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たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*キスから始まる異世界転生*
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甘く優しい悪夢の中でー1

 ルシフェルが創った世界は俺の想像よりもずっと歪んでいた。

 誰もが前世の記憶を持っており、暗黙の了解でそれは口にしないことになっている。

 何度死んでも姿を変えてまたここに甦り、永遠に同じ場所で生き続ける――――。

「そんな……そんなのっておかしいだろ。どう考えてもまともじゃない」

 無意識に首を左右に振った俺にルシフェルは不思議そうな顔をした。

「何がおかしいの?だってここは前の世界を忌み嫌って死のうとしてた人達の暮らす世界なのよ。皆心が弱いの。だから、ずうっとここで痛い思いも恐い思いもせずに楽しく暮らせるように……」

「間違ってる。そんなの間違ってるって!!」

 大声で否定した俺に、ルシフェルは初めて見せる冷酷な顔をした。

 赤い宝石のような瞳が暗い森の中で妖しく光るのを見ていると底知れぬ恐怖が身を包んだ。

「だいたいなんで生まれ変わった時点であいつら図体デカくて言葉も話せるんだ?普通、生まれ変わるっていったら赤ん坊からのやり直しなんじゃ――――」

「それじゃ一人で生きてけないでしょ」

 俺の言葉をルシフェルが冷淡な物言いで遮った。

「ここにいるのは皆大人のクセに自分一人じゃ生きていけなくて命を投げ出した弱虫ばかり。そんな人達に赤ちゃんなんて育てられると思う?ある程度森の木の中で成長させてから出してあげてるのよ」

「……たしかに弱い奴らばかりかもしれない。だけど痛みもなくて、死んでもまた同じ人格を持ったまま新しい肉体(からだ)を手に入れられるってわかってたら、前世よりもっと自分の命を大事にしなくなるだろう!?」

 なんで――――なんで俺、こんなこと言ってるんだろう?

 他人のことなんて本当はどうでもいいクセに。

 今だって自分と美夕だけが辛い現実を逃れて楽園を手に入れられればいいと、心のどこかで思ってるってのに。

 それでも歪んだ実態を目の前に、何か言わずにはいられなかった。

「大事にしてるわ。皆争いごとが起きないように仲良くしてるもの。命を大事にしてないのはあなたよ、ナツキ」

「何……」

「自分の同級生や先生を家畜としてこっちに送ったのは誰?あなたじゃない!美絵子のこともこの世界のことも、あなたに私を責める権利はないわ!」

 その通りだ。俺にルシフェルを責めることは出来ない。だけど――――。

「ああ、俺にはそんな権利ないよ。だけど……それでも言わせてもらう。この世界は間違ってる。こんな世界、美夕が望んでいるとは思えない。元に戻すんだ、ルシフェル。連中の魂を元の肉体(からだ)に戻して、元の世界に――――でないとソールが……」

「元の世界に?」

 とてつもなく残忍な、それでもなお美しいルシフェルは吐き捨てるように言った。

「誰も望まないわ、そんなこと。それに元の世界に戻すには入れ物が要る。だけど元の肉体(からだ)なんてないわよ、もう」

「何……まさかお前、ここにいる連中全員を……」

 人喰いの魔女はさらりと言ってのけた。

「食べちゃったわよ。みぃんな」

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