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もみじ

 薄暗い部屋のなか、カーテンの隙間からまぶしい光がわたしをいつもやさしく起こす。そんな普通の朝。心も身体も頭もほわほわする気持ち、ほっとする気持ち。まだこのままでいたい。眠っていたい。それなのに、うるさいアラーム音がおだやかで素敵なひとときを台無しにする。乱暴にまぶたをこすり眉間にシワ寄せながら、さっきまでピーピー鳴いていた時計を睨みつけた。10月6日、AM4:00。

「……土曜日だよ…」

 今日は学校ないのに…ぶつぶつつぶやきながらまた時計を睨ける。寝れなくなったので、しかたなく布団をはいでベットからでる。氷みたいな冷たい床と空気が身体に当たって小さく震えた。まるでもう冬みたいな温度。だれかに伝えるわけでもないのに、つぶやく自分に気がついて口元をゆがめて苦笑。自分ってバカだな。おなかが減っているわけでもないのに、ふらふらとリビングへきてしまった。朝ごはんにはの前に、ポットに入れとおいたお湯でマグカップに何茶かもわからない紅茶を入れる。味も色、香りを楽しまない。赤はきらいなの。乾ききったのどにながしこむ。

「変なの」

 熱い液体が自分の身体内をあたためるのを感じた。自分の身体のなかは見れないのに。わかるっておもしろいななんて思いながら空になったマグカップを流し所に置いて、糸のほつれただらしのないダサいジャージままマンションの玄関から飛び出した。おしゃれな可愛い服なんてお金ないから着れないなんて、自分偽って自分をごまかすために自分でつくったヘンテコな鼻歌を歌う。そうすれば、すべてのいやなことを忘れられるような気がして。でも、こないだ注文したピンクのかわいい服がそろそろ届くしピアノの発表会に着たいし、いま幸せだしそのときはちゃんとおしゃれしたいなんて。だけどちょっと恥ずかしい…そんな淡い気持ちでいっぱいな最近だ。

 日本の地形で北のほうはだいたい10月ごろ、町を鮮やかな色で染める紅葉がはじまる。それはそれは美しい秋の名物と周りのみんなはいつもそう呼ぶの。でも、わたしはそうは思えないわ。むしろ、怖い。だから、できることなら見たくない。なのに、どうしてわたし、こんな季節に外にでてしまったんだろう。外にでてから、そう、いま後悔した。

 歩道に沿って大きな木々が3本あった。だいたいの木々の葉はまだオレンジ色なのに、奥の交差点に近い木はなぜか全体的に真っ赤な木がみえる。なんか胸騒ぎがする。落ち着かない心と早くなる心音の雑音を裾の服ごとぎゅっとにぎりしめる。導かれるように木の根元まで行くと、たくさんのかわいい花束が置かれていた。でも、なんかおかしい。まだ胸騒ぎがする。よくみると自分が頼んだドレスに似たドレスが綺麗に包装されていてだれかの写真も飾られていた。

「……だれかが亡くなった…の…かな……?」

 いや、ちがう。このピンクのかわいいドレスは自分のだ。その証拠に自分の名前と自分の写真があったから。真っ白になった目の前に、瞬間的に風が強く舞い上がって真っ赤な真っ赤な葉っぱが横ぎった。

「…あ、そっか…」

 たしかこないだ…。家に帰るのが遅くなった、あの日。こんなような日だった。何気ない普通の日。ア母さんから電話がきて、ピアノの発表会のドレスがくるってきいて、浮かれてたっけ?普通に赤信号が青信号になるのを待ってて、となりにこの木があったような…。で、いきなり身体が重いものに飛ばされて…。

「車にはねられたんだ」

 わたしがそう言った途端、赤い木は悲しそうにうなずいたようにみえた。赤い木の足元にある写真たての日付けから、ちょうど1年たっていた。ああ…じゃあ今日「経験」したことは一体なんだったんだろう。ドレス着てピアノ弾きたかった。お母さんやお父さんともっとお話ししたかった。もっともっと色々、経験したかった。いろいろな感情があったけど、この切ないどうしょうもないことはもう伝えられない。伝える術はもうない。でも…

「あなただけは伝られるね。なら、いろいろと教えてくれてありがとう」

 そう言った彼女は光の粒になって、赤い木のこぼした葉っぱとともに消えていった。もの言わぬ赤い木はただ空を見上げ、彼女に幸せが訪れるようにと、また葉っぱをこぼした。 





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