シナリオ外『副生徒会』もしくはシナリオ外『会長補佐の彼』
ようやく最後の1人の登場です。
直接ヒロインが、というわけではありませんが、精神衛生上よろしくない残酷表現があります。苦手な方はご注意ください。
ランダムイベントの発生を挟んで月曜日。
優孝が言っていた「顔合わせ」とは今日の放課後に予定されていたらしい。予想通り副生徒会に配属されたわたしは、同じく副生徒会配属となった男子生徒と共に、放課後指定された教室へと向かう。
「せっ、千条さんっ」
特に会話もなく歩いていたのだが、耐え切れなくなったのか声を上ずらせて隣を歩くクラスメイトの彼が口を開く。
「何かしら」
「お、俺っ、武藤大輝って言うんだっ」
「……そうなの」
突然の自己紹介に軽い頷きだけを返すと、たじろいだのか武藤くんは気弱そうに垂れた眉を更に垂れさせる。
武藤といえば、あの政治一家の武藤家だろうか。武藤の家は母の血筋の親戚で、あの家の当主とは何度か顔を合わせたことがある。最近のそういった顔合わせに参加するのは優孝だけだから、わたしが会ったのはもうずいぶん昔のことではあるけれど。
覚えている限り、あそこの当主はもっと気難しい顔をしていたように思う。その息子がこうも気弱そうとは、さぞご当主も心配していることだろう、と失礼なことを考える。
「あのっ! 同じ委員会だし、これからよろしくね? ほら、困ったことがあれば言ってくれれば、力になれるかもしれないしっ」
あの母の実家とつながりがあるというのに、わたしの評判を知らないのだろうか。『用無しの娘』。優孝は隠そうと必死だけれど、わたしが親戚の間でそう呼ばれているのはとっくに知っている。
「それに、あの、千条さんは気付いてないかもしれないけど、俺、」
「あまりわたしと仲良くしているとお父様に何か言われるんじゃないかしら、武藤家のご子息様? 『用無しの娘』とは必要以上に関わらないほうがいいと思うわ」
武藤くんの言葉を遮ってばっさり切り捨てる。会場である教室の扉に手をかけるわたしに尚も言い募ろうと武藤くんが口を開いていたけれど、もう何も聞くつもりはなかった。がらりと扉を開ければ、「あ」という小さな声が背後から聞こえたが無視した。あちらだってわたしを切り捨てたのだ。わざわざ関わってご機嫌取りをする必要はない。
「君がAクラスの委員かな?」
かけられた声に視線を向けると教卓の椅子に腰かける男に辿り着く。
銀色の中途半端な長さの髪に、その合間から覗く深緑の瞳。高校生に見合わぬ色気を垂れ流し、教室内の女子生徒がちらちらと視線を向けるほどの美貌の持ち主。……攻略対象最後の1人、生徒会長様である。
「はい。すみません、遅刻ですか」
ざっと見る限りもう全てのクラスが集まっているようだ。余裕をもって出てきたはずだけれど、と生徒会長に視線を戻す。
「いや、大丈夫だよ。一番前の席からプリントをとって席に着いてくれるかい?」
色気たっぷりに微笑む彼に頷きだけを返し、プリントを手に席に着く。クラスごとに並んでいるのか、Aクラスの席は列の一番前である。
手元のプリントにある『生徒会との連携』の文言にここに生徒会長がいる理由に気付く。なるほど、思った通り、副生徒会と生徒会の関わりは深そうだ。
副生徒会というだけあって生徒会長様直々にご説明していただけるらしい。会長の斜め後ろでじっと佇む優孝の姿もあり、それでこんなに教室内が浮足立っているのかと納得する。
優孝が『王子様』なら、生徒会長は差し詰め『王様』と言ったところか。タイプの違う2人の美貌が並ぶとまるで1枚の絵画だ。芦江先生が今年の副生徒会は人気だと言っていた意味がよく分かる。
すみません遅れました、と今までずっと廊下で呆けていたらしい武藤くんが駆け込んでくる。それにも同じようにたおやかな笑みを向けて、会長が口を開いた。
「さあ、全員揃ったようだし顔合わせを始めようか。と言っても、今日することは自己紹介とこれからの活動を確認するくらいだからあまり緊張しないで」
色気製造マシーンとまで言わしめた会長に女子生徒は一様に惚けているが、この男の外面に騙されてはいけない。優孝もなかなかだが、この男はその何十倍も厳重に優等生の皮をかぶった悪魔だ。
学園史上最も優秀と名高い生徒会長、佐子島瑞月。あなきみを20禁という年齢制限に設定せざるをえなかった大元凶である。
佐子島瑞月は「君と1つになりたい」タイプ、簡潔に言えばカニバエンドを持つヤンデレで、とにかく猟奇的なエンディングが多かった。
