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非天  作者: 山中一郎
9/42

3-3

「……」


 グアラザ自治領中央塔地下。

 古ぼけた電球が、薄い灯りで暗闇を照らす。

 床に敷かれた絨毯の真っ赤な色が、明滅する電球の灯りに照らされて、闇に浮かんでは消えていく。

 何も見えず。何も聞こえず。

 ケアンは鋼鉄に覆われた部屋で一人、時を待っていた。

 そこは装甲車の第三車両。鋼鉄の装甲で守られた、巨大な十の車両と厚いタイヤで荒地を駆ける、この星で最も強固な乗り物だ。

 グアラザ自治領に装甲車が着いて、装甲車に乗っていた要人たちを降ろした後、ケアンはビジョウに誰の目にも触れられないように、ここまで連れてこられた。

 長い時間、廊下と階段を進んで地下までやって来たのに、その間にケアンは誰とも会うことはなかった。ビジョウがケアンの存在を隠すために、緻密な人払いをした結果である。

 ケアンは胸元に隠し持っていた携帯端末を取り出した。

 発光する画面は仄かに部屋に灯りを足して。ケアンはぼうっと、漫ろに画面に指を当て、新しいメールが来ていないか確かめた。


「やっぱり……、駄目ですよね……」


 予想はしていたけれど、やはり、“彼”からの返信は来ていなくて。

 ケアンの目は寂しさに目蓋を下ろす。

 義母、フライエの弟子である“彼”。

 フライエからのメールが一度途絶えた後、一月振りに送られてきたメールの送り主は、フライエではなかった。

 義母の代わりにメールを送ってきた“彼”が言うには、フライエは仕事で忙しく、メールを書くことができないとのことで。代わりに“彼”がメールを書くことになったのだとか。その日以降、ケアンの文通相手は“彼”となった。

 “彼”、バンボ・ソラキは、ケアンに名乗ることを拒んだ。

 フライエがビジョウに知られないよう、内密にケアンに渡した携帯端末がもし見つかることがあったなら、ビジョウに名を知られ、簡単に探し当てられてしまうに違いないからだ。

