くちづけることもなく
「あっ……」
ベッドの中で声を上げたルシフェルの胸に顔を埋めながら、俺は低く言った。
「声出したらダメだよ、ルシフェル。親に聞こえる」
「ん……わかっ……あっ、あ……ぁ」
「ダメだってば……ま、ホントは親いないんだけどな。仕事で二週間、九州の方に行ってるから」
「なっ。ナツキのいじわる……あ、んん……!」
笑いながら刺激するとルシフェルがまた声を出す。俺はそれを楽しみながら見ていた。
平静を装う女の子を乱していくのはおもしろい。
ベッドに入ってすぐ、俺は彼女に尋ねた。いいの?と。それはもちろん、こういう行為に及んでいいのかという意味で。彼女は無言で頷いた。
据え膳食わぬは男の恥とばかりに俺は彼女に乗っかった。
ルシフェルはこういうことに慣れているのか、ニッコリ笑って見せた。その余裕を崩したくて俺はがむしゃらに動いた。
「んっ、んん……!は……ぅ……」
何も感じていないふりをして主導権を握ろうとしても、結局は快楽に堕ちていく。
汗をかき、優越感に浸りながら俺は真下にあるルシフェルの顔を見た。
眉を寄せて痛みに堪えているような苦しげな表情を見るのが好きだ。
その顔が見たいから、求められない限り、最中にキスはしない。
我慢出来なくなって素直に俺を求めるカオが、カラダが好きだ。
「も、ダ……メ」
その時だけは、俺が全てを支配している。そう思えるから。
「う」
……スッキリした。
◇◆◇
朝だ。
朝が来るといつも思う。またくだらない一日の始まりだ、と。
しかしこの日の朝は違っていた。
「ホンット睫毛長いな」
「え?」
思ったことが口に出たようで、ルシフェルは目を覚ました。
「ごめん、起こしちゃったか」
ここ最近誰とも話さなかったからか、独り言が増えてきてるような気がする……心のビョーキってやつかな……。
「何考えてるの?」
俺の隣に横たわったまま、ルシフェルがみつめてきた。
昨日も思ったが、やはりとびきりの美少女だ。
けだるい表情、乱れた髪、女の子の良い匂い…毎朝こんなのが横に寝てたらサイコーだな。
――――あれ?おかしくないか?
だって俺、昨日までイジメに遭ってて、誰にも助けを求められなくて、疲れて……疲れ切って死のうとしたんだぞ?
それがどうしてこんな状況に……?
「ナツキ?」
身体を起こし、首を傾げる裸のルシフェルに俺は魅入ってしまった。
しなやかな白い身体、柔らかな髪が乱れて絡みついた首筋には昨晩俺が付けた赤い跡。
「いや……別に。夢じゃなかったんだなって思って」
そう言いながらまた彼女を組み敷いた。
「っ、あ……ダメよ。朝っぱらから……今日はやることいっぱい……」
「もう一回してから、な?」
「ん、うん……」
出会ったばかりの、人間かどうかすらわからないルシフェルに恋したわけじゃない。
口づけることもなく、俺は再び彼女を抱いた。
昨日だって、ただ蓄積された鬱憤を吐き出したかっただけだ。
そんな俺をルシフェルは拒まず受け入れた。




