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非天  作者: 山中一郎
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第四話  幕開け  - 最後の青春 -     その三


 東西南北に存在するグアラザ自治領の出入り口の内、東口と西口には浅い川が流れている。大樹に傷を付けたままの状態を保ち、水を継続して流出させて使用する工場等の施設で使われた水が外に流されてできる、要はどぶ川である。

 ここ、グアラザ自治領西口にある川には今日もまばらに人が集まっていた。見るからに汚い色をした水にも魚は棲む。その魚を狙って釣りをする人もいれば、ただ涼みに来ただけの人もいて。


「バンボ。あの人は何をしてるんですか?」


 ランムリアがそんな釣り人に興味を抱く。彼女は釣りを知らないようだった。


「あれは釣りですね。ああやって針と餌を付けた糸を垂らして、魚が食いつくのを待っているんですよ」


「魚……」


 ランムリアが水の底を覗くと、そこには泥から顔を出す魚が一匹。ランムリアには魚と目が合ったように感じられて、触れるのかと思って水底に手を伸ばす。けれど、手が水面に触れる前に魚は泥から飛び出して泳ぎ去ってしまった。


「あっ」


「いやぁ、流石に手で捕まえるのは無理かなぁ」


「不思議な生き物ですね……。水の中で苦しくないんでしょうか……。それに、図鑑で見たのとは少し違います……」


 魚の逃げた先を見つめるランムリアを余所に、バンボは西口の方へと目をやった。検問にあっている馬車を見ると、どうもいつもと様子が違う。出入り口の周辺にいる兵士の人数も多い上、検問がやたら真面目に荷物を調べているようだ。

 まるで、何かを探しているかのような動き。

 やはり、ビジョウが既に手を打ったと考えるべきだと思われた。


「バンボ?どうかしましたか?」


「いえ、なんでも。それよりランムリア様。そろそろ今日の隠れ家を探しましょうか」


「隠れ家……」


 ランムリアはぼそりと繰り返し、少し顔をにやけさせる。


「なんだか、わくわくしますね」


「んん。そうですか?」


 ――――本当に、何に対しても楽しそうだな、この人は。


 バンボは楽しそうに彼の後ろに付いてくるランムリアを連れて、何処か空いている建物がないか探しながら、街の中へと戻っていく。

 予想通り、ビジョウはこの街の警備を強化してきた。幸い、庶民の誰しもが着るローブは外見を隠しやすく、街を行くにも目立ちにくい。尾行されるようなことがあってもアーカーシャとバンボが察知できるし、隠れる所にも困らない。

 できることなら、グアラザ自治領から出て別の街へ行きたい所だが、まず不可能であるだろう。荒野に出て、最高の装備と車両を多々有するビジョウの追っ手から逃げ切る手段はこの世には存在しない。

 とにかく、今は隠れるしかない。これからの行動は、ランムリアが今後どうするつもりかにもよる。


「あ、バンボ。あの子……」


 ランムリアに服の裾を軽く引っ張られ、バンボは振り向いた。ランムリアの目線を辿ると、道の端で泣いている女の子が一人。


「どうしたんでしょうか……」


 ――――これは、まずい。


 バンボは直感する。


 ――――これはまずい。これは、この流れは恐らく―――――


「泣いてます……。あんな小さい子が一人で……、親はいないんでしょうか……」


 ランムリアがバンボに麗しい水色の瞳で訴えかける。バンボの予想通り、ランムリアは泣いている少女のことが、可哀想になってしまったのであった。


「僕らは追われている身です。他人のことに構っていてはいけません」


「……、はい……。ごめんなさい……」


 意外と大人しく引き下がったランムリアは、バンボの後ろにしおらしくついてくる。そんな彼女が気になるバンボはちらりちらりと後ろを窺がい、その度に見える辛そうな顔で歩くランムリアの姿に、ついに音を上げた。


「まあ、話を聞くくらいなら大丈夫じゃないですかね……。あんまり時間がかかりそうなら、可哀想ですが他の誰かが助けてくれるのを祈りましょう」


「いいんですか?」


 バンボとしては、てっきりもっとランムリアが喜ぶものかと思っていたが、彼女の反応は案外不安気な物だった。


「ええ。アーカーシャもまだ何も知らせて来ませんし、少しだけなら」


「でも、もし見つかればあなたが……」


 しかし、バンボはすぐに納得した。ランムリアは彼女自身の現状をわきまえているのだ。初めて見る外の世界に浮かれながらも、追われている立場であることを忘れてはいないらしい。


