早くイキたい
「は、早く……」
跪きキスをせがむ医者を俺は茫然と見下ろしていた。
美夕が、死んだ……?
「ねえ、君。転生させてくれるんだろう?早く私をここから解放してくれ……」
泣きながら縋る医者を無視して、俺は無言でその場を立ち去った。
俺の背中に向かって医者は何か叫んでいたけれど、彼のことなどどうでも良かった。
死んだのか、美夕。
もう会えないのか、美夕。
その日の夜、リビングでルシフェルと見ていたテレビである医者が勤務帰りに病院の前の車道に飛び出し、ダンプカーに撥ねられ死亡したとのニュースが流れていた。
俺は、何も感じなかった。
◇◆◇
「あんまり集まらないな……」
掲示板に書き込んでから三日経ったが反応は薄かった。
文面がまずかったのかな……やはり街角で死にたいオーラを出している奴を捜した方がいいのか。
「ナツキ、ナツキ、お腹すいたから何か食べ行こ?」
どんな酷い扱いを受けても甘えてくるルシフェルは猫みたいで可愛い。
俺と彼女は主従関係にあり、彼女が俺のご主人様という位置づけらしいんだが……どう考えてもこちらが主導権を握っている気がする。
彼女は最初だけ『私は貴様の主人だ』と宣言したが、その後一切高圧的な態度は取らないし、時々文句を言うけれど基本的には俺の言いなりだった。
ゲーム中に話しかけるなと言えば黙って横でおとなしくしているし、押し倒せば抵抗せず素直に抱かれてくれる。
従順で可愛い奴隷。
あー、もうこの子とずっとイチャイチャしながら学校も行かず暮らしていけるんなら、わざわざ死ななくてもいいかな……なんて思えてくる。
しかし現実はそう甘くない。
あと数日で親が帰ってくる。
現在俺は無断欠席中で、自宅の留守電には学校からのメッセージがわんさか録音されている。
この世は面倒臭いことであふれている。
美夕がいないこの世になんか、未練はないぜ……いや、元々ないんだが。
さっさとあのほんわかした異世界に行きたい。
行かなければ。
外に行く為にパーカーを羽織りながら、俺は決心した。
さっさとノルマ達成して転生してやる!
◇◆◇
十人目を転生させ、俺とルシフェルはここ最近の行きつけになったファミレスで食事していた。
「あと九十人だね」
エビグラタンを頬張りながらルシフェルが言った。
「最近仕事熱心だね、ナツキ」
「さっさと転生したいからな」
一応人目を避けてはいるが、最近は結構なりふり構わずサクサク異世界へと人間を送っている。
同じ街で人間が十人消えてもさほど騒ぎになっていないのが不思議だった。
他人のことなんかみんな気にしないってか?
世も末だね。
そんなことを考えながらハンバーグをぱくついていた俺は、ルシフェルがニコニコ笑いながらこちらを見ていることに気が付いた。
「おいしい?」
「え?ああ、旨いよ」
「ハンバーグ好きだもんね~、ナツキ」
「……そういえば」
突然、どうでもいいようなことが気になった。
「ルシフェル、なんで俺の好物がハンバーグだって知ってんだ?」