てくれる男。
ソールに相槌を打ちながら、俺は朝食をぱくついた。




