癖
夜中に金縛りにあった。
薄目を開けたら幽霊がいて、ちょっと体を貸してよと言う。
返してくれる保証がないので私は断るが、幽霊はそこをなんとかと手を合わせて頼んでくる。
幽霊は出来ることなら土下座したいくらいだが、足がないので勘弁してよと頭を下げた。あんまり熱心に頼むので、それじゃあちょっとだけねと私は体を貸してあげた。
とても嬉しそうな幽霊が私の身体にすうっと入ると、代わりに私の魂がほんわりと外に弾き出される。
あったかくっていい気持ち。このまま眠ってしまいそう。
幽霊は私の体を確かめるように手をもみ合わせ、やがてポキポキと指の関節を鳴らした。指が終わると、背骨や首の骨を順繰りポキポキと鳴らしていった。
その間、私は特にすることもなく、部屋の中をふわふわしていた。眠ってしまいそうな心地よさがずっと付きまとっている。
やがて満足そうな幽霊が、すうっと体を抜け出してありがとうと言って、代わりに私が元の体にすぽんと収まる。
私は、いいんだよと答える。体を返してもらったからこそ言えることだ。
幽霊は、関節を鳴らすのが癖なんだけど、体がないからどうしようもなかったんだ、本当にありがとうと何度も何度も頭を下げた。
いいんだよとまた私は答える。また来てよと続けると、幽霊は酷く驚いて、私の死因はこれなんですよ、首の関節を鳴らしすぎて体がおかしくなったんです、いいんですかと聞く。
私はまたまたいいんだよと答える。
さっきのふわふわ、癖になっちゃったから。