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たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*キスから始まる異世界転生*
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美夕の日記ー1

 人生をやり直すなら、異世界はうってつけの場所だと思っていた。

 誰も俺を知らないし、過去なんて喋らなければそれでいいんだと。

 新しい肉体と新しい名前を手に入れて、全て(いち)からやり直すんだと浮かれていた。

 だけど今、俺はこっちに戻りたいと願っていた。

 俺を要らないもの扱いしたこの世界……それはただの被害妄想だったのかもしれない。

 学校の奴らが俺をイジメたのも、許すことは出来ないけれど、もしかするとそれなりに理由があったのかもしれない。

 なのに俺は、不幸だ不幸だと塞ぎ込んで、たった一つしかない自分の命をベランダから投げたんだ。

 美夕のように身体が弱かったわけでも何でもないのに。

 両親からだって、ちゃんと愛されていたのに。

 もう戻れないのか――――そう思うと、涙が一筋、頬を伝った。

 生温かいこの感触は、俺が生きている証にはならないんだろうか。

「諦めないで、五十嵐さん。私はいつか絶対に美夕が目を覚ましてくれる日が来ると信じています。子供達は生きてるんですよ、五十嵐さん!ウチの美夕も、お宅の夏生君も……!」

 涙ながらに美夕の母親は俺の両親を励ました。

 ああ、そうだ。昔は隣同士本当に仲が良かった……。

 美夕に怒られるかもしれないけど……と言いながら美夕の母親はベッド脇の棚からノートとスケッチブックを取り出した。

「あの子、入院中の暇潰しはお絵描きや日記を書くことだったんです。ここには美夕の大切な思い出が……夏生君との思い出がたくさん詰まってるんですよ。美夕は夏生君のことが大好きでしたから」

「二人が意識を取り戻して……また一緒に遊べる日がきっと来るわ……ね、あなた」

「笠原さん、美夕ちゃんに会わせてくださってありがとうございました。また何かありましたら……」

 親達は連絡先を交換し合い、病室から出て行った。


◇◆◇


「日記なんかつけてたのか。絵を描いてたのは知ってるけど……ごめんな美夕、ちょっとだけ見せて」

 俺は眠っている美夕に声をかけてから、彼女の日記とスケッチブックを開いた。

 そこには美夕の描いた夢の世界が広がっていた。

 クレヨンで塗られた草原に白くてふわふわした羊達が遊び、笑顔の男の子と女の子がおり……別のページには王子様とお姫様が城を背景に手をつないで笑っている。

 フェアビューランドだ。美夕が描いた夢の場所、なりたかったもの――――。

 その中に、リボンやフリルがついた服を着た女の子もいた。

「ルシフェル……」

 振り返るとルシフェルが悲しげな笑みを(たた)えていた。

「そう。私は美夕のスケッチブックから出てきたの。彼女の空想の産物……それが私とフェアビューランド」

 夜、子供を寝かせる時に大人が読み聞かせるおとぎ話……俺はルシフェルの話に吸い込まれていった。

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