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フラグを立てろ  作者: 遊楽
4月 出会いイベント
7/18

ランダムイベント『デートもどき』



お気に入り登録、評価、感想、レビューなどなどありがとうございます。女王様があまり嫌われていないようでほっとしております。よかったね、瑛莉……。



閑話的な優孝のターン。





 入学式が木曜日、委員会決めがあったのが金曜日。ようやくやって来た休日も、わたしは規則正しく目を覚ます。別にわたしが健康的な生活を送っているというわけではなく、この時間帯が一番平穏に朝のひと時を過ごせるからだ。寝ていられるものなら、わたしだって休日くらいゆっくりと寝ていたい。


 父はしばらく海外出張で帰ってこないし、母はこの時間まだ寝ている時間なのだ。わたしに興味がない父はともかくとして、母が起き出してくる前に食べ終わらなければ、またネチネチとなにを言われるかわからない。あの人は血のつながった娘より、血はつながらなくとも外面のいい息子の方がよほど大事なようだから。



 「お嬢様、おはようございます。朝食の用意が整っておりますが、いかがいたしますか」


 「起きているわ。今行く」

 


 部屋の外からかけられたメイドの声に簡潔に返事を返す。かしこまりました、とメイドが去るのを待ってから、姿見で寝癖を直し、着替えて階下へ降りる。


 ここで働く者たちがわたしの扱いに困っていることはよく分かっている。仕える主人たちがあの調子なので対応に困っているのだろう。まるで腫れ物を扱うように接してくるから、自然とこちらも素っ気なくなる。まあ、会話などなくても彼女たちは仕事をこなすだけなので、特に不便はない。



 「おはようございます、瑛莉様」


 「おはよう」



 すれ違うメイドたちの機械的な挨拶にこちらも機械的に返しながらダイニングの扉を開ける。やけに凝った作りのそれは曽祖父の趣味らしくごてごてとしているだけで使い勝手はあまり良くない。



 「瑛莉、おはよう。よく眠れたかい?」



 すでに席についていた優孝に頷きを返す。



 「おはよう、優孝。よく眠れたわ」


 「それはよかった」



 にこりと微笑む優孝は朝から完璧である。コーヒーの入ったカップを傾けながら甘く微笑む姿はまさに『王子様』。どうやら学園でも一部の女子からはそう呼ばれているらしく、相変わらず愛想を振りまいていることを知った。お姫様いわく「ウソの笑み」を浮かべて。



 「瑛莉、今日の予定は?」



 席に着き、コーヒーに砂糖とミルクを足すわたしに優孝がゆったりと尋ねる。



 「特にないわ。優孝は?」


 「ちょうどよかった。僕も今日は特に予定がないんだ。瑛莉さえ良ければ、外に出ようか。今日はとても天気がいいよ」


 「ええ、もちろん」



 ちらりと窓の外に目をやりながら、心の中で小さくガッツポーズをする。


 ――ランダムイベントの発生である。



 あなきみのイベントには学校行事に沿った好感度上げのためのイベントと一定の好感度に達していると発生するランダムイベントがある。あなきみに好感度確認システムはなかったから、このイベントが好感度を確認する目安となる。


 他キャラクターはもう少しゲームを進めてからになるが、千条優孝のランダムイベントは女王様ルートであれば、序盤からいくつか発生させることができる。


 そのうちの1つが今日のお誘いである。『デートもどき』と名付けられたそのイベントは優孝と買い物へ出かけるデートイベントだ。好感度が低い時に発生するイベントなので、糖度は高くないがこれが発生したということは優孝の好感度はそれなりにあるということだろう。



 「瑛莉はどこに行きたい? この前観たいと言っていた映画に行こうか。先週公開されただろう」


 「それもいいけれど、優孝。わたし服を買いに行きたいわ。せっかく春になったんですもの」


 「ああ、それはいいね。瑛莉に似合うワンピースを見つけたんだ。きっとこの前買ったネックレスによく似合うよ。いつもの店でいいかい?」



 女の買い物に付き合うのなんて面倒だろうにそう微笑む優孝に、お願いとわたしも微笑み返した。



――――――

――――



 「高校生活には慣れそう?」



 出かける車の中、隣に座った優孝が唐突にそう尋ねる。振動もないこの高級車は無駄に広いというのに、優孝はいつもまるで定位置のようにわたしのすぐ隣に座る。



 「どうしたの、急に」


 「入学式の前、ずいぶん不安がっているようだったから。これでも心配しているんだよ」



 おまえはしつこいと言うけどね、とおどけたように付け足して優孝はくすりと笑みを浮かべる。



 「担任の先生もいい方だし、大丈夫よ。……入学式のときは、少し緊張してただけよ」



 シナリオ進行に対する不安はあるが、それは優孝に言っても仕様のないことだ。高校生活、という枠組みだけで言うのなら中学時代とさして変わりはない。クラスの雰囲気から浮かない程度に、教師に無駄な心配をかけない程度に人と関わっていればいい。



 「担任……そうか、瑛莉のクラスは芦江先生だったね」


 「ええ。知っているの?」


 「授業を受けたことはないけれどね。授業も分かりやすくて、とてもいい先生だと聞いているよ」



 どうやらここでも現実であることが影響しているようだ。考えてみれば当たり前なのだが、同じ学校内にいるのだからゲーム内で知り合いでなくても現実世界では名前と評判くらいは知っている。なにせ攻略対象たちは全員が学園内では多少なりとも有名なメンバーだ。そういえば、入学式の日も優孝と三晴センパイには面識があるようだった。



 「良かったわ、評判のいい先生で。この前も入学式の日に休んでいたからって委員会の説明をしてくれたのよ」


 「委員会? ああ、そうだね、来週は顔合わせがあったっけ。瑛莉はどこに入るの?」


 「まだ希望をとっただけよ。月曜日にはわかるんじゃないかしら」



 といっても、第一希望に副生徒会とだけ書いて出したので、「生徒思いのいい先生」な芦江先生はたぶんわたしを副生徒会に割り振ったはずだ。


 副生徒会であれば攻略難易度の高い生徒会長と多少は接触できるだろう。お姫様と会長の出会いイベントが起きる前にできるだけ印象付けておきたい。



 「どこを希望にしたんだい?」


 「嫌よ、まだ決まっていないもの。教えてあげない」



 笑って顔を背けてみせる。別に優孝に知られようがどちらでもかまわないのだけれど、女王様な『瑛莉』ならばこう言うかなと思っただけだ。


 優孝はわたしの意味のない意地悪にくすりと唇の端に笑みを浮かべた。



 「おや、珍しく意地悪だな。それじゃあ、瑛莉がどの委員会なのか楽しみにしておこうかな」


 「到着いたしました」



 少し楽しそうに微笑んだ優孝がそう言うのと運転手が声を上げたのは同時だった。窓の外に目を向ければ、優孝お気に入りのブランドショップの前に車が横付けされている。



 「さあ、お姫様。きみに似合うドレスを探しに行こうか」



 茶目っ気たっぷりに差し出された優孝の手を取る。


 『お姫様』。歪んだわたしになんて不釣り合いで綺麗な言葉に、薄く自嘲の笑みを浮かべた。





買い物まで書こうかとも思ったんですが、「よく似合ってる」「それも可愛いよ」「このパンプスも似合うんじゃないかな」と褒めちぎる優孝がいるだけなのでここまで。ちょっぴり息抜き的なお話でした。



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