ハッピーエンドですらヒロインを薬漬けにしてひたすら犯すというどこがハッピーなのか分からないエンディングだったが、バッドエンドはさらに酷い。ヒロインが散々あなたが好きだ、あなただけだと言っているにも関わらず、信じられないというただそれだけの理由でヒロインをめった刺し、バラバラにしたあげくその肉を食す。さすがに食べている最中の描写はなかったが、主に口のまわりを血まみれにしながら「これでようやく1つになれたね」と主人公の着ていた洋服を抱きしめるスチルはあった。……あれはひどかった。しばらく食事が喉を通らなかった。
瑞月は千条より更に古くから続く佐子島の家に生まれながら、実の母親に性的対象として犯され、完全な女性恐怖症に陥っている。それを裏返すように女を食い散らかしては(この場合は本当に食べているのではなく比喩表現だ)捨てていくことで心の安寧を保っているという複雑な内面を持つ。だが、女の選び方が秀逸で絶対に後腐れなく噂も立たないような相手を厳選して事に及ぶため、教師や何も知らない生徒間での評判はすこぶるいい。
瑞月と女王様との出会いイベントは4月の終わり。大胆にも学園の屋上でいたそうとしていた瑞月と鉢合わせた女王様がいつもの調子で学園の王様を見下すというもの。これがお姫様の場合、「先輩は寂しいんですか……?」というさすがな台詞を浴びせるイベントとなる。
「それじゃあ、Aクラスから自己紹介をお願いしようか。いいかな?」
「……はい」
立ち上がり、自己紹介をするために振り返る。こちらを向く全ての視線に大きく息を吸い込んで、
「…………ぇ」
2つ後ろの席に座る見慣れた顔に息を止めた。
…………どうして、ここに相原妃花が……?
大きなみかん色の瞳をこちらに向けるお姫様の姿にらしくもなく動揺する。
たしかにゲーム上でもお姫様が副生徒会に入ることは可能だったが、お姫様の性格上絶対に雑務ばかりの副生徒会には入らないと思っていた。彼女は裏方でなく、表舞台で輝くタイプだ。きっと文化祭実行委員や体育祭実行委員など華やかな印象の強い委員会に入るものとばかり思っていたのに。
「あれ、緊張しちゃったかな? Aクラス、自己紹介できるかい?」
「……っはい、すみません」
不自然な間を空けてしまったらしい。本性を知っていれば鳥肌立ちそうな生徒会長の優しい声に促され、自分の名前を口にする。
「1年Aクラス、千条瑛莉です。よろしくお願いします」
それだけ言って席に着く。
別にお姫様がここにいるからと言って、シナリオ上困ることはない。ただ近くにお姫様がいるというその事実に動揺した。ここが現実である以上、イベント外でも攻略対象キャラクターと接触できるのはわたしだけではない。お姫様だって同じ状況なのだ。彼女に攻略しようという気があろうとなかろうと、お姫様と彼らの接触は少ないに越したことはない。
「1年Cクラス、相原妃花です! 至らないこともたくさんあると思いますが、精一杯がんばっていきたいと思ってます! よろしくお願いしますっ」
ぴょこんと元気よく頭を下げたお姫様に視線を向ける。教室内の女子の視線が会長と会長補佐に固定されているのなら、男子の視線はお姫様に注がれている。時折わたしに向けられる視線もあるが、どれも怯えたようなもので明らかにお姫様に向けられるものとは違う。さすがお姫様、どんな場面でも第一印象はばっちりだ。
みんなの視線を浴び少しはにかむお姫様から目を逸らし、ゆったりとした笑みを貼り付けて自己紹介を聞く会長に視線を向けてみる。誰の自己紹介も頷きながら聞いてはいるけれど、覚える気はまるでないのが透けて見える。ぴくりとも動かないその笑みは逆に不気味だと誰かあの男に教えてやってほしい。
なんてことを考えていたら、ガラス玉みたいな緑の瞳がちらりとこちらを見た、気がした。慌てて視線を逸らしその後ろ、まるで会長の影のように立つ優孝へと視線を変えた。
「…………っ」
ぎりと人から見えない位置で制服のスカートを握りしめる。
…………どうして、どうして、どうして、どうして。
どうしてあの子を見ているの。いつもわたしを映して笑む紅茶色の瞳がどうして、こちらを向いていないの。どうして、その目にあの子を映しているの。優孝はわたしのものなのに。
…………ねえ、どうして。
再びネガティブヒロインです。とにかく不安定な子。
生徒会長ルートのエンディングは年齢制限的な意味できっとここでは書けない。




