魔女か聖女かー2
自由なカラダが欲しい。
汗だくになるまで走りたいの。
オシャレな服を着て、街を歩きたいの。
いろんな所へ行きたい。
なっちゃんに、会いたいの……。
◇◆◇
「スケッチブックに描かれた単なる絵だった私が意思を持ったのは、覚めない眠りについた美夕の願いを叶える為」
遠くを見るような目で語るルシフェルは恐ろしい魔女の筈なのに、その姿は何故かとても神聖なものに見えた。
「実体を持たない私はどこへでも好きな場所へ行けた。前に話したことがあるでしょ?美夕が着たい服を着て、美夕が食べたい物食べて――――出身地は美夕のママと同じ東京で、オシャレで自由でお姫様みたいな女の子。それが美夕が創ったルシフェル。昏睡状態になる前の美夕が空想していたように、彼女が望んだことを私がやって、それを三年間、彼女の夢に届けてた」
「フェアビューランドはいつ創ったんだ?お前が人間を喰らうようになったのはいつからなんだ」
刺すような目線を送る俺を、ルシフェルは悲しそうな目で見た。
「あなたを見たその日から」
「何……?」
「美夕が会いたいと願う男の子を見てみたくなって、あなたを捜したの。いつも元気で明るくて、美夕を笑わせてくれた五十嵐夏生……彼女の思い出の中のあなたはまだほんの子供だった。だけど――――」
ルシフェルの表情がさらに辛そうに歪む。
「私があなたをみつけた時、あなたは高校生になっていた。あなたはたった一人で苦しんでたわ。学校で酷い目に遭って……逃げ出したいと願ってた」
「……」
「それを美夕に伝えたら、彼女泣いたの」
「美夕が?」
頷き、ルシフェルは続けた。
「なっちゃんを助けたいと言って泣いてた。その力がない自分自身を呪う程に」
「美夕が……」
「美夕の想いは私の想い。私もあなたを救いたかった。どこか、あなたが辛い思いをしなくて済む場所が欲しいと願ったの」
「場所……」
「そこにあの黒づくめの男が現れたの。願いを叶えてやろうって」
「ソールか」
「ソール――――名前なんてあったの、彼」
「ああ……お前があの黒の空間から逃げ出した後に名前を聞いた」
「そうなの……彼は私には何も教えてはくれなかったわ。ただ、夢を叶える能力をくれた。均衡を崩すなとそれだけ言ってそれっきりだった。神様って随分気まぐれなのね」
「能力……それでフェアビューランドを創ったのか」
コクリと頷き、ルシフェルは立ち上がった。力ない足取りで再び窓辺へ行き、窓の外を眺める。
「あなたに笑って欲しくて――――私はこの世界を創ったの」
「俺の……為?」
窓から差し込む光を背に、ルシフェルは天使のように輝いていた。
空想の中の女の子。美夕の願いを叶えたくて、俺のことを救いたくてこの世界を創造したルシフェル――――。
「でも、どうして……どうして人を喰ったり……?」
この問いにルシフェルは涙を流した。
「私は、人間に……なりたいと願ってしまったの……」




