魔女か聖女かー1
意識が浮上していくのを自覚した。
どっちの世界で目覚めるんだ?
……どっちも嫌だ。
関係を修復して家族としてやり直す道を選んでくれた両親には会いたいけれど、俺が引き起こした事件の余波は大きく、落ち着いた生活を取り戻すには様々な困難が待ち受けていそうだ。
ルシフェルという魔女が創った世界は夢のような素晴らしい場所だと思っていたけれど、そのルシフェルは人喰いの魔女だった。
俺も喰われるのか。それとももう、喰われてしまったのか……。
「!」
ガバッと上体を起こすと、そこは見たことのある部屋だった。
フェアビューランドのルシフェルの城だ。
あの女が俺をここまで運んだのか?
あの細腕でそんな……と思ったが、そうだ、あいつは魔女だった。魔法を使えば俺をここまで移動させるなんて容易いことだろう。
ガチャリ、ノックなしに部屋に入ってきたのはその魔女だ。
「目が覚めたみたいね。気分はどう?」
ニッコリ笑って登場したルシフェルは真新しい服に着替えていた。
「……」
何も言わない俺に構わず、彼女は窓辺に行ってカーテンを開けた。
「もう朝だよ、ナツキ。一晩中目を覚まさないから心配しちゃったわ」
「……」
「お腹空いてない?何か持って来させようか?こないだオープンした街のパン屋さん、凄く評判がいいのよ」
お腹空いてないか、だって?どの面下げてそんなことを。
お前が人肉を貪るのを見ちまったから、食欲なんか湧かねえよ!
そうなじってやりたかったが、俺は自分で自分を落ち着けようと必死だった。
何とかここを切り抜けなければならない。
喰われてたまるか。
「ナツキ~、どうしちゃったの?」
猫のように擦り寄ってきたルシフェルに、身の毛がよだつ。
「触るな!」
以前だったら押し倒して抱いていた可愛いルシフェル。
俺、お前のことが好きだったのに。なのに――――。
「ナツキ?」
絡ませた腕を乱暴に振り払われ、ルシフェルは泣きそうな顔をした。
どうせそれも、芝居なんだろう?
「どうして?ナツキ……私のこと嫌いになったの?」
「嫌い、だと……?何言ってんだよ。嫌いどころの話じゃねえよ。お前、自分が何やってるかわかってるのか!?」
冷静でいようとしていたが無理だった。
「お前、いつからあんなことしてんだよ!?あれは……お前に喰われたのはどこの誰なんだ!?お前は……」
いきり立つ俺にルシフェルは怯えたように目を見開いている。
「魔女なのか?俺を騙して……美夕の為なんかじゃなく、自分の為にこの世界を創ったのか!?そしてここにいる奴らを皆喰っちまうつもりなのか!?」
「ナツキ……違う、違うわ!」
ルシフェルは縋るように手を伸ばしてきたが俺はそれをバシリと払い除けた。
「何が違うんだ!お前、あの地下室に俺を閉じ込めたじゃないか!俺が自分の世界に転移しなかったら、今頃俺はお前の胃袋に収まってたんだろう」
追及の手を緩めない俺に、ルシフェルはただ首を横に振り否定しようとした。
その仕草が美夕に似ていて余計に腹が立つ。
「全部話せ、ルシフェル。お前がここで何をやっているのか。そもそも何の為にこの世界を創ったのかを!」
「わかった……」
観念したのか、魔女はベッド脇の椅子に腰を降ろし、語り出した。
「私がこの世界を創った理由は――――」




