死にたい人、この指止まれ
「これでヨシっと……」
キーボードのEnterキーをポチッと押した俺を、ベッドに寝そべったルシフェルは不思議そうに眺めていた。
「コンピューター扱えるんだね、ナツキ」
「扱えるって……こんなのたいしたことじゃないさ。おもしろそうなサイト見たり、ゲームをインストールするくらいしか出来ないよ、俺には」
「でも、今のカチャカチャやってたやつで、フェアビューランドへ転生したい人が集まってくるんでしょう?」
「そ」
“死にたい人、この指止まれ。この世で一番簡単で楽な死に方教えます。詐欺や宗教ではありません。興味のある方は連絡ください“
俺はとあるサイトの掲示板にそう書き込んだ。
自殺願望のある連中が集まるサイトの掲示板だ。そこにはいろんな自殺のやり方なんかが載っている。
俺もほんの数日前まで、ここのサイトで調べまくってた……。
結局選んだのはあまりオススメ出来ないとされている投身自殺だったけれど。
「その辺を歩いてる人間から死にたい奴を捜すのは、どう考えても効率が悪いからな。俺が百人転生させた後、この仕事を引き継ぐ奴にも教えるんだぞ」
「……うん」
頷いたルシフェルは何故か暗い、寂しげな顔をしていた。
◇◆◇
「どこに行くの?」
身仕度を整える俺にルシフェルが尋ねた。
「餌は撒いた。後は死にたい奴らが湧いて来るのを待つだけだから、今日は休みをくれよ、ご主人様」
「だから、どこに行くの?」
ルシフェルはドアの前に立ち塞がり詰問してきた。
「……」
しばらく逡巡してから、俺は答えた。
「ちょっと、友達に会いに」
……美夕に、会いに。
理由はわからないけれど、ルシフェルに出会ってからずっと、俺は幼なじみの美夕のことばかり考えるようになっていた。
何の悩みもなかった幼い日の思い出……記憶をたどればたどる程、会いたいという気持ちに抑えが利かなくなっていた。
そして、何故かそれをルシフェルに言う気にならなくてはぐらかした。
「他にもいろいろ行くからさ、今日は別行動な」
「えー?ヤダぁ~」
「何か旨そうなモン買ってきてやるから。な?頼むよ」
まとわりつくルシフェルを振り切って、俺は美夕が入退院を繰り返していた病院へと向かった。
◇◆◇
最後に会った時、美夕は病院のベッドの上にいた。
彼女の病名は知らない。
『美夕の病気、ここの病院じゃないとダメなの。ママが言ってた』
彼女本人がそう言っていたのは覚えている。
もしかしたら、またあそこに入院しているかもしれない。
引っ越し先を知らない俺には、それしかなかった。
美夕に会ったら何て言おう?
まずは……長い間見舞いに行かなかったことを謝ろう。後は……彼女の反応次第だ。とにかく今は、早く彼女の笑顔が見たい。
病院に着いた俺は真っ先に受付に向かった。