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友人が異世界に攫われたのですが。  作者: もざ
出逢い
4/8

加藤と小龍とはじめまして

やっと異世界らしい生き物が出てきました。

(たいしたことはないですが、若干のグロテスク注意です。)

結論から言うと、遠目に見えた銀色は、獣の尻尾であった。


「これはもう、観念するしかないかもねぇ…。」


諦めとともに呟き、肩を落とす。約2kmの距離をほんの数分で移動してきた加藤が見つけたのは、美しい銀色の尻尾を尻から生やし、うつ伏せに倒れた()()()()()()()()だった。2m程の身長に、服の上からでもわかる筋肉質な身体。ところどころ破れ、薄汚れてはいるものの質の良さそうな服。金色の肩パットや袖口の飾りボタンが美しい、上下白色の軍服のようなデザインである。身体中に無数の傷があり、とくに頭からの出血が酷い。周囲に流れた血液は、まだ乾ききってはいなかった。


「もしもーし、生きてますかぁ?」


血だまりに躊躇なく近づき、彼の肩辺りを強めに叩く。反応はない。そっと首筋に触れる。冷たい。脈を探ってみる。感じない。


「うーん…でも、なーんか、生きてるような気が、するんだよねぇ。」


脈もなければ、生き物としての温かみも感じない。それでもなぜか、まだ生きているように感じてしまった。少し悩み、倒れた背中の、心臓辺りに直接耳を当ててみる。何も聞こえない。集中し、耳を澄ます。またあの()()()が身体の中を移動し、集まってくる。ド……ド…ト…トクン。()()()()。弱々しくも確かな心音らしき音を確認し、ほっと一息ついて耳を離した。


どうしたものかと思いつつ近くの岩に腰かけ、立てた片膝に顎をのせて考え込む。数段良くなった耳が、遠くで転がる石の音や風の流れ、他にも判別のつかない様々な音を拾ってくる。左右のバランスが悪いと感じれば反対の耳も追いつき、もっと聞きたいと思えば、また応えるように聴力が上がっていく。キモチワルイけど、便利な身体になったもんだぁね、と独り言ちる。


岩だらけの谷、獣の耳と尻尾を持つ銀髪の青年、変わっていく身体、昨夜の魔法陣。考えるべきことは沢山あった。これが夢でないのなら、少なくともこれまで30年ほど生きてきた世界の常識は通用しない場所に来てしまったのだと考えて良いだろう。お約束だから、と頬を抓ってみる。もちろん痛…あれ、痛くないな。夢かもしれない。頬を抓む指先に力を籠めてみる。そろそろ慣れてきたあの()()()が集まって……ブチン。()()()()()()()()


抓んだままの肉片を呆然と見つめる。残った3本の指で頬に触れる。べちゃり。右手が血だらけになる。患部から流れ、顎から垂れる血液が、気に入りの舞台衣装を朱く染めていく。()()()()()。徐々に広がっていく染みを眺め、そのあまりに非現実的な光景に、脳が理解を拒否する。そうだ、少し眠ろう。そのうち目覚ましが鳴って、ヘンな夢見たなぁなんて思いながら、仕事に行くんだ。だってこれが夢なのは、もうわかったんだから。


そんな風に考え、加藤は意識を手放した。




ギー、ギギー。ギャー、ガギャー……ギギギー!!


「……目覚ま…し……。」


どれくらいの時間がたったのか。明らかに目覚ましではない耳障りな音に、意識が浮上した。


チリッ。右手の中指に、鋭い痛みが走る。何の痛みか確かめる前に、()()()()()()()()()()()()()喜びを感じる。マゾではない。


しかし目を開けてすぐ、まったく嬉しくない事態に気が付く。加藤は未だ、岩の上に座っていた。


眠りについたとき、すでに傾きかけていたはずの日は頭上で輝き、谷底とは思えない程に明るい。椅子で長時間眠ってしまった時のような強張りを感じて、身体を伸ばす。両手を持ち上げ、さらに伸ばそうとしたところで、また指先にチリリと痛みを感じた。


「…なぁに?キミ。」


中指の先に、トカゲのような生き物が喰いついていた。腕が持ち上げられたことで宙吊りになってもなお指を離さないソレを見る。記憶にあるトカゲよりも、少し胴体が長い。黒っぽく細かい鱗は、日の光を反射して紫にも緑にも見える。じっと見つめていると、その生き物の爬虫類らしい、縦に切れ込まれたような瞳と目が合った。金色の虹彩に鱗と同じ色合いの瞳孔。綺麗だな、と思う。しばらく見つめ合っていると、その生き物がどことなく申し訳なさそうな表情を浮かべた気がした。気まずそうな、とも言えるかもしれない。もちろんトカゲの表情が変わるわけもないのだが、その美しい瞳にそんなような色を浮かべた気がした。


