再会
「美夕が、生きて……?」
ルシフェルの言葉を聞いて、全身に震えが走った。
美夕の担当医だった男から、彼女は三年前に死んだと聞かされていたから。
「ええ。あの医者を操って美夕が死んだと言わせたのは私。ごめんなさい、ナツキ。私……知られたくなかったの。美夕は――――」
「どこだ」
「ナツキ……美夕は……」
「どこにいるんだ、美夕は。会わせてくれ」
ルシフェルの言葉を遮って俺は彼女を問いただした。
「……ここにいるわ」
「何?」
「この病院の同じ階に、美夕も入院してるの」
「……!」
一気に胸に温かいものがこみ上げてくる。自分が昏睡状態に陥っていることなど忘れて、俺は感嘆の声を漏らした。
「ああ……良かった。そうか、生きてるんだな、本当に」
嬉しさのあまり涙ぐむ俺を、ルシフェルは複雑な顔でみつめていた。
◇◆◇
美夕の病室の前で俺は深呼吸した。
会うのは何年ぶりだっけ?三年か……。
病床の幼なじみをすっかり忘れていた薄情な俺を見たら、彼女は何て言うだろうか。
柄にもなく胸が高鳴る。
「幽霊でも心臓がドキドキするんだな」
へらへらと笑いながら心臓の場所に手を当てる俺に、ルシフェルは一瞥をくれたが何も言わず、病室のドアを開けた。
「――――――――」
そこは静寂に包まれていた。
白いベッドの上には黒髪の少女。
思い出の中の美夕よりもぐんと大人びた顔立ちで、おかっぱだった髪は長く伸び、つやつやと輝いている。
「美夕……?」
長い睫毛で隠された瞳を見たくて、俺は恐々と声をかけた。
美夕は俺と同い年の筈だが、身体の大きさはとても十六歳には見えなかった。
記憶していた彼女よりももっともっと痩せて小さくなっていた。透き通るように白い顔は生気を感じさせない。
「美夕、俺だよ。夏生……五十嵐夏生」
何も反応を示さない美夕に尚も語りかけるが、彼女はピクリとも動かない。
「眠ってるのか、美夕……」
床に膝をついた俺の頭上からルシフェルの声がする。
「三年前からずっとね」
「三年も……!?」
眠り続けてるのか……!?
「シッ……静かに!」
ふいにルシフェルが小声で叫び、俺に抱きついた。
「おいっ……?」
「シーッ」
ルシフェルは俺を諌めると精神を集中させるように神妙な面持ちで目をつぶった。
「……」
長い睫毛が美夕に似ている気がする。
そんなことを考えていると、ガチャリと病室のドアが開き、一人の女性が入ってきた。
その顔には見覚えがあった。
美夕の、お母さん……。
「さあどうぞお入りになって、五十嵐さん。美夕に会ってやってください」
五十嵐さん……?
促されて大人が二人入ってきた。
「失礼します」
美夕の母親が招き入れたのは、俺の両親だった。