 バンボは恐れていた。

 バンボはいくつもの事を恐れていた。

 バンボは自分の名前も、フライエが死んだことも、ケアンに伝えることができずにいた。

 ビジョウの本性すら、バンボははっきりとメールに書くことはなかった。


「お義母様……」


 そうとは露知らず、ひたすらケアンは待っていた。

 巷で噂になっているという非天の男に違いない、“彼”からの返信を。

 バンボのメールで伝えられる外の世界の情報は、ケアンがビジョウや世話係の男から聞かされていた外の様相とは、全く異なる物だった。

 皆が平和に暮らしている筈の塔の外。

 けれど、メールの送り主は、皆が貧しく、危険な世界であると言う。

 ケアンは、自分がずっと信じていたことに疑問を持った。何を信じたらいいのか分からなくなって、彼女は己の目で真実を確かめることを決意した。

 だが、外に出ようと決めた理由は、それだけではない。

 ケアンは何よりも、名も知らぬメールの送り主と、まだ生きていると信じている義母に会いたくて、会いたくて。

 ケアンは涙が浮かんだ目をこすり、振動する車体に、出発の時が来たのだと気が付いて、端末を胸元にしまった。










 喧騒を離れ、ゴミ捨て場。

 皆に忘れられた火葬場に、バンボは戻って来ていた。

 焼却炉の中には、まだフジナミの遺灰が残っている筈である。

 フジナミの葬儀は、まだ終わっていなかったのだ。

 葬儀と言っても、送る人はバンボ一人で、ただ遺灰と骨を埋葬するだけではあるが。

 引きつった音を立てる鉄の蓋を開け、バンボがその中を覗くと、燃え切ったフジナミの体は骨だけを残して、灰と化していた。

 バンボはそれらを集め、火葬場にあった麻袋に入れた。

 それから、バンボは麻袋を持って外に出て、ゴミの山からスコップを掘り出し、とある場所へ向かった。

 ゴミ捨て場の中に寂しく佇む廃屋の中に、一枚のトタンで隠された穴が開いていた。バンボは地面に大きく開いたその穴を降りていく。

 その先には、地下にできた空洞があり、地面に埋まった鉄の壁が屋根となって、一筋の光が差す、開けた広間ができていた。

 広間に差す光が地面に当たる所には、一本の細い樹が生えていた。天から届く僅かな光を受けて育ったその樹には、神秘的な存在感と力強さがある。

 この場所は、バンボが生前のフジナミに教えてもらった秘密の場所であった。

 かつて、フジナミが迷子になった息子を探して辿り着いたというこの地下洞。樹の根本で、フジナミの息子は泣き疲れて眠っていたのだとか。

 バンボが樹の根本にスコップを突き立てる。土を抉って穴を掘る。ざくりざくり、音が広間に木霊する。


「……」


 土を放れば放る程、心に湧き上がる虚しさが、バンボの目を潤ませる。

 居眠りしていた所を叩き起こされた時に見た、フジナミの怒った顔を思い出し。

 一緒に酒を飲んでいるときの、フジナミの砕けた笑顔を思い出し。

 バンボは帰ってこない日々を憂いて、フジナミのいないこれからの未来を想像して。


「くそ……っ、くそ……っ!」


 スコップを地面に差しては返し、差しては返し。


「俺が助けなくちゃいけなかったのに……!!俺しかいなかったのに……!!」


 地面を抉るバンボの脳裏に、死に際のフジナミの顔が浮かぶ。


「俺に……、もっと力があれば……!!そしたら……、そしたら!!」


 フジナミの最期の言葉が、今になってバンボの頭に鮮明に浮かび上がる。


“お前は、後悔しないように生きろよ”


「くそっ!!」


 どうしてこんなにも、この言葉が胸に絡まり付いてくるのか。

 バンボには、死に際のフジナミの顔が思い起こされた。

 悲しそうな顔だったのに、何故あんなにも穏やかに思えたのだろう。優しい表情。優しい声で。

 バンボが土を掻き上げては、スコップを突き刺して、穴は少しずつ深くなっていく。

 後悔しない生き方なんて物が、今、この世に果たしてあるのだろうか。

 誰もが貧しく、不自由なこの世界。ビジョウに従う者ですら、大分マシとは言えど、僅かな財産しか与えられてはいないのに。


“後悔しないように”


 後悔とは、何か。

 やりたいことができなかったことを悔いるのか。やりたくてもやれなかったことを悔やむのか。

 自分のやりたいことは、何なのか。

 バンボの胸に渦巻く感情は、彼に疑問を抱かせる。


“ビジョウはランムリア様を不幸にする。近い未来、奴はランムリア様に本性を見せるでしょう。幸い、ランムリア様は良識のあるお人に成長なされた。しかし、それ故にランムリア様は苦悩なさるに違いない”


 バンボの師である、フライエ・ランスヘルムは言った。

 将来、必ずビジョウがケアンに害を成す。フライエはそう信じていた。だからこそ、フライエはバンボを育て、ケアンを救うための仲間としたのである。


“あのお方を、ビジョウの下から救い出さねばならない。それが私たちの生きる意味。あの人へ誓わなくてはならない忠誠だよ。バンボ”


 バンボはスコップを投げ捨て、遺灰と骨の入った麻袋を手に取った。それを掘った穴の中に入れ、上から土を被せていく。

 フジナミの埋葬を終えると、バンボは両手を合わせて祈りを捧げた。


 ――――どうか、どうか安らかに。


 静かなこの場所で、フジナミが安らかに眠れることを、祈った。

 バンボは祈り終えると、地下洞から出て、地上に戻った。そして、携帯端末を取り出し、ケアンから届いたメールを見直した。


“私を、ビジョウ・グアラザの下から連れ出して欲しいんです。”


 その一文が、バンボに重く圧し掛かる。ケアンに会うということがどういうことなのか、バンボは重々承知していた。


“あなたは誰?お義母様はどうしたのですか?”


 バンボがケアンにメールで吐き続けた嘘。誤魔化し続けてきたビジョウの本性。

 ケアンは何も知らないのだ。義母のフライエが既に死んでいることも、フライエを殺したのがビジョウであることも。ビジョウが本当はどんな男なのかも。この世界がどんなに苦しい物であるのかも。

 バンボが、ビジョウを憎んでいることすらも。

 バンボは、ケアンに全てを誤魔化してきた。


“お父様はとても優しくて、仕事熱心な素敵な方なんですよ。お父様にあなたのことを話したら、一体どんな顔をするでしょうか。あなたもお父様も優しい人ですから、きっと仲良くなれると思いますよ。”


 どう説明すればいいと言うのだ。世界の平和と、父のビジョウを信じるケアンに、全ての真実をどう伝えれば。

 ケアンは真実を知った時、必ず悲しむだろう。


 ――――この人が事実を受け入れられなかった時、俺はどうすればいい?俺がこの人に何をしてやれる?


