残酷な童話ー1
鏡よ鏡よ鏡さん……この世で一番じゃなくていいのです。
彼が好きになってくれる顔をください。彼が美しいと思う身体をください。
彼を虜にするにはどうしたらいいの……?
すると鏡は言いました。
「まずは人間におなり。王子に恋をした人魚が、薬で人の姿をに入れたように」
次に魔女が言いました。
「あの秘薬を作るにはねえ、血が必要なんだ」
◇◆◇
「誰かいるのか?」
頼りない蝋燭の灯のみが暗い地下への階段を照らす。
下へ降りるに従い、妙な臭いが鼻をついた。
地下にゴミ置き場でもあるのだろうか?
階段を降り終え周囲を蝋燭で照らしてみたが、壁も床も石造りの空間には誰の姿もなく、何かが置いてある訳でもなかった。
ただ吐き気をもよおすような悪臭だけが、何かの存在を主張している。
心臓がバクバクと早鐘を打つ。早くここから立ち去れと言うように。
沸き立つ恐怖を無視して二度三度、念入りに調べてみた。しかし結局何も発見出来なかった。
俺はホッと胸を撫で下ろした。
頭の中で否定しながらも、ここに転移してきた人間の抜け殻が――――つまり死体があるんじゃないかと思っていたから。
馬鹿だな、俺。ホラー映画じゃあるまいし、ルシフェルがそんなことする筈がない。
そんなことをする理由もないだろう。
こんな陰気臭い場所に長居は無用だ。さっさと地上でルシフェルを捜さなければ。
もしかしたらルシフェルはあのソールが怖くて逃げ出しただけかもしれない。あいつ妙に威圧感あるし。
先程は慎重に一段一段降りた階段を、今度は二段飛ばしで上がっていった。一階からの光が差し込んでいる。出口はもうすぐだ。
あ、人影――――その時だった。
ギイィ……バタン。
「え……」
扉が閉まり、ガチャリと鍵をかける音が響く。
「お、おいっ!」
俺は扉をドンドンと叩いた。
「開けろ!開けろよ!!」
どんなに強く扉を叩いても、何度叫んでも、向こうからの反応はなかった。
無情にも蝋燭の火が消えてしまい、俺は暗闇の中に取り残された。
「冗談だろ、また真っ暗闇かよ……ソール!ソールー!あんたどこかで見てるんじゃないのか!?ここから出してくれよ!」
その呼びかけにも誰も応答してくれなかった。
「クソッ……」
石の壁を殴ると拳に痛みが走った。
ムカつく。いやムカつくどころじゃない。
気が狂いそうな程腹が立ち、吐き気までする。
あの時――――扉が閉まる直前に人影を見た。あれは……。
認めたくない。あれは別人だと思いたい。だけど。
見間違う筈がない。
何度も抱いたあの細い身体、ふわりと風になびくやわらかな髪、可愛らしい服を着た女の子――――。
あれはルシフェルだった。




