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フラグを立てろ  作者: 遊楽
4月 出会いイベント
6/18

シナリオ外『委員会』



お気に入り登録ありがとうございます。



先生登場に見せかけた説明回。





 なんとか井芹のイベントをこなし、教室に戻る。お姫様の予定外の台詞もあったが結果的には問題ない。現実であるが故に台詞にも多少の誤差があるのだろう。今回はそう大きな誤差にはならなかったが、これから先もこういうことがあるようなら注意しなくては。イベントが失敗するのは困る。



 「おー、席着けー。休み時間終わってんぞー」



 だるそうな声と共に教室に入ってきたのはクラス担任の芦江匡一である。理科の教師であるからか、授業がないこんな日まで白衣姿のイケメン教師。昨日は教室にいなかったから分からないけれど、この男が担任と分かった時さぞ女子は色めき立ったことだろう。



 「せんせぇ、何すんのー」



 新入生らしくきちんと席に座り、指示を仰ぐ男子生徒になんだと思う? と芦江先生は無駄に思わせぶりな笑みを見せる。きゃあと女の子たちが小さく悲鳴を上げた。



 「この時間は委員会を決める。昨日説明したと思うが……あー、千条はいなかったか」


 「はい」


 「じゃ、千条には後で説明する。とりあえず昨日配ったプリント見て、この紙に希望の委員会を書くこと。第3希望までな。かぶってたらこっちで勝手に第2、第3の希望見て変えるから本当にやりたいやつ書けよー」



 はーいと素直に返事をする生徒たちに頷いて、芦江先生はちょいちょいとわたしを手招きする。がたりと立ち上がって近付けば、労わるように視線がわたしの顔を見つめる。



 「千条、具合はもういいのか? 昨日は早引けしたんだろう」


 「はい。少し気分が悪くなっただけなので」



 芦江匡一はヒロインさえ関わらなければ、ただの「生徒思いのいい先生」だ。シナリオ序盤ではクラスになかなか馴染まない女王様を気にかけたり、他ルートでは攻略対象キャラのヤンデレ度が上がる度に困ったことはないかと声をかけたりと、あなきみプレイ中の麻痺したプレイヤーたちにはそれはそれは優しい男に映り人気もあった。  


 シナリオを進めていくにつれヤンデレ化していくが、どちらかと言えばM寄りで、シナリオ中ヒロインが傷つけられることはほとんどない。


 「おまえの記憶に俺を刻みたい」と主人公の前で血まみれ自殺をするエンドもあったが、ハッピーエンドは自宅に軟禁してひたすら愛を囁く程度であないきの世界では軽度のヤンデレだった。まあ、そのスチルで主人公の手にナイフを握らせて「おまえのものだって証を刻め」とか言っていた辺り、さすがあないきのキャラクターだったけど。教師のくせに好感度が上がりやすいこともあり、ファンの間ではチョロ一なんてあだ名をつけられたりもしていた。



 「今日は顔色も良さそうだな。具合悪かったら無理せず保健室行けよ」


 「はい、ありがとうございます」



 気遣わしげな視線にはっきりと頷いてみせる。


 まだゲームは序盤、この人がわたしにナイフを握らせることはないし、わたしの目の前で自分の首にナイフを突き立てることもない。好感度が上がりやすいというのも接する機会が多いわたしとしてはありがたい。



 「で、委員会の説明なんだが。ほい、これプリントな」



 手渡されたプリントに視線を落とす。プリントにはざっと20ほどの見覚えのある委員会名が連ねられている。


 あなきみにはパラ上げのコマンドが存在する。一週間を1ターンとして、週末のみコマンドを入力することで学力、魅力、スペシャルのパラメーターを上げることができる。学力は言うまでもなく勉強をすることで、魅力は休日街に出かけることで上げることができる。キャラクターによって必要とされるパラメーターが違い、芦江匡一ルートに入るための必要パラ数値が低かったのも、チョロ一というあだ名の一因となっている。


 そして、スペシャルという常にないパラメーターは女王様ヒロインは上品パラ、お姫様ヒロインは純粋パラという名前がつけられていて、なぜか特定の委員会に入ることで上げることができた。


 あなきみの場合、パラメーター自体にあまり意味はない。学力パラが上がってもテスト関連のイベントがないからイベントに関係することはないし、上品パラを上げたからといって女王様ヒロインに上品さがプラスされるとかそういうことはない。ただ、個別ルートに入るために一定値が必要なだけである。つまり、個別ルートに入ってしまえば学力パラも魅力パラも上品パラも関係がなくなってしまう。個別ルートに入ればシナリオ中の会話やイベントでの選択肢による好感度のみでエンディングが決まるからだ。


 現実ではもちろんパラメータのように数値で目に見える形になるわけではないからどうなるかは分からないけれど、ゲームでは退廃エンドへ向かうためには、好感度を全て同じに保ったまま全てのパラメーターを限界値まで上げる必要があった。


 勉強はがむしゃらにするしかないし、魅力もメイクやら流行りのファッションやらを取り入れようと頑張ってはいるが、問題は上品パラだ。努力次第でどうにかなるものでもなさそうだし、現実でどうすれば上がるのか皆目見当もつかない。本当に上がるかどうかは別として、とりあえず上品パラが上がる委員会に入っておくしかない。



