楽園ー2
「嘘だろ美絵子……なんでお前がここに……」
美絵子は俺に異世界へ転生したいと懇願したが俺はそれを断った。
なのに、何故……。
「ルシフェルか」
思い当たるのはそれしかない。
「ルシフェルがお前をこっちに送ったんだな、美絵子」
言葉を話すウサギに姿を変えられた美絵子はウン!と答えた。
「ナツが行っちゃった後、あの人が現れたの。ナツの代わりに自分が転生させてあげるって」
やはり。どこからか俺のことを監視していたんだ。
許せない。あの女、この世界と一緒に消し潰してやる……!
「可愛い人だよね、ルシフェルって」
「え?」
「ナツのことを凄く心配してたよ。転生した後もナツと仲良くしてあげてねって……もう絶対にイジメたりしないでねってお願いされちゃった」
「……あの女がそんなことを?」
「あの人、ナツのことが好きなんだね。学校で皆を消す前の日にも、街でも一緒に歩いてたもんね」
「あ、ああ……」
「あの時はさ、驚いちゃったよ。なんで飛び降りて意識不明のナツがアイドルみたいな可愛い子と街でデートしてるんだろうって……幽霊でも見た気分だった」
「まあ……今も幽霊みたいなもんだから」
「あとちょっとなんでしょ?ノルマ達成まで。百人送ったらナツもこっちでずーっと一緒に暮らせるって。ルシフェルが言ってた」
「ああ……でも、その契約はもう――――」
美絵子があまりにも嬉しそうに話すので、ルシフェルやこの世界のことを話すのは憚られた。
近いうちにここから元の世界に戻すことになるだろうが、伝えるのは直前の方が良さそうだ。
「楽しみにしてるよ!ナツがこっちの住人になるのを」
「楽しみ……?」
「ナツ……私、ナツに感謝してるの。ナツが飛び降りたまま、そのままだったら、私きっとあの世界で普通に過ごしてた」
「普通に?」
「うん。自分が酷いことしたのも、ナツのことも忘れて……周りと上手くやっていけたらそれでいいやって考えで――――そのまま大人になって適当に就職して適当に結婚して。つまらない人生送ってたと思う。それがこんなに素敵な場所に生まれ変わって、こんなに自由で!最初はさ、えー、ウサギ!?って思ったけど、これが結構楽しいの!」
「……」
何言ってんだよ。
普通に人生送るのがつまらない?
美夕はその“普通“さえ手に入れられないんだぞ。
俺だって……イジメに遭って普通に生きてく権利を奪われて――――。
「……楽しいなら……良かったよ」
怒鳴りつけたいのを抑え、俺は笑顔でそう言った。ここで美絵子を責めても何の意味もない。
「元気でな、美絵子。俺今から行くとこあるから。怪我には注意しろよ」
「うん!バイバイ、ナツ」
俺が美絵子に背を向けた直後だった。
ドカッと鈍い音がして少し離れた場所から男達の歓声が響いた。
「やった!見事命中」
「すげーな。今のところ百発百中じゃん」
何だ……?命中って――――。
「!!」
振り向くと、小さな茶色のウサギが頭から血を流し絶命していた。