「僕の心配はいりません。さあ、行きましょう。なんで泣いてるのかな、あの子は」


「あ……、はい!」


 未だ泣き続けている女の子の方へ、バンボが歩いて行く。その後ろ姿を追いかけるランムリアは、何やら嬉しそうな面持ちだった。








「びぃやああああああああああ!ぃびゃあああああああああ!!」


 近くに寄って聞いてみれば、なんと豪快な泣き声だ。まだ六つかそこらの女の子が、めちゃくちゃに歪めた顔を隠しもせずに涙を流している。

 バンボは腰を低くして、女の子に尋ねた。


「おい、どうしたい。何をそんなに泣いてんだ?」


「ぶぁあああああああああああああん!!」


「おいおい……」


 バンボが話しかけると女の子は更に大きな声で泣き出した。完全に怖がられているようだった。

 次に、ランムリアが女の子の前に屈んで、声をかけた。


「大丈夫?どこか痛いんですか?」


「う……、うぶぅ……。あぶぅ……」


 バンボの時とは打って変わって、女の子はみるみる泣き止んでいく。嗚咽を漏らしながらも頭を振る女の子は、どうやらランムリアに返事をしているらしい。


「変質者とのやりとりに近いマスターの時とは大違いの反応ですね」


 突然バンボの耳に聞こえてきた声は、懐にしまわれたアーカーシャの音声であった。


「お前、それ言うためにわざわざスピーカーの音量上げたわけ?」


「はい」


「黙って周りを見張ってろ」


 バンボはアーカーシャの入っている胸元をぼん、と叩く。

 その間にも、ランムリアは女の子を泣き止ませることに集中していた。頭を撫でたり、抱きしめてみたり。

 思いつく限りのことをして、なんとか女の子が泣き止むと、ランムリアは「良かった」と溜息混じりに一声こぼして、女の子に仔細を聞いてみた。


「カンナが……、妹がいなくなった……」


 震えた声は酷く聞こえ辛かったが、バンボとランムリアはなんとか女の子の言うことを聞きとった。


「はぐれちゃったの?」


「ちがう。さらわれたの」


 ランムリアの後ろにいたバンボが前に出て、聞き返した。


「攫われた?」


「そう。カンナは――――」


 子供が攫われる程度のことは大して珍しいことではない。しかし、バンボにとって人攫いは過去、何度も弟の身柄を巡って争った敵である。

 バンボは少し怒っているかのように表情を険しくさせた。

 ランムリアはそんな彼の横顔を見て、驚いた。彼もこんな恐い顔をすることがあるのだと、じっと見つめた。

 けれど、女の子が次に言い放った言葉は、二人の想像を遥かに超えた物で――――



「カンナは絶対、ダツエバ様にさらわれた」



 ランムリアは聞きなれぬ名前に首を傾げる。


「ダツエバ様……?って、誰ですか?バンボ」


「ダツエバっていうのはですね……」


 その傍ら、バンボは。


「ただの言い伝えですよ。昔からの。服を取っ払って、人を食べる化け物です」


 バンボは拍子抜けしたような顔で、頭を掻いていた。


「ほんとだよ!ほんとにダツエバ様がいたの!!」


 女の子は必死にバンボに訴える。しかし、バンボはてんで信じない。


「そう言うけどお前、いる訳ねーだろそんなん。実際に見たのか?」


「見てはないけど……、でも!ダツエバ様の声がした!したの!恐い声!」


 いよいよ女の子は顔をむくれさせてバンボを睨んだ。傍から見ていたランムリアが口を出す。


「バンボ、可哀想ですよ。信じてあげましょう」


「えぇー……」


 何を言い出すのだと言わんばかりのバンボを余所に、ランムリアが女の子に尋ねた。


「どこではぐれたんですか?その……、カンナちゃんと」


「あっち。あっちの、湯あみ屋さんの方。お風呂入りたいねって二人で話してたのに、いつのまにかカンナがいなくなってた」


 バンボとランムリアが女の子の指差す方を見ると、空に伸びる一本の煙突が黒い煙を吐いているのが見えた。

 バンボは思案する。


 ――――この子の妹がいなくなったのは、本当のことなんだろう。恐らくは、人攫いにあって。


 ――――湯あみ屋と呼ばれる大衆浴場。値段は少し張るが、利用客は多い。つまりは人通りが激しいということで、ついでに入り組んだ路地もある。犯罪の温床になりやすい地区だ。