 ――――無理だ。無理だ。


“お義母様に言われていますから、この機械のことは誰にも言えません。勿論、お父様にも。でも。”


 ――――この人を連れ去って、ビジョウの追っ手から逃げ続けることも、この人の心を救ってやることも、きっと俺にはできないに違いない。


“いつか、みんなで会えたらなって、思います。私は、それがすごく楽しみ。”


 メールの返信をしようと、開いた画面に指を当てたまま、バンボはそこから動き出せない。 余りにも無力な自分に、バンボは運命に立ち塞がる扉を開けない。

 バンボが悩むのは、今、本当にやらなくてはいけないことは何なのかということ。後悔するのではなく、これから後悔しないために。

 バンボにも分かっていた。

 胸に重く圧し掛かったこの焦りを取り除くために、今からバンボが何をするべきか、これから何処へ行くべきか。

 分かっては、いたけれど。

 バンボは端末の電源を切って、それをしまった。

 気持ちが悪い位の青空の下を、バンボは歩き出す。ラスターと約束した正午の時間は、もうすぐそこにまで迫っていた。








「囲め!囲め!!デカブツだ!!」


 グアラザ自治領を囲む荒野を、爆音と共に駆ける十両編成の装甲車。

 その周りを取り囲むように、無数の低空飛行するタイヤを持たない楕円形の小型バイクと、機銃を積んだ四輪車が走行している。

 ケアンを乗せてグアラザ自治領を出た装甲車が、街から遠く離れた所を見計らい、革命軍は装甲車に追い付き、包囲した。

 装甲車を孤立させ、攻めやすくするためである。

 小型バイクで装甲車の横に並び、先陣を切ってダストレイが装甲車に飛びつき、屋根に上った。

 それに続いて、ダストレイの仲間が装甲車に取り付いたのを確認すると、ダストレイは装甲車の連結部に降りて、最後部の車両のドアを壊しにかかる。

 腰の鞘から抜いたナイフは、鍔の裏のスライドスイッチを入れると超高速で振動を始めた。ダストレイはバンボの持っていたナイフと同じ、ヴィブロブレードでドアの縁を軽々と切り取って、車両に押し入った。

 車両の中には、大量の木箱が詰め込まれていた。


「……、こっから探すんですか?」


「そうだ。二人残って、それらしい物がないか探せ。次に行くぞ」


 駆け付ける装甲車の護衛を仲間に任せ、次々にダストレイは車両をこじ開けていく。

 最後部から、前へ、前へと。車両を突破し、仲間に目当ての物を探すよう残らせて。

 そして、ダストレイは辿り着く。装甲車の第三車両。ケアンが乗っている車両へと。


「ここは……?」


 ダストレイが足を踏み入れた第三車両は灯りがなく、今までの車両と比べて、大分雰囲気の違う所であった。

 荷物が詰め込まれている訳でも、物が散乱している訳でもない。床には絨毯が敷かれ、暗くて見えづらいが、奥にはテーブルと椅子が置かれているようだ。


「客室か?」


 ダストレイたちが警戒しつつ侵入してくるのを、椅子の陰から、ケアンは息を詰まらせながら聞いていた。

 装甲車が襲われたと外で騒ぎが起こった時、ケアンはすぐに部屋の灯りを消して、身を隠した。何かあった時にはそうするようにビジョウに言われていたからだ。


「お父様……、お父様お父様……っ!」


 ケアンは身を震わせ、小声で助けを求める。

 遠くで聞こえてくる銃声や、部屋を乱暴に踏み荒らす足音に、ケアンは恐怖した。

 徐々に近づいてくるダストレイたちの足音が、ケアンの恐怖を煽っていく。

 恐怖の余り、ケアンは懐から携帯端末を取り出した。

 端末を両手で強く、強く握りしめ、助けを乞うた。


「助けて……」


 ダストレイの部下が、机を蹴り飛ばした。

 その音にケアンがびくりと体を跳ねさせた、その時、端末がケアンの手から滑り、大きな音を立てて床に落ちてしまった。


「ん?」


 ケアンが顔を青ざめさせて、端末を急いで拾ってしまった時だ。ダストレイが椅子の影に隠れていたケアンを見つけた。


「ああ……、なるほど」


 そして、この豪華な客室と、美麗に着飾ったケアンを見て、ダストレイは合点した。


 ――――探していた物は、これだ。


「あなたは……、誰ですか……?」


 不安そうに尋ねる“それ”を、ダストレイは観察する。


 ――――まだ年若い女だ。ビジョウの愛人か、もしくは身内といったところか。


「そんなに恐れることはありません。僕たちは、あなたを迎えに来たのです」


 ケアンの様子から、ダストレイは即座に導き出した態度と言葉を使った。ケアンに暴れられないように、どうとでも言いくるめられる自信が、ダストレイにはあった。


「じゃあ、あなたが?本当に……、来てくれたんですね!」


「……?」


 一転して明るく変わった、ケアンの表情とその言葉にダストレイは引っかかる物を感じつつ、同時にこの状況は利用できると判断した。


「ええ。あなたのためにここまでやってきました。さあ、参りましょう」


 ダストレイはケアンに手を差し伸べた。年若い女子の運命を絡め取ろうと、狡猾さを隠しながら、優しげに。

 ケアンはダストレイの手に手を伸ばす。二人の手が触れ合おうとした、その直前。


「あの……、私の名前を……、呼んでもらえませんか?」


 ケアンの中に、一瞬芽生えた疑惑。

 本当に、この男がずっと待ち焦がれていた非天の男なのだろうか。

 粛清の日に、ケアンが空中に浮かぶホログラムディスプレイで見た非天の男は、仮面を被り、白い髪の毛を持っていた。非天の男がどんな顔をしているのか、ケアンは知らなかったが、少なくとも、ダストレイの髪は金色ではあれど、決して白くはない。

