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たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*キスから始まる異世界転生*
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魔女と彼女の操り人形ー3

 がらがらと音を立て、何かが崩れていくのを感じた。

『美夕が人間になる方法を教えてくれたの――――人間の肉体(からだ)を食べればいいって。だから、簡単に肉体(からだ)を手放すような人を……死にたがっている人を選んで声をかけた』

 ルシフェルが言っていたことは、事実なのか……?

 美夕があの悍ましい行為をルシフェルにやらせていた!?

 そんな馬鹿な。何かの間違いだろ……だって信じられない。

 俺の知ってる美夕はそんな子じゃない。

 茫然自失の俺を余所に、美夕はさも面白そうに話を続けた。

「その時が初めてだったわ。あの子が私に逆らったのは。人間を食べるのを嫌がって泣いたの。ルシフェルが送った肉体(からだ)は皆腐らせて駄目にしちゃったの。だから罰を与えた。人肉が欲しくて(たま)らなくなるように魔法をかけてやったのよ」

「魔法が……使えるのか、美夕」

 フフ、と笑って美夕は頷いた。

「そうよ、すごいでしょう。かけた魔法は他にもあるわよ。ルシフェルにはあなたがあの子を見たら一目惚れする魔法をかけたと言って、実際には私のことを思い出すよう魔法をかけたの」

「ルシフェルを見たら、美夕のことを思い出す魔法……」

 言われてみれば初めて会った日、ルシフェルを見た俺はそれまで忘れていた幼なじみの美夕を思い出した。あれは美夕がかけた魔法だったのか……。

「自分を好きになると信じてあんたの前に姿を現したルシフェルは、あんたが私のことばかり考えるようになったって不思議がってたわ。本当に馬鹿な子」

 人を喰らうという凶行に及んだルシフェルを庇うわけではないが、彼女の恋心を(もてあそ)び嘲笑う美夕には腹が立った。

「一体何の為にそんなことを……?美夕のこと忘れて見舞いにも来なかった薄情者の俺が嫌いなんだろ?思い出させてどうするつもりだったんだよ」

 美夕は俺を睨んだまま答えなかった。

「教えてくれよ美夕!君の望みは何なんだ!?俺はどうすればいいんだよ!」

「……百人」

 冷たい声で美夕が言った。

「百人フェアビューランドに送りなさい。最初の契約通りにね。今まであなたが送ったのは八十一人だから、残りは十九人ね。奴隷なんだから、ご主人様の言うこと聞かなくちゃね」

「だから何の為に……!」

「私が病気を治して目を覚ます為よ」

「何……!?」

「小さい頃に読んだ本に書いてあったの。人間を食べるとその命を貰うことが出来るって。半信半疑だったけど、私の代わりにルシフェルに食べさせてみたくて。最初の人間を食べさせたら、どうなったと思う?なっちゃん」

 嬉しそうに話す美夕……公園で泥団子を差し出したあの幼い美夕と変わらない笑顔なのに、話す内容は狂気に満ちたものだった。

「私の病気、少し軽くなったの!あの子が人間を食べれば食べる程、私は健康に近付くの。きっと百人食べれば目を覚まして自由に動けるようになるわ!」

「……ルシフェルは?人間になれるのか?」

「さあ。知らない、そんなの。とにかく早く人間を転移させてちょうだい。今さら良心の呵責も何もあったもんじゃないでしょ?あんなにたくさん転移させといて――――しかも家畜に」

 美夕の言葉のひとつひとつが突き刺さるように痛かった。

 怒りなのか悲しみなのか、それとも何か別の名前が付いた感情なのか。

 爆発しそうな俺に、変わり果てた美夕が滔々(とうとう)と喋る。

「百人転移出来たらあんたを解放してあげる。一生あのくだらない世界でルシフェルと恋愛ごっこでもしてなさいよ」

「嫌だと言ったら?」

「ルシフェルに命令して眠ってるあんたの肉体(からだ)を喰わせるわ。あんたの両親の目の前でね」

「……!」

 なんで、こんな……。

 心の中で俺は何度もソールを呼んだ。

 ソール、あんた神様なんだろ?どこかで見てるのか?見てるならどうすればいいか、俺に教えてくれ……!

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