 湯あみ屋の煙突から女の子の方へと目を戻し、バンボは言った。


「なるほどね……。お前、帰る場所はあるのか?」


「あるよ。北口の方にある羊小屋。子供たちがたくさん住み込みで働かせてもらってるの」


 それを聞いたランムリアが驚いて。


「えっ、働いているんですか!?あなたが!?」


「うん。だって、そうしないと死んじゃうもん」


 平然と答えた女の子に、ランムリアの「信じられない」といった顔が向けられた。ランムリアはまじまじと、まだ幼い女の子を見つめている。

 その間、黙って何かを考えていたバンボが女の子に言った。


「帰るところがあるなら、先に帰ってな。お前の妹は俺が探しといてやるから」


「カンナを助けてくれるの!?」


「ああ。任せとけ」


 それを聞くや、女の子は喜んで、バンボとランムリアにお礼を言った。


「ありがとう!良かった……。でも……、カンナ大丈夫かな……。食べられちゃってないかな……」


「心配すんな。まだ間に合う。食われる前に俺が助けてやるよ」


「バンボ……」


 力強くバンボがそう言うと、女の子は安心したのか弱弱しくも笑顔を見せた。ランムリアも、嬉しそうにバンボを見ていた。


「あ、そうだ。あなた、名前は?」


 ランムリアの質問に、女の子は嬉々として答えた。


「パイア!私、パイアっていうの!ねえ、それじゃあ、カンナのこと、絶対だよ!」


「ああ。さあ、知り合いのとこに戻んな。これからはあんまり湯あみ屋の方へは行くなよ」


「うん!」


 パイアは気前よく返事をすると、ポケットからピーナッツを二つ取り出して。それを一つずつバンボとランムリアに渡すと、北口の方へと駆けて行った。


「信じたんですか?ダツエバ様……、でしたっけ?それのこと」


「違いますよ。どうせ子供を狙った人攫いでしょう。湯あみ屋の辺りは特に多いんです。それに、僕は人攫いが嫌いなんですよ。それだけのことです」


 湯あみ屋の方へと歩きながら、バンボは答える。彼の声は低く、真剣である。

 それに比べランムリアは、軽やかな笑顔でバンボのすぐ後ろについて歩いていた。


「バンボ」


「はい?なんですか?」


 返事をしつつ振り向いたバンボは、穏やかな笑顔を向けるランムリアに照れて、少し慌てた。


「優しい人なんですね。あなたは」


「……」


 そして、バンボは更に表情に照れを浮かべさせ、前を向いてそそくさと歩き出した。後ろから見ても、バンボの耳が真っ赤になっているのは丸見えで。ランムリアはくすくすと笑った。


「ただ、気に食わないだけですよ……。ただ……」


 歩きながらもぼそりとバンボが零した声は、ランムリアの耳には届かない。

 ランムリアはパイアから貰ったピーナッツの殻をむき、美味しそうにそれを食べた。












 家に風呂という物が基本的に存在しないこの星では、湯あみ屋という存在は非常に有り難い存在であり、それ故に人を呼ぶ。

 湯あみ屋の多くは大衆向けの、安価でかつ粗悪なサービスを特徴とする。

 中には高級な湯あみ屋もあると人は言うが、料金がかさむような店は、ビジョウに富を規制されている庶民には到底入れる場所ではなく、その客はビジョウに従う兵士だの、政府関係者だのに限られる。

 よって、その実在自体、庶民には確かめることはできないのである。

 バンボは目の前の煙突を見上げた。高く煙突を空に伸ばす湯あみ屋は、天井を持たない、石垣で幾重にも浴槽を囲んだ構造だ。


「変わった建物ですね。これだと上から丸見えじゃありませんか?」


「うーん……、まあ、ここを見下ろせるような場所がそもそも周りにないので……」


「ああ、なるほど……」


 ランムリアは納得したようだったが、バンボは少し気になって、尋ねた。


「ランムリア様の部屋からは見えなかったんですか?結構変わった建物ですから、目立つと思いますけど」


「え?いえ、私の部屋には窓は一つしかなくて……。そこから見えるものも、はっきりとは見えませんでした」


「あ、そうだったんですね」


 バンボがメールの内容から想像していたランムリアの部屋のイメージは、実際とは少し差異があったようだ。バンボはランムリアが、彼が想像しているよりもずっと狭苦しい生活をしていたのかもしれないと考え直した。


