欲望
「あ……ぁ、ん……」
動く度にギシギシとベッドが音を立てる。
俺の下にあるのは、汗ばんだしなやかな身体。
攻め立てればホラ、悲鳴に似た喘ぎが聞こえてくる。
「ん……や、ぁ……っ」
「……嫌?ならやめる?」
わざと意地悪を言うと涙を浮かべた瞳で乞う。
「嫌じゃ、ない。あ、はぁ、もっ……と……」
ただもうそれだけで、
「もっとして、ナツキ……」
満たされる気がする。
生きてる。俺は、生きてるんだ。
◇◆◇
「なあルシフェル、なんで俺なんだ?」
ルシフェルの柔らかい髪に指を絡ませながら、俺は聞いた。
目を閉じて快楽の余韻に浸っていた彼女は目を開けはしたものの、何も答えなかった。
「昼間のあの男、きちんと転生したかな」
ボソリと呟いてみても、彼女は反応を返さない。
「引っ込み思案クンで助かったぜ。大声出されたり、抵抗されて殴られたりしたらたまんねー」
構わず喋り続けると、彼女は何度か瞬きをした。
赤い瞳が薄暗い部屋の中で妖しく光る。
「なあ、なんで俺を選んだんだよ」
「……」
まただんまりだ。
「何人送ったら、俺もフェアビューランドの住人にしてくれるんだ?」
「……百人」
返ってきた答えにガバッと身を起こすと、ルシフェルは不機嫌そうに俺を睨んだ。
「百人?」
「そう、百人。百人フェアビューランドに転生させてくれたら、あなたにもあっちでの新しい人生をあげる」
そう言ってルシフェルはまた瞳を閉じた。
◇◆◇
「百人……」
夜も更け、寝入ったルシフェルを見ながら考えていた。
めんどくせえ……。
パパッと転生、新しい人生をスタート!じゃダメなのか。
俺が送った奴なんて、今頃全てから解放されて新しい人生を謳歌してるだろうに。
なんで俺だけハンターとかにならなきゃいけないんだ?
昨日ほんの一瞬だけ滞在した緑豊かなフェアビューランド。
あの場所で村人DとかEになって暮らしたい。
人間関係の構築にも細心の注意を払うつもりだ。
今度は他人の機微に敏感になる。
二度とあんな目に遭わないように――――……まあ、いいや。それはあとで考えよう。
早く欲しい。新しい自分と新しい環境。
今度こそ失敗しないよう、やり直すんだ。
そう、今度こそ……。
なんだか眠れそうになかった。
妙に感情が高ぶって、俺はスヤスヤ寝息を立てて眠っていたルシフェルを乱暴に仰向けにした。
「な、何……!?」
驚いたルシフェルはのしかかった俺の肩をぐいと押し返そうとした。
「もう一回」
「ええ……?ヤダ、眠い……」
「いいからヤラせろよ」
「……」
我ながら最低な台詞を吐いた。
なのにルシフェルは何も言わず受け入れた。
肩を押していた手を降ろし、何も抵抗せずに俺に抱かれた。
心のどこかですまないと思いつつも、それを言葉にはしなかった。
下にある白い身体が自分のモノだと思えば、いくらでも利己的になれる気がして。
欲望のままに、俺は動いた。
ルシフェルはそんな俺を悲しそうにみつめていた。
壊れるほど激しく揺さぶっても、やめてとは言わなかった。
この女にとって、俺は一体何なんだろう?
浮かんだ疑問はすぐに掻き消えた。
熱を持つ自分自身を持て余していた。
今は欲望のはけ口が欲しい。
それだけだった。
終わった後も、ぐったりと横たわるルシフェルに優しい言葉ひとつかけずに俺は彼女に背を向けて眠った。
知ってる。俺は最低だ。