 それに、ケアンはダストレイが纏う雰囲気に、酷く威圧的な物を感じていた。

 あの優しい手紙をくれる非天の男とは、ダストレイの雰囲気は、ケアンの想像とはどうにも噛み合わなくて。


「名前……、名前ですか……」


「……」


 ダストレイが手を下げて、顔を下に背けた。それから、今度は手を上に伸ばし。


「知りませんね。そんな物は」


 後方の仲間に合図を送り、銃をケアンに構えさせた。


「え……」


「名前は後でゆっくりと聞かせてもらう。遊びはここまでだ」


 革命軍がケアンを囲む。車両の中を踏み荒らし、銃を突き付ける革命軍の男が、ケアンの腕を掴もうとした。

 しかし。

 何かが弾ける音が車両の外から響いてくるのが、革命軍の男たちの耳に届いた。そして、次の瞬間にはもう、彼らの体は炭と化して消えていた。


「なに!?」


 突如、車両の外から壁を溶かして迸った蒼い閃光は、ダストレイとケアン以外のその場にいた全員を焼き尽くした。

 ダストレイは振り返り、仲間たちのなれの果てである、炭の塊を見つけた。

 ケアンも何が起こったのか理解できず、突如消え去った男たちの姿を探して、辺りを見回していた。


「のこのことようこそ。今をときめく、革命軍のリーダー君」


 溶けた壁の向こう、前方車両から連結部を越えて現れたのは、そこに居る筈のない男。

 世界を統べる、最凶の男。

 法衣を纏い、蒼く輝く金色の杖を持ったビジョウ・グアラザが、ダストレイとケアンの前に姿を現した。


「お父様……、どうしてここに?」


「お前を守るためだ。俺がお前を一人で行かせるものか」


 ケアンは複雑な想いを持って、ビジョウの背中を見つめた。ビジョウが助けに来てくれたことを、ケアンは本当に嬉しく思う。

 けれど、これでは。

 これではもう、例え、本物の非天の男が迎えに来てくれたとしても――――


「成程」


 ダストレイが口を開く。ケアンには、ダストレイの声が震えているように聞こえた。


「成程、成程。はめられたって訳か」


 怒っているのだろうか。恐怖しているのだろうか。ダストレイの声は大きくなっていく。


「あの紙っぺら一枚で、俺達をここにおびき寄せたって訳だ!てめえが乗らないと分かれば、俺達がこぞって乗り込んでくると!!そう踏んで仕組んだ訳だ!!!」


「たまには街を掃除しなくちゃならん。ゴミは溜めて、一度に捨てるに限る」


 ダストレイの声に怯えるケアンを抱き寄せて笑うビジョウに、ダストレイは怒りを露わに目つきを変えて。


「上等だ……。ここで決着をつけてやる!お前の座に本当に相応しいのは誰か、思い知らせてやる!!」


 ダストレイはナイフを構え、ビジョウへと切りかかった。










「バンボさん!」


 ラスターと約束した通り、バンボはグアラザ自治領東口へとやって来ていた。

 正午を目前にして、どうやら交易車の準備はほとんど整っているようで。荷台に乗っていたラスターがバンボを見つけると、飛び降りてバンボに駆け寄った。


「来てくれたんですか!でも、出発までもう少しかかるみたいですよ」


「そうなのか」


 ということは、少し時間を潰す必要があるらしい。さて、どうしようかとバンボが辺りを見渡すと、子供が二人、屈んで何か遊んでいるのが見えた。


「あれは……」


 子供たちは地面に落ちている石を拾って、それを次々と積み上げているようだ。

 バンボはその様子に懐かしさを感じた。あれは、昔から広く伝わる子供の遊び。

 石をたくさん積み上げて、山を作るだけの。


「あー、懐かしいですねー。僕もやってましたね、あれ。綺麗に積めたら、願い事が叶うんでしたっけ?」


「ああ。俺もやってたよ。本当に、久しぶりに見たな」


 まだ、弟と一緒に暮らしていた頃、バンボは兄弟揃って石を積んでいたことを思い出す。

 なかなか上手く積めなくて、よく、弟のアンリは泣いていた。

 大きい石を上に乗せようとするからだとバンボが言っても、駄々をこねて、無理矢理乗せようと頑張っていた。

 昔の気持ちを思い出し、バンボは足下に落ちていた大きめの石を拾い、円形に並べ始めた。


「お、バンボさんもやりますか。綺麗にできるかなぁ~?」


「黙ってろ」


 適当な形の石で大まかな形を作り、その隙間を小さ目な石で埋めていく。石の大きさを選びながら、一段ずつ、石の大きさが小さくなるように積んでいく。

 一つ、また一つ。

 石を置く度に、バンボは昔を思い出す。

 アンリ。アンリ・ソラキ。

 何時も泣いていた、バンボの弟。野菜が苦手で、大人を見るとすぐにバンボの後ろに隠れてしまう。臆病だけれど、心優しい子だった。


「兄ちゃん!兄ちゃん!」


 アンリは何処に行くにも、バンボの後ろを付いてきた。そして、自分のローブの裾を踏んで、転んでは、泣いていた。


「遊ぼう、兄ちゃん!遊ぼう!石積んだら、願い事が叶うんだって!」


 アンリはふらふらと歩き回るから、他の人にぶつかっては、怒られて。たまには命すら狙われて。


「たすけてっ!!兄ちゃん!!」


 その度にバンボがアンリの手を引いて、必死になって逃げまわった。

 そんな目にあっても、バンボはアンリを鬱陶しく思うことは決してなかった。多くの人が孤独に暮らすこの世界で、肉親がいることのありがたさを、バンボは幼いながらにも理解していたから。


