残酷な童話ー2
『ここ二、三日鳴りを潜めている失踪事件とポルターガイスト、ネットでの炎上騒ぎについてまとめてみました』
ニュースキャスターの言葉に俺はぽかんと口を開けたまま、流れる映像を見ていた。
◇◆◇
ソールから与えられた二つの世界を自由に行き来する能力のおかげで難なく例の地下室から抜け出せた俺は、自分の世界に戻ってきた。
ここは俺の肉体が昏睡状態で入院中の病室だ。
備え付けのテレビは廊下の自販機で売っている専用のカードを挿入すると見ることが出来る。
何となくつけた報道番組では、俺とルシフェルがやったことが“謎の連続失踪事件“として大々的に報じられていた。
ここ一ヶ月間にこの県だけで百人近くが行方不明になっている。
失踪者達は年齢も様々、彼らに共通する何かはまだみつかっていない。
警察がここ数年活発な布教活動で目立っている新興宗教団体に家宅捜査を行ったものの、拉致監禁の事実は掴めていないとのことだった。
事件が大きく取り沙汰されたのは、県内にある中高一貫の私立学校高等部において一度に八十一人もの人間が失踪したことがきっかけだった。
目撃者の証言では、失踪した生徒や教師は苦しむこともなく突然姿を消したという。
その様子をスマートフォンで撮影していた者がおり、動画投稿サイトに映像をアップロードしていた。
そこに妙なものが映っていると話題を呼んでいる。
「嘘だろ、アレ、俺じゃん……」
テレビ画面に釘付けになりながら俺は映像の中に自分の姿を確認した。
他の生徒や教師とは明らかに違う映り方――――俺だけがブレて見えたり見えなくなったりしていた。
写真や動画に映る心霊現象……まさか自分が幽霊としてその被写体になろうとは。
ニュースキャスターは神妙な面持ちでこう語った。
『動画に映っている謎の人物は、この学校に籍を置く生徒――――少年Aに酷似しているということです。しかし少年Aはこの事件が起こる三日前に学校でのイジメを苦に自宅マンションのベランダから飛び降り、現在意識不明の重体で入院中です。少年Aはネット上に遺書を残しており、そこにはイジメの詳細と、加害生徒や見て見ぬ振りをした教師、同級生の名前が写真付きで晒されていました。現在は閲覧不可能となっていますが……』
今度はコメンテーターが発言する。
『単なる心霊現象とするにはあまりにショッキングな事件です。なりすましの疑いもあるんですが、少年Aのアカウントを用いて所謂自殺サイトの掲示板に“異世界転生、売ります“などと書き込みがあり、実際コンタクトを取った四十代男性がその翌日、失踪者リストに名を連ねているんです』
『一連の事件を受けてこちらの掲示板は炎上し、現在はサイトの管理者により書き込みは削除され、掲示板は閲覧出来ない状態となっております』
「……マジか」
こんな大騒ぎになっているとは知らなかった。
別のチャンネルでは妙ちきりんな霊能力者が登場し、降霊だの除霊だのと宣っていた。UFOによる人体実験目的の誘拐などと騒ぐ奴らもいるようだ。
テレビを消して、俺はしばらく茫然と眠る自分の肉体を見ていた。
時折瞼がピクピクと動いている。
傍らのサイドテーブルには両親が置いたのか、小学生の時に行った家族旅行の写真と俺の部屋にあった雑誌や漫画本が数冊、その上には俺の使っていたスマートフォンが置かれている。
もし、俺がこの世界で目を覚ますことがあったら――――。
「!」
考えはそこで途切れてしまった。
スマートフォンがブルブルと震動している。




