表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*キスから始まる異世界転生*
18/79

夢の世界-5

「では、私はこれにて失礼します。あ、すいません、最後にもうひとつ」

 獣耳娘(けもみみむすめ)は去り際に紙と鉛筆を取り出し、なにやらさらさらと書き始めた。

「何?これ」

「あの掲示板の文章ねー、アレじゃなかなか人は集まりません。こういうのはどうです?」

 転生志願者を募集するキャッチコピーをいくつか箇条書きしたメモを俺に手渡し、彼女は走り去っていった。

 街の方へ向かい小さくなっていく背中に手を振りながら思い出した。キスした瞬間に流れ込んできた、あいつがこっちに転生する前の、魂の持ち主の記憶を。

 前世では会社でイジメに遭って退社したけど、大手広告代理店に勤務してたんだよな、あの人……。

 あの人はそこでは生きていくことが出来なくて死を選んだ。そしてこっちじゃあんなに明るく笑って、迷いなく幸せだと言う。

 前世の辛い記憶に苛まれて眠れない夜はないんだろうか。

 イジメられた経験が邪魔をして、人付き合いに臆病になったりしてないんだろうか?

 ……ああ、ここではきっと、それは全員共通のものなんだ。

 誰にだって触れられたくないことはある。

 たぶんフェアビューランドの住人達は皆そうなんだ。

 自ら死を望んで前世に別れを告げた者達。

 心に過去の傷を負ったまま転生した奴ら……。

 人によって違うかもしれないけれど、死を選ぶ程誰かに傷付けられたり生きていくことに絶望した者が新たな人生を与えられたなら――――きっと前世よりも良い人生を送りたいと願うんじゃないだろうか。

 傷付けたり傷付いたり。そんな馬鹿げたことからは縁遠い生活を、皆が心掛けるんじゃ……?

 ここなら生きていける。こんな俺でも。

「ナツキ、感謝されちゃったね」

 ルシフェルが腕を絡ませてきた。

「ね、あの人も街の人も皆、前世の記憶があるの。ここはそういう場所なのよ。でも、みんな幸せそうだったでしょう?新しい場所と新しい肉体(カラダ)――――他に何を望むの?ナツキ」

「いや……」

 改めて聞かれると、答えは出てこなかった。

 前世の記憶があっても……いや、前世の記憶があるからこそ、今度こそ彼らは幸せを掴む為にそれぞれの人生を大切に生きるだろう。

「わかったよ、ルシフェル。今の記憶は消さなくていい。さっさとこっちの住人になれるように、俺、頑張るわ」

「ナツキ……」

 ルシフェルはこれ以上はないと思える程幸せそうに笑った。

 ああ、俺、お前のこと好きだ。

 なんだか久しぶりに誰かに対してそんな感情を抱いた。

 このフェアビューランドに転生を果たしても、俺、お前の奴隷でいいかも。

 王子様とやらが来たら、今の肉体関係はあっさり解消されるんだろうか。

 彼女が望むなら、それでもいい。俺は邪魔せず身を引くよ。

 ここでは誰もが皆、一度は諦めた幸せを掴める筈だ。

 ルシフェルだって、今度こそ幸せに………あれ?

「ルシフェル」

「なあに?」

「お前の前世って、どこの誰だったんだ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