 「先生、この副生徒会というのは?」



 副生徒会は、ゲームで上品パラ、純粋パラを上げるのに一番効率がよかった委員会である。が、ゲーム中にこの謎の委員会の説明はなかった。ゲーム内では本当にパラ上げのために所属しているだけで、入っている委員会に関連したイベントはなかったのだ。ファンの間ではそれぞれのキャラが入る委員会に絡めた二次創作もされていたが、公式ではファンブックでキャラクターの所属する委員会が明かされただけでその他一切触れられていない。



 「あーそれな。見慣れない委員会だよなー。生徒会には2年生になって選挙を経てからじゃないと入れないのは知ってるか?」


 「はい」



 今年3年生の優孝は2年のときに選挙で会計に選ばれ、今年再び選挙に勝ち会長補佐にまで上り詰めている。毎年成績上位者が推薦され、それを全校生徒が投票して決めるという形がとられており、歴代随一と名高い生徒会長は頭も良ければ、顔も良く、家柄もいいという超人だ。……もちろん、この会長こそが最後の攻略対象の1人である。



 「副生徒会は1年生のみで形成される生徒会の下部組織だ。簡単に言えば生徒会の雑用を任される委員会だな。絶対というわけじゃないが、2年生になってからの選挙では生徒会役員に推薦されやすくなる」


 「なるほど」



 そんなことをしている委員会だったのか。生徒会の下部組織ということであれば、会長補佐の優孝と話す機会もあるかもしれないし、5月になると登場する攻略対象である生徒会長とそれより前に接触できる機会があるかもしれない。



 「今年は会長も会長補佐もイケメン揃いだからなー。きっと人気だぞ」


 「はあ」



 『副生徒会、男女各1名ずつ』の文字を指先でなぞる。


 お姫様は副生徒会に入るのだろうか。それとも、他の委員会か。文化祭実行委員なんて、そういうことが好きそうなお姫様が飛びつきそうである。


 丁寧に説明してくれた芦江先生にもう一度お礼を言ってから、自分の席に戻る。


 周りではすでに仲良くなった者同士が「どこに入るー?」なんて会話をしているが、残念ながら入学式後の自己紹介にもいなければ、午前中の休み時間のほとんどをCクラス前の廊下で潰したわたしにそんな会話ができる相手はいない。   


 ……まあ慣れたものだ。この顔に、この性格で振る舞っていればいい噂などないことは分かり切っているし、この顔が同性から好感をもたれないこともこの16年の人生で学んでいる。自分から話しかけるほどの勇気がないのが一因であることも自覚済みだ。



 そんなことより問題は、どの委員会に入るべきかである。


 副生徒会がパラ上げの意味も含めて一番魅力的であるが、保健委員は三晴センパイがいるし、学校委員なんていう名前だけっぽい委員会でも上品パラを上げることはできた。……しかし。


 1、2、3と手作り感満載の数字だけが書かれた紙に希望の委員会を書き込みながら、これからのことに思いを馳せる。


 上品、なんていう曖昧なパラメーターが上がるかどうかはともかく、わたしが入りたい委員会は決まっている。



――――――

――――



 「やっぱ副生徒会に集中してんなー」



 放課後、生徒たちに書かせた希望調査の紙を見ながら、そう芦江匡一は独り言ちる。


 今年の生徒会は女子ウケの良さそうな男子生徒が多い。その上、大学進学にも有利に働く生徒会に入るチャンスを掴めるかもしれないとなれば、この学園の生徒たちのことだ、希望するのも当然と言えた。


 第2、第3希望を確認しながら、委員会を調整していく。どんなに希望していても定員は2人。どうにかして選ばなくてはならない。



 「うお、まじか」



 さて、次はと紙をめくり、芦江は手を止めた。


 名前の欄を見れば几帳面な字で千条瑛莉と記されている。整った、けれど気の強そうな顔をした生徒の希望調査用紙である。


 千条瑛莉は、昨日は体調不良で入学式にも出席できずに早引けしたと連絡があったが今日は顔色も悪くなく出席していた。周りと馴染みにくそうな雰囲気の持ち主だから心配しているが、まだ入学してから2日。気長に見ていればいいだろうと少し気に掛ける程度に留めている生徒。


 あの千条家の妹が入学してくると教師内でも噂されていたが、芦江にとってはそれがどんな家の者であれ皆大事な生徒である。あの会長補佐の妹というだけあって整った顔だちにも、これから男子生徒に騒がれそうだ、と下世話な感想を持っただけだ。



 「まあ、駄目とは言ってねーが……仕方ねぇなあ」



 ただの白紙に1、2、3と数字を振っただけの簡素な希望調査用紙に書いてあるのはたった1つ。それをボールペンの先でトントンと叩きながら、委員会名簿を引き寄せる。


 『1、副生徒会』


 それから下にはなにも書かず、提出されたそれに苦笑を浮かべ。


 委員会名簿の副生徒会の欄に千条瑛莉の名を記した。






基本的に芦江せんせーはいい人です。ヤンデレなければ。授業もわかりやすいので生徒に人気があります。


ついに存在だけが明らかになった最後の攻略対象キャラ。名前と接触はもうしばらくお待ちください。





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