たっぷり数十秒見つめ合っただろうか、ジュルリと指先を強く吸われる感覚を最後に、トカゲが口を離した。軽やかに空中で1回転し、シュタっと岩の上に着地を決めてそっぽを向く。ポタリ。挙げたままの指先から血が一滴落ちる。ツーンと取り澄ましているトカゲ。その姿は、別に何もしてないですよ、とでも言いたいようで。加藤は思わず破顔した。


抓んだままだった肉片はカラカラに干上がっており、手にベットリとついていたはずの血は綺麗に拭われている。コイツ、舐めたな。と思って可笑しくなる。付いていた分の血を食べ終わって、新鮮な血を吸おうとしたところで目覚めてしまったのだろう。ちょっと可哀想なことをしたかも。そんな風に思ったとき、トカゲがピクリと反応した。


「ギャー!ガギャー!……ギギギー!!」


さっきの耳障りな音は鳴き声か。と納得し、トカゲの視線を追う。すっかり存在を忘れかけていた銀毛の青年に、50cm前後の見たことのない生物が飛び掛かっていた。昔、図鑑で見た小型の恐竜のような、シュッとした身体に鋭い歯と爪が見える。どこからともなく現れたその生き物はしかし、倒れたままの青年に取り付く直前にピタリと静止し、こちらを一瞥するとどこかに逃げていった。隠れていたらしい仲間たちも一緒にピョンピョンと跳ねていく。いくら小さいとはいえ、あんなものの集団と戦って勝てる気もしなかったが、どうやらかなり臆病な生物のようで安心した。


「なに、今までこうやって守ってくれてたの?」


鳴き声ひとつで自分の数倍もある相手を追い払ったトカゲに声をかけると、言葉が通じたとは思わないが、こちらに目線を向け、どことなく誇らしげな様子を返された。フンっと、偉そうな鼻息まで吐く。え、トカゲって、鼻あるんだったっけ。


「そっか。ありがとう。……お礼にってわけじゃないけど、もし欲しいなら、ちょっとくらい吸っても良いよ?」


鼻についての疑問はさておき、そう言って血の固まりかけた中指を差し出してみる。きょとん、としばし固まったトカゲはしかし、指先とこちらの顔を交互に眺めてから、そっと咥えるように噛みつき、遠慮がちに吸い始めた。気に入ったのか目を細め、美味しそうに血を吸うトカゲに、加藤はゆったりと話しかける。


「あのさぁ、キミさえ良ければなんだけど。しばらく僕と一緒にいてくれないかなぁ?どうやらまだしばらく、この夢から覚めれそうにないんだよねぇ。…さっきはなかった痛みもあるし、もしかしたら、本当に移動してきちゃったのかもって思うんだぁ。」


トカゲの視線がわずかに動き、話す加藤を一瞥してまた目を伏せる。


「もちろん、一緒にいてくれるなら、血液くらいいくらでも分けてあげるし。…あ、でもなぁ……今はなんでか、あんまりお腹もすいてないんだけど。たぶんもう丸1日以上、何も食べてないからさ。たぶん、せめて水だけでも飲まないと、身体が血を作ってくれないと思うんだよね。」


そこでピクリとトカゲが身体を揺らし、じっと考えるように加藤を見た。ジュルリと音を立てて強めに吸いつき、口を離す。


「だから、僕が干からびちゃうまでの間だけでもイイんだけど……ん?もういいの?そっかぁ…やっぱりもう行っちゃうのかな。残念だけど、もしまた気が向いたら食べにおいでね。」


少し寂しそうにトカゲを見遣り、加藤が笑いかける。


「ぎゃぅー。」


挨拶のつもりだろうか。先ほど敵を追い払ったのとは違うどこか優し気な声でトカゲは鳴く。それから、軽やかに跳躍して加藤から数m離れ、振り返る。


「ばいばーい。」


岩に座ったまま軽く手を振る加藤を見遣り、ため息のように鼻から長く息を吐く。やれやれ、わからないのか。そんな声が聞こえてきそうな仕草であった。


再び軽快な動きで加藤のもとに戻ると、袖の飾りに軽く噛みついて引っ張る。


「ぎゃぅー。」


口を離して、もうひと鳴き。それからもう一度、同じようにして袖を引く。


「もしかして、ついて来いって言ってるの?」


気づいた加藤が少し目を丸くして問えば、仕方ない奴だとばかりにフンっと息を吐いた。


「そっか。ありがとう。」


ようやく立ち上がった加藤を引き連れ、トカゲは道なき道を行く。のんびり歩いているようで、そのスピードはかなりのものだった。


苦も無くそれを追う加藤がふと足を止めた。うろん気に振り返るトカゲに、すまなそうな視線を向ける。


「ごめん。あのさ、あの銀色のヒト。置いて来ちゃった。……とりに帰っても、いいかなぁ?」


1人と1匹は暫し無言で見つめ合い、もと来た道を引き返した。


誤字脱字、他気になる点ございましたらひっそり教えてください。


次は今週中に上げる予定です。

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