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たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*キスから始まる異世界転生*
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楽園ー4

 森に入ると、中は想像以上に暗く道は険しかった。

 俺はルシフェルの後ろを歩いていた。

「美絵子が死んだ」

 低い声でそう言うと、ルシフェルは歩みを止めて振り返った。

「ええ、見たわ。マシューとジョセフが喜んでたわね」

 動揺も悲しみも含んでいないその声に、俺は怒りでどうにかなりそうだった。

「何故美絵子をこっちに送った!?俺は断ったのに!」

「何故って……死にたがってたから。あの子の為にこっちに転生させてあげたのよ」

「“転生“じゃないだろ、俺達がやってるのは“転移“だってソールが……」

 俺を無視してルシフェルはさっさと進んでいった。

 もうすぐ日が暮れる。森の中はさらに視界が悪くなるだろう。こんな場所で何をする気なのか……。

 警戒しながら彼女についていくと、茂みに隠された沼にたどり着いた。

「おいで」

 俺に言ったのかと思ったがどうやら違うようだ。

 ルシフェルは沼に向かって呼びかけ、両手を高く上げて何か呪文のようなものを唱えた。

 わけもわからず成り行きを見守っているとやがて水中にポウッと光が二つ現れた。それらは緩慢な動きで沼の水面に浮かび上がり、ルシフェルの所にやってきた。

 ルシフェルは頭上に掲げた手で指示を出し、それぞれを沼の淵に生えている木に誘導した。

「なんだ?何やって……」

「見ていて。新しい住人の誕生よ」

「何だと!?」

 俺と彼女が喋っている間に光を受け入れた二本の木は姿形を変えていった。

 ひとつは蛇の鱗を持った(なま)めかしい美女に、もう一方は二足歩行の灰色の狼に。

「おお、今度は女かあ!ルシフェル様、ありがとうございます!」

 女が喋った。

「フフ、今度は怪我しないようにね、ヘルマン。なんて名前にする?」

「うーん、そうだなあ。二、三日考えて決めますわ。喋り方も変えないと、他の連中に俺だって気付かれちまう」

「ヘルマン……!?ヘルマンってさっき死んだ……」

 大腿部に致命傷を負い失血死した大男のヘルマンが、木から甦った……!?

「そうよ。ここでは何度死んでもまたここに生まれ変わるの」

「へえ、そうなんだあ!」

 狼人間が喋ったのでそちらを向くと、ニッコリ笑って俺のことを“ナツ“と呼んだ。

「え……もしかして、美絵子!?」

「そうだよ、ナツ。何が起こったのかよくわかんないけど、私、死んじゃったみたいね。ていうかルシフェル~、狼人間になったのはいいんだけど、私、女の子の身体が良かったあ」

「コボルトという妖精なのよ。性別は、ゴメン、男だね……じゃあ、次に生まれ変わる時は美絵子を可愛い女の子にしてあげるね」

「ありがとう!」

 呆気にとられている俺を余所(よそ)に元ヘルマンと元ウサギの美絵子はルシフェルに礼を言って街へと帰っていった。

 何なんだ、今のは。ここで死んでも、またここに生まれる?

 元いた世界や別の世界ではなく、皆永遠にここに?

 ずっと同じ人格のまま、姿だけを変えて生きるのか?

 この世界に送られたら最後、二度と出ることは叶わないのか?

 皆それでいいのか……?

 痛みのない優しい世界の歪んだ側面を見た気がして、俺は眩暈を覚えた。

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