「とりあえず、僕はこの辺りを少し探ってみます。ランムリア様は――――」


 バンボが途中で喋るのを止めたのが、ランムリアは気になって。

 ランムリアがバンボの方を見ると、彼の顔は、険しく目を細めた物に変わっていた。

 またも初めて見るバンボの差し迫った表情に、ランムリアは小さく恐怖しつつ、彼が見る方を向いた。


「ようようよう。元気かい?原始人君」


 そこにいたのは、黄金に近い色をした目を持つ男だった。

 りんごを一つ手に持って、それを弄りながらバンボとランムリアを見るその男は、他の道行く人たちと同じくローブを着て、頭にフードを被る。

 ランムリアはなんとなく、嫌な感じがした。

 へらへらと笑うその男は、ランムリアの方をじろじろと可笑しなものでも見るような目で眺めてくる。バンボの方を見る時も、何処か小馬鹿にしたような印象を感じた。


「バンボ、誰ですか?この人」


「友達だよ。なあ?バンボ」


 名前を呼ばれて、バンボは溜息を吐く。バンボはコッパーにまだ名乗ってはいなかったのに、ランムリアがあっけなくばらしてしまった。

 しかし、そのことでランムリアを責める気にもなれず、バンボは言った。


「知り合いですよ、ただの」


「命の恩人は知り合いか?」


 バンボは苦虫を噛み潰した様な顔をした。また、ランムリアの初めて見る顔だった。

 バンボの、と言うよりは、生まれて初めて見る類の顔である。人はこんな嫌そうな顔をできるのだと、ランムリアは学んだ。

 黙ったままのバンボに焦れて、ランムリアはコッパーに食ってかかった。


「結局、あなたはバンボの何なんですか!?バンボは嫌がっているじゃありませんか!」


「嫌がってても事実は変わらないんだよ、お嬢さん。いや、お姫様か?」


 バンボとランムリアが驚き、焦る。

 コッパーはそんな二人を見て、愉快そうに笑っていた。


「まあまあまあ!そんな恐がることはない!俺はお前たちを応援してるんだ!」


「応援……?」


 訝しげにバンボがコッパーを見やる。

 コッパーの話は、胡散臭い事この上ない物であった。


「そうだよ、バンボ。お前がその女と仲良くすればするだけ、それがやつへの嫌がらせになるのさ。それも……、他にないってくらいの最高級な嫌がらせだ!」


 コッパーは恍惚とした様子で、興奮を隠しきれない声で言った。

 バンボたちが言葉を失っている間に、コッパーは続ける。


「今、この自治領に偽の情報を流しているやつらがいる。その偽の情報ってのが、世にも美しい少女が、東の商業地区に売り飛ばされたって内容だ」


「ああ?」


 それはまるで、バンボたちをビジョウの追っ手から隠そうとしているかのようで。そんなことをするのは、一体何処の誰かとバンボは思ったけれど。


「あの革命軍とか呼ばれてるやつらの仕業だよ。なんでそんなことをしてるかは……、本人たちに聞いてくれ」


「革命軍が?嘘くさ……」


 革命軍がバンボたちを助ける意味が、バンボにはいまいち分からなかった。

 

