白と黒の世界
異世界へと転移する時に感じる異様な感覚――――無重力空間に放り出されたような、けれども押し潰されそうなG……それが収まり、俺は目を開けた。
「こ、ここは……!?」
降り立ったその場所は、目的地フェアビューランドではないようだった。
見渡す限り、白。
何もない空間に俺達は立って……いや、立っているのだろうか?それとも浮遊しているのだろうか。身体が地面に着いている感覚がないんだ。
「おいルシフェル、どういうことなん……ルシフェル!?」
隣にいた筈のルシフェルがいない。
俺はたった一人で違う場所に飛ばされてしまったのか?
パニックになり、俺は大声でルシフェルの名を呼んだ。
「ルシフェルー!!どこに行ったんだルシフェール!!」
返事はなかった。
やがて叫ぶ気力もなくなり、俺は今いる白い場所で頭を抱えていた。
頭がクラクラして気分が悪い。吐き気がする。
この空間は全てが白で、天井や壁、ドアなどもない。狭いのか広いのかもわからない。
出口も入口もない、眩しい程真っ白な空間にたった一人。
どうしたらいいんだ、どうしたら……。
息をするのも苦しくて、俺は膝から崩れ落ちた。
自分が仰向けなのかうつ伏せなのかもわからない。
ただただ白い空間で、ぐるぐると回っているような感覚に陥っていた。
「た、たす……け、て……」
死にたくない。助けてくれ。誰か……。
意識が遠退き、目の前が一転、漆黒に包まれた。
死にたくない……俺は生きていたいんだ。
◇◆◇
「う……」
誰かに呼ばれている気がして、俺は目を開けた。
何も見えない。
先程とは違い今度は全てが黒の空間にいるようで、辺りを見渡しても永遠に続く闇のように真っ暗で何も見えなかった。
「どうなってるんだ、チクショウ……」
誰に言うでもなく呟いた一言に返答した者がいた。
「知りたいか?」
「!!」
突然響いた低い声にビクッとなった。
「だっ、誰だ!?」
自分を奮い立たせ大声で叫んだが、返事は返ってこなかった。
「何なんだよ、一体……」
しばらくして、目の前にポウッと青白い光が現れた。
「!?」
光の中には、長い黒髪の見知らぬ男が立っていた。そしてその傍らには――――。
「ルシフェル!」
ルシフェルはその男の隣で虚ろな表情をして俺を見ている。
「ナツキ……」
「ルシフェル、そいつは誰なんだ。フェアビューランドに行く筈だったろ!?なんでこんな場所に……」
「ナツキ……あっ!」
ルシフェルが俺に駆け寄ろうとすると、男は彼女の肩を掴み、動きを封じた。
「何なんだテメエ、ルシフェルを放せ!」
ズカズカと近付き、ルシフェルを取り戻そうと手を伸ばした俺は何かに弾かれたように吹っ飛んだ。
「!?」
事態が把握出来ていない俺の耳にルシフェルの叫びが届く。
「ダメよナツキ、逆らっちゃダメ!!」
一体全体何がどうなってるんだ。
「五十嵐夏生――――こんな男に手伝わせたのがそもそもの間違いだ、ルシフェル」
男はルシフェルに向かって低い声で言った。
「均衡を破るなとあれ程言っておいたのに、お前は何を聞いていたんだ」
「ご、ごめんなさい……」
ルシフェルは明らかに怯えている。この男は一体何者だ?
男は俺の方を見て冷たく言い放った。
「全ては均衡を保つ為だ。あの世界――――フェアビューランドは消滅させる」