「兄ちゃん!」


 泣き虫のアンリ。

 一人で何もできなかったアンリ。

 今もきっと、何処かで泣いているのだろう。誰かに傷つけられて、騙されて。

 ビジョウに両親を殺された時、アンリはやっぱり泣いていた。


「くだらない。世の辛さを何も知らずにのうのうと生きているお前たちは。どうしようもなく、くだらない」


 ビジョウの声にアンリは怯え、バンボの後ろに隠れていた。

 だが、バンボは泣かなかった。 ビジョウを睨み、アンリを守ろうと、強く立っていた。


「お母さん……、お父さん……」


 ――――泣いていた、アンリ。


 ――――今も生きているのだとしたら、どんな風に成長しているのだろう。


 ――――でも、きっと。きっと、泣き虫のまま、あいつも変われはしない。ビジョウに絶望を与えられ続けるこの世界で、強く生きることなどできるものか。


 ――――アンリ。俺の大事な弟。きっと何処かで、あいつは今も泣いている。


「……」


 石の山ができあがっていく。

 気付けば、バンボは最後の石を手に取っていた。山の一番上にそれを乗せれば、積み石の山ができあがる。

 バンボは最後の石を、山に近づける。

 胸の内に、願いを一つ秘めながら。


 ――――どうか、どうか。


 ――――どうかアンリが、今も何処かで、幸せに暮らしていますように。


 けれど、最後の石が積まれることは、なかった。

 突如、街中に鳴り響いたノイズは、各所に取り付けられたスピーカーの向こうで、何か音を発する準備がされたことを意味していた。

 地面に転がった石を拾おうとしたバンボに、ラスターが声をかけた。


「バンボさん……、あれ……」


 バンボがラスターに促されて空を見上げると、グアラザ自治領上空にいくつものホログラムディスプレイが現れていた。

 そして、そこに映っていたのは――――


「皆さん、始めまして」


 懐かしい顔だった。

 見覚えのある、バンボのとてもよく知っている顔だった。


「本日よりこのグアラザ自治領で、政府補佐に当たらせてもらうことになりました」


 それは、何処かで泣いている筈の。たった一人の、バンボの肉親である彼が。


「アンリ・ソラキと申します。どうか、お見知りおきをお願いいたします」


 アンリが、十数年振りに顔を見る弟が、空に浮かぶディスプレイに映っていた。


「僕は、宣言する」


「バンボさん!アンリって、アンリ・ソラキって、確かバンボさんの……」


「皆が苦しむこの世界。貧しい生活を強いられる、この世界。僕は――――!」


 バンボはディスプレイを唖然と見上げていた。瞬きもできず、目も心も奪われて、見つめていた。


「僕は、この世界を変えて見せる!必ず、皆が幸せになれる世界にして見せると――――!!」


 見違える程、力強く、真っ直ぐな瞳を輝かせるアンリの姿を、バンボはしかと目に焼き付けた。


「皆様と、領主……、ビジョウ・グアラザに宣言する!!!」









 バンボ・ソラキは震えていた。

 心が、体が。

 ――――あんなに泣き虫だったのに。あんなにか弱かったのに。こんなにも。……、こんなにも。


「アンリ……」


 ――――なんて、立派になったんだ。俺なんかとはまるで違う。本当に強く、はっきりとした意志を持って生きている。

 ――――お前は、俺の知らない間にこんなに成長していたんだ。


「バンボさん……?」


 ――――離れ離れになったとしても、お前はずっと俺の後ろを付いて歩いているような、そんな気がしていたんだ。

 ――――ずっと、あの頃のように。

 ――――アンリは闘ってる。ビジョウと闘っているんだ。俺なんかよりもずっと上手に、勇気を持って。

 ――――本当に変われないままなのは、アンリ。


 ――――お前じゃなくて、俺の方だった。


「ラスター……、悪い……」


「え?え?」


 ――――すまない。

 ――――ありがとう。アンリ。俺は――――


「行かなきゃいけない所があるんだ。だから、お前とは一緒に行けない」


 ――――本当に。どうしようもなく、情けない奴だ。


「……、そうですか」


「ごめんな。準備してもらったのに」


「いいえ、気にしないでください。それよりも、バンボさん」


「ん?」


「なんか、いい顔になりましたね」


 ラスターに言われて、バンボは自分の顔に手を当ててみた。

 少し、頬が吊り上がっているのが自分でも分かった。


「……、ああ!」


 バンボは走り出す。

 今、彼が本当に行くべき場所へ向かって。

 彼を待っている人がいる場所へ向かって。

 ――――間に合うかなんて分からない。分からないけど、どうとでもしてみせる。

 ――――やってやる。何が何でも、絶対に!


