残酷な童話ー6
……ルシフェルは悪い魔女?王子様とお姫様を引き離す?
騙された二人は眠ったまま――――それって俺と美夕のことなのか……?
ルシフェルが言った言葉が頭の中に響く。
『フェアビューランドに私の王国を創りたいの』
私の王国……。
俺を生臭い地下室に閉じ込めたルシフェル。
転移させた人間の肉体をフェアビューランドのどこかに隠してるのか?
そうだとしたら、一体何をするつもりなんだ?
「魔女……」
茫然自失で呟いた俺にソールは抑揚のない、しかし妙に威圧感のある声で俺に言った。
「私にはどうでもいいことだ。気になるのならルシフェルに会って確かめるといい。それより早く転移した人間達の肉体をみつけろ。でないと……」
「均衡が保てない、だろ」
ため息まじりに答え、ソールを見ると、彼はもうそこにはいなかった。
隣にいた筈の美夕も消えている。
「……フェアビューランド」
唱えた俺を無重力感と強烈なGが呑み込む。
今度こそ真相を――――魔女の尻尾を掴んでやる。
◇◆◇
目を開けて最初に感じたのは、むせ返るような生臭さ。
何の臭いだ……!?
ごく最近嗅いだことのある臭いだ。
ここは、あの地下室か……!
状況を把握する為に周囲を見渡す。
暗い暗い闇の中に、オレンジ色の灯がぼんやりと見える。
灯の正体は小さなランタンだった。
「うわっ!」
石の床に置いた手に、生温い液体が触れた。
嫌悪感に思わず呻いた俺は、視界に飛び込んできた光景に絶句した。
「あ」
可愛い服を着た女の子。どこへでも自由に行ける魔法使い――――王子様とお姫様を引き離す悪い魔女。
「ナツキ……?」
「ルシフェル……!?」
彼女の口の周りに付いているのは血液だった。
見れば床に大量の血溜まりが出来ていて、ランタンの灯に照らされて光っている。
「ナツキ、どうしてここに……?」
ルシフェルは恍惚感に浸っているようだった。
緩慢な動作でこちらを向いて、夢を見ているような目で俺を見て微笑んだ。
「お、お前こそこんな所で何をしてるんだ?その血は……!?」
俺が後退りするのを見てルシフェルは、ああ、これ?と何かを床から拾い上げ、俺に差し出した。
「今ね、これ食べてたの」
ニッコリと天使のように無邪気な笑顔で彼女が差し出した物は、人間の肘から下の部分だった。
「う……わあああ!」
思わず叫び声を上げて逃げ出そうとしたが、石の床に広がった血で滑り、俺は仰向けに転がった。
「大丈夫?怪我しなかった?」
心配そうに俺の顔を覗き込むルシフェルはいつも通りの優しく愛くるしいままで――――その彼女が、悪びれもせずに血にまみれながら人肉を貪っていた。
悪い魔女に騙されて眠った王子と姫は、人喰いの魔女の餌食になるのか?
遠のく意識の中で、残酷な童話の結末を知らされた気がした。




