狂気ー1
吐き気がする。自分自身に吐き気がする。
俺は、一体何者だ……?
◇◆◇
校門を出たところで俺はルシフェルが出てくるのを待っていた。そして出てきた彼女が俺をみつけて何か言う前に唇を唇で塞ぎ、フェアビューランドへと移動した。
「……ナツキ、ここで何をする気なの?」
険しい表情で尋ねるルシフェルに俺はへらりと笑った。
「確認するだけだよ。学校の奴らがきちんと家畜として転生したかどうか」
「全員、牛や豚にしたの!?」
信じられない、とでも言いたげなルシフェルに俺は眉を寄せた。
「悪いのか?お前が言ったんじゃないか。今のままじゃハンバーグ食えないって」
「それは……言ったけど……」
話しながら歩いていくと、中央広場辺りに人だかりが出来ていた。
そこで見たものは、俺が無理矢理転生させた学校の奴らがフェアビューランドの住人達によって仕分けられている場面だった。
ただ“家畜に転生しろ“と念じただけだったからか、種類や大きさなどはバラバラだった。ある者は牛、ある者は豚、鳥、羊……。
繁殖させる為に雄なのか雌なのかを調べられ、出来たばかりの家畜小屋へと連れられていく動物達。
動物なのでその表情は読み取れない……だけれど、ここフェアビューランドに転生した者は前世の記憶を失わない。
俺は一番近くにいた豚と目を合わせてみた。
「ブッ、ブキー!ブキー!」
俺を見た途端、豚は暴れ出した。
「誰だぁ、お前。そんな姿じゃ前世で誰だったのかわからないな!ハハハッ……」
「危ないですよお、ナツキさん。下がって下がって」
街の住人の誰かが吹き出して笑う俺に注意した。豚は鼻息を荒くして暴れている。
「こらっ、暴れるな!狂暴な奴だなあ」
「決めた、こいつから食おうぜ!」
「そうだな。脂がのってて旨そうだ」
皆大喜びだった。
「こんなにたくさんの家畜を送ってくださってありがとうございます、ルシフェル様!今夜は祭をすることになりました。ごちそうですよ~!是非いらしてくださいね、ナツキさんと一緒に」
家畜の出現に歓喜する住人達に笑顔を振りまき、俺とルシフェルは城へ向かった。
◇◆◇
城の寝室で、俺は天蓋付きのベッドに大の字に寝転がり、ルシフェルは窓辺に立ち外を眺めている。
「皆喜んでたな」
「ええ」
目を合わさずに相づちを打つルシフェルは、何か言いたそうにしている。
「祭にごちそうだってさ。後でまた街に行こうぜ」
「……」
「当面の間の食糧と、種別ごとに繁殖させれば……毎日とは行かないまでも、動物性タンパク質が補給出来るな、ウン」
滔々と喋り続ける俺とは逆に、ルシフェルは押し黙っている。
「あー、腹減ったわ。なあ、ルシフェルも腹減っただろ。祭のごちそうって何だろな」
「……」
ルシフェルは返事もせず、振り向きもしない。
「おーい、ルシフェル、何とか言えよ~」
「…………なの?」
「あ?」
ようやく俺の方に向き直ったルシフェルは、初めて見せる表情をしていた。
「平気なの?ナツキ、友達にあんなことして……皆、食べられちゃうんだよ!?」
「……トモダチ?」
その言葉に、俺の中の何かが切れた。
バン、とベッド横のサイドテーブルを叩いた大きな音にルシフェルがビクッと震えた。
俺はつかつかと窓辺にいる彼女に近付き、細い腕を掴んでベッドに投げ飛ばした。
倒れ込んだルシフェルは悲鳴を上げる余裕さえないのか、ただ瞳を大きく見開いて俺を見上げた。
赤い宝石のような瞳が不安げに揺れている。
壊したい。
それ以外考えられなくなった。




