親子の対話ー2
「はあ?ナンダソレ」
俺と目も合わさず、唐突に謝罪した父に俺は憤った。
「一体、何のつもりだ!」
怒鳴り声にも反応せず、父はただぼんやりと空中に視線を漂わせ涙を流した。
「何泣いてんだよ!?なんでアンタが泣くんだ!泣きたかったのはこっちなんだよ!!俺がどうして学校に行かなくなったかアンタ知ってるのか?知らないだろう!電話したのに、話を聞いて欲しかったのに――――いつも肝心な時に俺をほったらかしにしやがって……!!」
「夏生……」
「!」
父が顔を両手で顔を覆い、話し出したので俺は叫ぶのをやめた。
いいぜ、聞いてやるよ。
ルシフェルと出会ったあの日、俺はイジメを苦に自宅のベランダから飛び降りて死ぬつもりだった。
彼女が現れなかったら今頃俺は死んでいた。
そうなっていたら、父は保護責任者遺棄の罪に問われないんだろうか。問われるべきだ。
イジメの加害者の名前はノートに書き残した。ネットにも顔写真付きで名前や学校名を書き込んでやった。それが俺を死に追いやった者達へのせめてもの復讐だ。
それくらいしか、俺には出来なかった。
父だって加害者の一人だと言える。俺はSOSを出していた。だが、父はそれを無視したんだ。
だから……。
「夏生、私は……知らなかったんだ。お前がイジメに遭っていたことを。本当にすまない……!そんなに苦しんでいたなんて……仕事に没頭することで、母さんのこともお前のことも考えないようにしていた。ちゃんと向き合うのが怖くて、私はずっと逃げていたんだ……」
学校の担任から、息子さんがイジメに遭って登校拒否になってますとでも連絡を受けたのだろう。
それを俺本人から聞く機会はあったけれど、父はそれを無視していた。俺にはそれが許せなかった。
だけど……嗚咽を漏らし、肩を震わせながら涙を流す父の姿を見たら、なんだか溜飲が下がった気がした。
俺の為に泣いているんだと思うと、何故だか俺も泣きたくなった。
「今回九州に行っていたのは、仕事の為だけじゃなかったんだ……母さんと会ってね……今さらだが、そのぅ……家族としてやり直そうと思ってね……今の会社にはもう辞職願を出している。お前さえ良ければ一緒に佐賀に行って、家族三人で暮らせないかと……」
寝耳に水だった。
だけど、俺は迷うことなく即答した。
「いいよ……」
少しだ。ほんの少しだけ、胸が温かくなった。
父は、顔を上げることなくしばらく泣いていた。