「バンボさん!お元気で!絶対、絶対に!また、会いましょう!!」


 ラスターにも、アンリにも、心の中で感謝して、バンボは走る。

 バンボは懐から仮面を取り出して、押し当てるように強く被った。


「おはようございます、マスター。雨は止みましたか?」


「とっくに止んだよ!寝てる場合じゃねえ!!こっから喧嘩の始まりだ!!」


 走って走って、街行く馬車に掴まって辿りついた、グアラザ自治領西口。

 メールによれば、ランムリアが乗っている装甲車はここから出ていったである。

 それを証明するかのように、荒野にはまだ、装甲車が通った場所を示すわだちがはっきりと残っていた。

 西口には、門の前に何台か、車輪のない浮遊式のバイクが止まっていた。ビジョウの軍か革命軍の物かは知らないが、バンボにとってはどちらでも構わない。

 バンボはたむろしていた男たちを飛び越え、バイクに乗っていた男を蹴り飛ばして、そのままバイクに跨った。

 飛び越すついでに男の一人からすり取った袋には、導火線の付いた爆弾が入っていた。

 ――――丁度いいじゃないか。思いっきりぶっ飛ばしたい、今の気分にぴったりだ。


「あ!?なんだこいつ!?」


「こ、この仮面!こいつ、まさか!」


 バイクには鍵もついており、エンジンも万全だ。

 バンボがスロットルを全開に入れると、車体が宙に浮いて、前へと一気に進みだす。

 砂埃を巻き上げて、全速力でバンボは街から荒野へ飛び出した。慌てて追いかけてくる男たちを引きつれて、装甲車の残した轍に沿って風を切る。


「はっはぁ!」


 何故だろう。


「楽しそうで何よりです。マスター」


 こうすることを散々恐れていた筈なのに、バンボは顔がにやけるのを、どうにも抑えられなかった。









「前の車両に行っていなさい。ケアン」


「は、はい……、お父様」


 ビジョウは座り込んで動けないケアンに、顎で前方車両を指し示す。

 ケアンは震えながらもなんとか立ち上がり、手すりにつかまりながら、連結部を通ってドアを開け、車両を移った。

 ドアが閉められ、ケアンがその場からいなくなったことを確認したビジョウは、力無く壁にもたれるダストレイに向き直って、言った。


「俺はなぁ、お前みたいなやつが一番嫌いなんだよ」


 ビジョウに見下ろされながら、ダストレイがゆっくり立ち上がる。

 ダストレイは、全身見るも無残に傷だらけとなり、息も荒い。

 走行し続ける装甲車が激しく揺れる。そのまま姿勢を保てず、ダストレイはよろけ、壁に手を付いた。


「他人よりなんでも上手くできますって顔してやがる。強くてカッコよくて、人望も厚い、充実した人生を送ってますってな」


 そんなダストレイを、ビジョウが蹴り飛ばす。轟音を鳴らして壁にぶつかり、ダストレイは床に転がった。


「女だっていくらでも寄って来るだろう?毎日毎日、とっかえひっかえしてるんだろう?楽しそうだなぁ、おい!」


 ビジョウが杖を強く、ダストレイの肩に押し当てて、突き刺した。ダストレイが悲鳴を上げるのを、ビジョウは愉快そうに眺め、杖を引き抜いて。


「今の自分の様を見てどう思う?誰かに見られたらどう思う?」


 ダストレイが怒りに立ち上がり、ビジョウへとナイフを振った。


「ああっ!!おらぁっ!!」


 次々と振られるナイフを、ビジョウは杖で軽々と弾いていく。ダストレイは次第に焦り、ナイフを構え直して、ビジョウの腹に目掛け、突き出した。


「まるで話にならない。下らないお前は、非天の男にすら遠く劣る」


 突き出されたダストレイの腕をビジョウは掴み、捻り上げた。痛みに呻くダストレイの首をビジョウが掴み上げ、ダストレイの体が宙にぶら下がる。


「死ね。もう十分楽しんだだろう」


 そして、ビジョウが車両の扉を開けて、ダストレイの体を装甲車から、後方へ流れる荒野へと投げ飛ばした。

 空を舞うダストレイの目には、黄土色の荒野と、蒼い空が映った。

 荒野には、装甲車に追走するバイクやら、車やらがいて、ダストレイは迫る地面に、己の最期を想った。