 ――――何かやつらに貸しを作らせるようなことをしたか?記憶にないが……。


「信じる信じないは、好きにしたらいい。ただ、今のお前たちにはちょっとした余裕ができた。俺が言いたいのはそういうことさ。俺は、それを言いに来たんだよ」


「……、何のために?」


「言っただろ?」


 コッパーが笑う。それはもう、心底愉快そうに。


「ビジョウが嫌がるからだよ。それが俺には、たまらなく嬉しいんだ」


 それを聞いて、ランムリアは目に怒りを宿した。コッパーはそんなランムリアを見ると――――


「本当に、よくできてやがる」


 呆れたような、笑いを噴き出すような、どちらともつかない様子で、また笑って。


「精々、仲良くしなよ。もう、この世界に時間は大して残されてないんだからさ」


 そして、コッパーは二人の目の前から、突如として消え失せたのであった。


「あれ……?えっ!?」


 コッパーを探して周りを見回すランムリアの横で、バンボは懐にしまわれたアーカーシャに声をかけた。


「この近くに、まだやつの反応はあるか?」


「いえ、一瞬の内に完全に見失いました」


「そうか……」


 バンボは雑踏に目を向けて、道の遥か向こうまで続く人の波に目を細めた。


 ――――どうやら、やっかいなやつに目を付けられたらしい。


 胸の底に不気味な冷たさを感じながら、バンボはアーカーシャに新しい命令を与えた。


「もうコッパーのことはいい。それより、この辺に子供がいないか探ってくれ。そんなに数はいないはずだ。大人と一緒にいる子供がいたら、優先して報告しろ」


「了解しました」


 バンボがランムリアに話しかけようとすると、ランムリアはじっと何かを見つめていた。

 その視線の先には、小さな子供が二人。

 一人は男の子。もう一人は、女の子だ。

 子供たちは、石を積んで遊んでいるらしかった。

 「ああ、そういうことか」と、バンボは気付く。


 ――――ランムリア様はあの遊びを初めて見るのだろう。ずっと塔の中にいたのなら、そういうこともあるのかもしれない。


「あれは、ああやって石を積んでいく遊びなんです。僕も小さな頃はやってましたね」


「えっ?あ……、ああいう遊びなんですね。可愛い……」


 バンボは閃いて、ランムリアに言った。


「あの子たちにカンナのことを聞いてみませんか?ランムリア様」


「ああ……、何か知っているかもしれないですね」


「僕が話しかけると多分警戒されてしまうので、ランムリア様が聞いてみてはどうでしょう?」


 ランムリアは驚いて、焦りを隠し切れずにバンボに答える。


「わ、私ですか!?いえ、でも、私、上手く話せるか分かんない……」


「大丈夫。“カンナって子を知らないか”って聞くだけです。あ、あと、“この辺で大人と一緒にいる子供を見なかったか”って」


「で、でも!バンボ、ちょっと!?」


 手をあたふたと動かして抵抗するランムリアの肩を掴んで、バンボはぐっと前に押し出した。

 子供たちがランムリアを見上げると、ランムリアは顔を強張らせ、ごくりと唾を飲みこんで、気持ちを整えてから、言った。


「あの……、ちょっと聞きたいことがあるんですが……。お時間の方は……」


「そこまで固くならなくても……」


 バンボに口を挟まれ、ランムリアが慌てふためく。しかし、子供たちはランムリアに快く答えてくれた。


「なに?」


「なーに?」


「あの、えっと……。カンナっていう子を探してるんですけど、知りませんか?」


「知らなーい」


「知らない」


「え、あ、そうなんですか……、じゃあ……、えと……」


 しどろもどろなランムリアが、バンボに助けを求めて振り返る。何をそんなに緊張するのかと、バンボは可笑しくて、小さく笑いながら子供たちに言った。


「この辺で、子供を連れた大人を見なかったか?子供が人攫いにあったかもしれないんだ。何か知ってることがあったら、教えてくれ」


 子供たちは互いに顔を見合わせ、困った顔で考える。


「知ってる?」


「うーん……、私、見たかも……」


 女の子の方が、後ろに手を回して自信なさ気にそう言った。


「見たのか?何処で?」


「えっとね、路地裏の方をずっと行ったとこの……、日時計がある場所」


 バンボがランムリアの方を見て笑う。運よく手がかりにありつけた。確証のある情報ではないが、あてにする価値はある。

 バンボはそこに行ってみることにした。もし、女の子が見たのがカンナと人攫いであるなら、あとはアーカーシャの人感センサーでそれらしい人物を探っていけばいい。大体の場所さえ分かれば、人探しはアーカーシャの得意分野だ。


「ありがとな。そうだ、ちょっとここで待っててくれ」


 バンボは子供たちにお礼を言って、近くの露店でりんごと干し肉を買ってきた。


「これ、やるよ。お礼だ。すぐに食べろよ。大人たちが盗りに来るからな」


「ありがとう!」


「ありがとう!」


 バンボからりんごと干し肉をそれぞれ受け取って、子供たちは嬉しそうに走っていった。子供たちの後姿を見送るバンボに、ランムリアが笑顔で尋ねた。


「現金をあげるのは駄目なんですか?」


「ええ。現金を子供に持たせると、かえって危ないので」


 路地裏へ入っていくバンボに、ランムリアがついて行く。陰になって少し涼しい細い道を行くランムリアは、嬉しそうで。楽しそうで。


「バンボは、本当に優しい人ですね。子供が好きなんですか?」


「子供……、子供ですか……?どうかなぁ……」


 ――――本当に、何がそんなに楽しいんだ。この人は。


 バンボが恥ずかしがって言葉を濁しても、ランムリアにはばればれで。

 暗がりに生きる危うい雰囲気の人種が徘徊する裏路地も、ランムリアはバンボの後ろについて、恐がることなく進んでいったのだった。

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