君を連れて異世界へー2
ほんの数週間前まで、俺は死にたいと思っていた。
学校でのイジメを苦に自殺を図った日、突然現れた美少女ルシフェルに誘われ、俺は異世界『フェアビューランド』の存在を知った。
ルシフェルはその世界の創造主だという。
彼女はまだ未完成で住む者も少ないフェアビューランドにもっと住人を増やす為、俺のことを“奴隷“だの“ハンター“だのと呼び、俺の住む世界から人間を転生させろと命じた。
転生の方法は、キス。
唇と唇が触れた瞬間、この世界で存在していた肉体は消え失せて、別の姿でフェアビューランドに現れる。
百人転生させれば俺も晴れてメルヘンチックな異世界の住人になれる。そういう契約だった。
誰も俺を知らない場所で新しい肉体を手に入れて一からやり直せる……そう思っていた。
しかしルシフェルと出会ったその日から、存在すら忘れていた幼なじみの女の子のことが妙に気になるようになった。
病弱で入退院を繰り返していた彼女が今何処でどうしているのか知りたくて、俺は彼女が入院していた病院を訪ねた。
担当医だった男は言った。彼女は三年前に死んだと。
だが実際は違っていた。
幼なじみの美夕は別の病院に入院しており、三年間昏睡状態に陥ったまま生きていた。
今の状態になる前、美夕はずっと俺が来るのを待っていた。
自分のことにかまけて彼女のことなど忘れ、青春を謳歌していた薄情な俺を……俺なんかをずっと好きで、ずっと待ってくれていた。
彼女の日記やスケッチブックにはたくさんの思い出と未来への希望が描かれていた。
ルシフェルは、自分は美夕の空想の産物だと告白した。
フェアビューランドは、美夕が今も見続けている夢の国……。
俺とルシフェルは、そこへ美夕を転生させようと計画した。
転生させるのは彼女の十六回目の誕生日を過ぎてから……彼女が望んだキスシーンを再現してやることになった。
美夕を迎える為にフェアビューランドをより住みやすい、彼女好みの世界にしようと俺は考えた。
街には彼女の好きな菓子や服を売る店が建ち並び、広場には噴水を。
郊外には遊園地や水族館を造ろう。
何だって出来る気がした。
俺だって肉体は飛び降りたことにより傷だらけで、美夕と同じように昏睡状態で病院のベッドから動けない。
だけど俺は今生きていると実感していた。
他の誰よりも、生きている。
美夕の為に。そして自分の為に。
どこへだって自由に行くことが出来る健康な肉体に転生して、新しい人生を――――それが彼女の幸せだ。
そう思い込んでいた。