 けれど。

 ダストレイは生きていた。荒野に放り投げられたダストレイの体は、どういう訳か、装甲車の横にバイクで並んだ、非天の男に抱えられていたのであった。


「なんだこいつ、革命軍か?どいつもこいつも、ポイポイ投げられやがって」


 バンボは速度を落とし、装甲車の後方を走る革命軍の車に、ダストレイを投げ入れた。

 慌ててダストレイを受け止めた運転手の男が、装甲車の方へ戻っていくバンボに向かって、何やら騒いでいた。










「もう大丈夫だ。ケアン」


 装甲車の第二車両。

 ケアンが隠れたこの車両に入ってきたビジョウは、優しい声でケアンに言った。

 だがそれも、ケアンにとってはあまり嬉しく感じられることではなくて。

 この装甲車にビジョウがいることを知らなかったケアンは、これでもう外の世界を知る機会はなくなってしまったのだと悟った。


「お父様……、あの人たちは……」


「気にしなくていい。あんな奴らのことを、お前が知る必要はないんだ」


 ケアンは何も知らぬまま。何もその目で確かめぬまま。


「でも……」


「気にするな。どうだっていいことだ」


 ずっと、このまま生きていくのだろう。父に与えられた、狭い世界の中だけで、ずっと。

 ずっと――――


「お前は、何も知らなくていいんだよ。ケアン」


 偉大なる父の言葉に、ケアンは心を閉ざした。

 ケアンは全てを諦めて、込み上げてくる悲しみと、涙を堪えようとしていた。

 父に見えないように俯いて、強く強く目を閉じて。外の世界に憧れる自分を、心の奥に閉じ込めた。

 けれど、ケアンは目を開けた。突如聞こえた轟音に驚き、顔を上げた。

 そして、ケアンは見た。

 ドアを蹴り開けて、後方の第三車両から入ってきた、一人の男を。


「駄目……」


 ケアンにとって、最悪の事態が実現する。

 ビジョウと非天の男が、出会ってしまう。非天の男が、殺されてしまう。


「駄目……、来ちゃ駄目……」


「なんだ、お前か。非天よ」


 その男、天に非ず。

 仮面を被り、白き鱗粉身に纏い。


「ビジョウ……!」


 バンボ・ソラキが、立ちはだかる運命の扉を蹴破りに、やって来た。


「今度こそぶっ殺してやる!」


 銃を撃ちながら、バンボは後方に下がる。

 後方車両の、さらに後ろの車両まで。ビジョウは悠々と弾丸を杖で弾きながら、バンボを追い詰める。バンボは遂に最後車両にまで下がって来て、ビジョウは杖を構えた。

 杖は表面の装甲を広げ、内側の鉄心を剥き出しにする。杖が雷を纏い、バンボを狙う。

 そして、雷撃が放たれた時である。

 仮面の裏で、バンボは笑った。

 ビジョウの杖から放たれた雷撃を鱗粉で拡散させ、それが消える前に、バンボは袖に隠していた爆弾の導火線を、拡散する雷撃に当てて、火を点けた。

 爆弾をビジョウに投げつけ、バンボは窓から外へと飛び出した。

 バンボは装甲車の屋根に上り、導火線が尽きる前に、前方車両に向かって走る。


「くっ、ふはっ!ふひゃはははははっ!」


 バンボが笑いを溢れさせながら、一つ前の車両に飛び乗った時、爆弾は炸裂した。

 爆風が装甲車の中を突き抜ける。

 こんな物では、ビジョウには傷を付けることもできないだろう。

 しかし、その爆風はビジョウの視界と聴覚を奪う。


「……、ばーか……!」


 バンボが笑う。屋根を駆け抜け、嘲笑う。

 ビジョウは鱗粉で作った重力の壁を使って、爆風を防いだ後、非天の男の姿を探した。非天の男の追撃を警戒してのことだったが、彼はなかなか現れない。

 徐々に徐々に、ビジョウのにやけ顔が、その下卑た色を失っていく。

 ――――何かが、おかしい。

 ビジョウはそう感じて。

 そこでビジョウは、己の中に、最悪の答えを見出した。


「まさか……」


 ――――まさか、やつが、ケアンのことを、知っているはずがない。


「っばぁぁあーか……っ!」


 ――――だが。だが、これは。


「っっっばぁああああああああああああああかっ!!!」


 ――――これは……!


