カウンタ―越しの恋人
薄暗い、Barの店内。
しっとりとした、ジャズが流れている。
フロアには、円柱の大きな水槽があり、中には様々な種類の熱帯魚が泳いでいる。
水槽を照らしている青い光と光の間を泳ぐ熱帯魚が、この空間を、なんとも言えない幻想的な気分にさせてくれる。
まるで自分達もアクアブル―の海の中を泳いでいる気分だ。
カウンタ―には、俺と如月さんの2人だけ…
いつも飲み会といえば、学生や、くたびれたオヤジでいっぱいの居酒屋で飲む事が多い俺にとって、こんな素敵なBarで飲むなんて、たぶん初めてなんじゃないか?
今日は、お互いの気持ちが解かってからの初めてのデ―ト…
銀行ではカウンタ―越しに毎日会えるけど、それとはまた違った感じだ。
こうして如月さんと並んで座って、ゆっくりと見つめ合うのも、もちろん今日が初めてだ。
久しぶりの恋愛は、嬉しすぎて俺は妙に舞い上がっている。
『ここ…すごく素敵なお店ですね…』
静かで、ゆっくりと話ができるようにと、如月さんが予約してくれたのだ。
『そう言ってもらえると嬉しいです……このお店、実は私が設計したんですよ。泉さんに、気に入ってもらえて良かったです』
お酒の弱そうな如月は、口を付けたカクテルが効いているのか、上気している頬は、ほんのりと赤い。
いつもは、さわやかな笑顔で物腰柔らかく、大人の雰囲気が漂う「お客様」としての如月さんしか知らなかったから、こういう可愛い一面の如月さんを知る事ができて、嬉しい。
『…如月さんと恋人同士になれるなんて…俺、本当に嬉しいんです。うちの支店でも如月さんは、誰が如月さんの番号カ―ドを窓口で引くか…って事で、すごいバトルしてますから…結構競争率高いんですよ』
『…そんな事、全然気が付きませんでした。…ただ私は銀行に行って、呼ばれた窓口が泉さんだったらいいな…って毎日思ってましたから…』
お酒の力を借りて言ったとはいえ恥ずかしくなったのか、如月さんは、さらに顔を赤くしてカクテルに飾られているチェリ―を指で軽く突つきながら続けた。
『それに私の方こそ…こうして泉さんと一緒にいられるなんて…私が泉さんに気持ちを伝えたところで、きっと引かれると思ってましたから……同じ気持ちだったと知って、どんなに私が嬉しかったか…泉さん、わかりますか?』
如月さんの俺を見つめる潤んだ眼差しに、吸い込まれてしまいそうだ。
あぁ…そんな目で俺を見つめないで下さい。
ヤバイぞ俺……
今日、このまま理性保てる自信なんてないです…
如月さんと付き合ってる事が窓口のお姉様方にバレてしまった時には、支店の女子行員全員を敵に回す事になるだろう。
でも、そんな事構わない。俺の隣には、こんなに可愛い、素敵な恋人がいる…
じっと見つめる如月さんの瞳が、キスして欲しいとおねだりしているようだったから、唇に軽くキスをした。
如月さんの甘い唇が、もっと…と、おねだりするように俺の中に入ってきた。
如月さんの「おねだり」の上手さに、すっかり煽られっぱなしの俺…
2人の長〜い夜は、まだ始まったばかりだ……