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たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*キスから始まる異世界転生*
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美夕が望んだ世界ー1

「迷走神経性反射?何なんだ、それは」

 俺は街から呼んだ自称医者であるエルフ耳の男に説明を求めた。

 あの後、ルシフェルはすぐに意識を取り戻した。

 起き上がろうとする彼女を無理矢理寝かせ、俺は街へ走り医者を連れて来たのだ。

 俺とエルフが寝室のドアを開けた時、ルシフェルは乱れた髪を綺麗に整え、新しい服を着て笑顔で俺達を出迎えた。


「迷走神経性反射は……ですね、精神的ショックや強い痛み、極度のストレスが原因になって自律神経のバランスを崩すことによって起こる失神なんです。倒れる前、姫様はどんなご様子でしたか?」

 淡々と抑揚のない声で喋るエルフに全てを見透かされているような気がして、俺は目を逸らした。

「ど、どんなって……」

 口ごもる俺に代わってルシフェルが答えた。

「別に。少しモメただけよ。フェアビューランドの皆を幸せにする為に、どうしたらいいか真剣に話し合っていたの。そしたらちょっと熱が入り過ぎちゃって……」

 てへ、と舌を出すルシフェルはいつもの明るい彼女だった。

「……まあ、そんなところです」

 ルシフェルに合わせてそう言うと、エルフはジイッと俺を睨んできた。そして大きなくため息を吐いた。

「ナツキさん、姫様はこの世界の創造主。いわば神です。あなたがどういう方なのかは知りませんし知ろうとも思いませんが、姫様に害を成すのだけはやめていただきたい。私を含む全ての住人はこのお方に救われたんです。どうか姫様を大切になさってくださいよ。でないと……」

 たっぷりと時間を置いてからエルフが言う。

「あなた、この世界でも生きられなくなってしまいますよ」


◇◆◇


「ごめんな、痛かっただろ?ついカッとなって……俺、あんなことするつもりじゃ……本当にごめん!」

 エルフが去った後、俺はルシフェルに平謝りした。

 初めて頭を下げた俺をしばらく無言で眺め、ルシフェルは言った。

「痛くはないの。痛みはこの世界に存在しない」

「え……?」

 言っている意味がわからず、俺は首を傾げた。

「この世界を創る時、決めたの。ここに住む人も動物も皆、怪我をしても病気をしても、痛みは感じない」

 ルシフェルは柔らかく微笑みながら続けた。

「それが美夕の望んだ世界」

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