「ケアン!!」


 愛する娘の名を呼び、ビジョウは前方車両へ、急ぎ走った。









「お待たせしました。ランムリア様」


 ケアンは、両手で塞いでいた顔を上げた。その顔は涙で濡れて、青ざめて。

 けれど、けれど。

 ケアンはすぐに顔を明るく、瞳に希望を宿した。

 “彼”が仮面を外して、その名を呼んでくれただけで、ケアンの心に暖かな光が差した。

 ケアンの、ランムリアの待ち望んでいた人が今、目の前に手を差し伸べていた。


「来て……、くれたんですね……」


「ええ。行きましょうか。外の世界ってやつに」


 ランムリアは込み上げてくる喜びと、熱い感情に身を任せ、バンボの手を取った。


「ケアン!!」


 ビジョウが第三車両まで戻って来た時、そこには最悪の光景が在った。

 装甲車の車両に乗り上げたバイクには、非天の男、そして、ランムリアが乗っていて。


「悪いな、ビジョウ。貰ってくぜ。お前の娘」


 ビジョウがやって来た途端、バイクは浮き上がり、装甲車から飛び出した。


「待て!!ケアン!!!ケアン!!!」


 ビジョウが必死の形相で叫ぶ。何度も愛する娘の名を叫ぶ。

 バンボが操るバイクはすぐさま装甲車から離れ、広大な荒野を駆けていった。


「ケアン!ケアン!!」


 ビジョウの体の周りに、赤い鱗粉が現れた。

 鱗粉はビジョウの周囲に吹き荒び、赤く、赤く発光する。


「お父様!大丈夫です、私は、大丈夫ですから!!私は必ず帰ります!だから、心配なさらないで!!」


「ケアン!!!」


 ビジョウの叫びに合わせ、空の彼方から落下してくる、黒い四つの何か。

 仮面のアーカーシャはそれが何か知っている。

 ビジョウの力の一端。他の誰も知るはずのないその兵器を。


「“Extra Arms”(エクストラアームズ)。体に取り付けられた接続機に接続することで、自身の腕と同様に機能します。警戒してください。マスター」


 それは四本の巨大な機械の腕だ。

 折りたたまれた巨大な腕が、空の向こうから装甲車の方へと落ちてきて、白い鱗粉をまき散らし、装甲車から飛び降りたビジョウの背後に浮かんで止まった。

 ビジョウが法衣を破り裂き、上半身を露わにする。

 すると、四本の腕がビジョウの背中に移植された機械の穴に、自ら接続されていった。

 新たなる四つの腕はビジョウの意のままに動き、装甲車の車両を持ち上げた。

 走行していた装甲車は横転したが、ビジョウは構わず車両を振り回し、連結部を引きちぎる。


「待て!待て!!待て!!!」


 怒りのままにビジョウは叫び、車両をバンボたちに向かい投げ飛ばした。


「なんだありゃあっ!?」


 バンボはバイクを操り、行く手を遮るように次々と落下してくる車両を避けて、グアラザ自治領へと走る。

 砂埃を巻き上げて、空から降り注ぐ車両が大地に突き刺さる。

 一つ、二つ、三つ。

 バンボはバイクを操り、落下してくる車両も、突き刺さった車両も、突き刺さった後に倒れてくる車両も、全速力で避けていく。

 風圧と轟音、吹き付ける砂が、バンボとランムリアの行く手を阻む。

 二人はその中を、無理矢理に猛進する。

 バイクを強く唸らせて、向かい来る全てに構わずに。


「ケァァアアアアアアアアアアアアアアン!!!!」


 十個目に投げられた車両をかわして、ビジョウの必死な声を聞いた時、バンボは逃げ切ったことを確信した。

 後ろにはランムリアがバンボの腰に手を回して、振り落されないように頑張って掴まっている。

 荒野の向こうに見えてきたグアラザ自治領の街並みに、真っ青な空が気持ち良く映えていた。

 バンボは笑った。

 込み上げてくる笑いを、どうしても抑えきれずに、爆笑した。


 ――――ざまあみろ、ざまあみろ、ざまあみろ!


 ビジョウにも、うじうじ悩んでいた自分にも、バンボは思い切り頭の中で言ってやった。

 自分の中に在った、扉のようにも思える、心を閉じ込めてしまう何かを無理やりぶち破ってやったような、そんな心地よさを感じていた。


 吹き抜ける風が気持ちいい。心が軽い。


 青空に包まれて、バンボは笑う。


 ―――― 一体、何時以来だろう。こんなに気持ちよく笑うのは。


 そして、そんなバンボの後ろに座るランムリアも。

 馬鹿みたいに笑うバンボに、ランムリアも初めは少し驚いていたが、それでも、バンボがあんまり楽しそうに笑うので。


 次第にランムリアもつられて、一緒になって二人は笑った。













第三話 完






現在、いくつか別のお話も書いているため、今回の投稿から1か月ほど、更新をお休みさせて頂きます(2014/8/9)。

9月中には更新を再開する予定です。

今後とも、「非天」をよろしくお願い致します。

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