死と再生を司る者ー1
消滅させる?フェアビューランドを……?
謎の男の言葉に俺とルシフェルは同時に顔を引きつらせた。
「一つの街で人間が次々と消えるのは不自然だ。私はあの時何と言った?」
「均衡を……破るなと」
項垂れたルシフェルが弱々しい声で答えた。
「そうだ。それさえ守れば何をしてもいいと言った筈だ。放っておいても人間は皆いずれ死ぬ。自然の摂理だ。ただ……同じ地域で何人もの人間をあちらに送り――――骸も遺さず持ち去って、お前は何を謀っている……?」
「この場で言わなくてももう知っているんでしょう?あなたには……全てお見通しなんでしょう?」
ルシフェルは目に涙を浮かべていた。
漆黒の闇の中には俺とルシフェル、謎の男の三人だけ。
二人の会話の意味が理解出来ず、俺は口を挟めずにいた。
「そんなにこの男が好きか」
「違う、そんなんじゃない。ナツキは美夕が望んだ相手なの。もうずっと前から……だから私は……」
「言っていることとやっていることがだいぶ矛盾しているぞ」
男の言っている内容は何のことなのかわからないが、その声のトーンからルシフェルを糾弾していることだけはわかる。
ルシフェルの目からポロポロと大粒の涙が零れるのを見て、俺は黙っていられなくなった。
「おい、あんた」
ふいに発言した俺に、男は足元に這いつくばる虫でも見るように俺に冷やかな視線を送った。
「あんた一体何様のつもりだ?ルシフェルを泣かしやがって。どういう事情があるのか知らないが、フェアビューランドを消滅させるなんて俺は……」
「許さない、とでも言うのか?」
氷のように冷たい微笑を浮かべた男は、自分の掌にフウと息を吹きかけた。するとそこから何かが出現し、光を放ち始めた。みるみるうちにそれは球体になっていく。
「な、何だ……?」
それを見てルシフェルが泣き叫び、俺を庇うようして男の前に立った。
「やめて、お願い!ナツキを消さないで!!」
「ルシフェル……消すって……?」
「やめて、何でもする。だから……っ」
泣きじゃくるルシフェルの肩を抱くと、彼女は小刻みに震えていた。
表情を動かさないまま、男は俺達を見ている。
「教えてくれ、ルシフェル。あいつは一体……」
「自分が何者かさえよくわかっていないだろうに、私のことを知りたいか?人間とは本当に……まあいい、教えてやろう」
嗚咽を漏らしながら泣き続けるルシフェルとその横にいる俺を交互に見ながら、謎の男は言った。
「私は、死と再生を司る者だ」




