語り
それはもうごく自然に、川に落ちた椿が流れに逆らうことができずただ流れていくように、もう後戻りできないほど好きになってしまっていたのです。
ただ、これっぽっちのプライドのようなものはありまして、九州の田舎に付き合って四年になる婚約者のような人がいるとわかりますと、さすがにこれは良くない恋だと、感情に蓋をすることは出来ました。
これまた幸いに蓋に鍵をつけさせてくれるかのように、こんな私を好いてくれる人にも出会うことができ、一瞬は忘れられたかのようなそんな錯覚を抱いたのであります。
それはもちろん、どこかですれ違ったり、メールのやりとりなどをすれば多少は胸が高鳴るようなことはありましたが、それはそれ。
今や恋人という存在ができたという現実に比べれば、恋愛小説やドラマから得る小さなトキメキのようなどこかフィクションじみた非現実でありました。
なにせ、彼はこちらには決して何の感情もないようだったのですから。目の前で、婚約者との関係をあっけらかんと語ってしまえるようなそんな関係だったのです。
なので、あの夜のことは過ちだったと思っています。
フィクションはあくまで非現実でなければいけなかったのです。
今、まさしく鍵は外れ蓋から溢れ出した感情が、自分を殺しにかかっているのです。
この、醜い恋の全貌をご覧いただく勇気がございますか?
ならば、次にお進みくださればいいと思います。
ただし、この恋は決して綺麗には終わらない、それだけは忘れずに。