表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フラグを立てろ  作者: 遊楽
4月 出会いイベント
4/18

シナリオ外『2人のヒロイン』もしくは出会いイベント『本当の笑顔2』



ランキング入り、だと……!?恐れおののきながら、次話更新です。お気に入り登録ありがとうございます。



いまさらですが、ご説明をば。サブタイに「もしくは」がついたときはお姫様がイベントをこなしています。『』内はイベント名。







 たぶん、無事にイベントを終えたのだと思う。「近いです」とシナリオ通りに言葉を紡げば「ごめんねー」という軽い言葉と共に顔が離された。



 「保護者の方に連絡しようか? あ、それより担任の方が先か。後輩チャン、何クラス?」


 「Aクラスです」


 「ほいほい、Aねー。じゃあ、担任はきょーちゃんかなあ」



 そう、わたしの担任はその『きょーちゃん』だ。攻略対象の1人、芦江匡一あしえきょういち。「俺が死んだらおまえの記憶に残るよな」タイプのヤンデレ教師。担任だから出会いイベントはなくて、5月のクラス合宿のときにスチルありのイベントがある。この人は慌てなくても教室に行けば会えるから大丈夫。


 そして、お姫様がこの教師と出会うのも5月に入ってからだ。彼女はクラスが違うから、廊下で荷物を持っているところを助けてもらうというイベントがある。



 「じゃあ、ちょっと連絡入れてくるね。具合悪くなったらすぐ呼んでね。廊下にいるから」



 スマホ片手に保健室を出ていく三晴センパイにありがとうございます、と声をかける。



 保護者、といえばそろそろ入学式が終わる頃だろうか。優孝はどうしているだろう。……お姫様には会ったのだろうか。


 ぎりとベッドのシーツを握りしめる。


 優孝を繋ぎとめておくにはどうすればいいだろう。いっそわたし以外は見ないでとしばりつけてみようか。たしか優孝のバッドエンドには瑛莉がヤンデレ化するエンディングがあったはずだ。



 「……まあ、それは最終手段」



 優しい優孝はきっと甘んじてわたしに縛りつけられてくれる。時期を見極めなくては、逆ハーエンドにもっていくのが難しくなりそうだけれど。



 「瑛莉!!」



 どうしたものかと思案を巡らせていると、大きな音を立てて保健室の扉が開いた。目を向ければ、見慣れた金髪が珍しく乱れていて驚きに目を見開く。



 「あら、優孝。どうしたのそんなに慌てて」


 「あら、じゃないよ! 大丈夫? 倒れたって聞いて……」


 「倒れてなんていないわ。少し気分が悪くなっただけよ。親切な先輩がここまで連れてきてくださったの」



 誰だ、優孝にウソを教えたのは。


 けれど顔を青くさせて駆けつけてくれた優孝を見て、ほんの少し安心する。大丈夫、わたしはまだ大切にされている。優孝の心はまだお姫様のものになってはいない。


 ……ああ、なんて醜い。



 「あっれー、後輩チャンってば会長補佐のお知り合いだったの?」


 「兄です」


 「あ、おにーさん」



 通話を終えたのかひょっこり戻って来た三晴センパイがへえ? と楽しげに首を傾ける。



 「じゃあ、後輩チャンも千条なわけだ?」


 「ええ、まあ。千条瑛莉といいます」


 「瑛莉チャン、ね。僕は天王寺三晴。好きによんでいーよ?」


 「はあ……」



 やけに楽しげな三晴センパイに眉を寄せる。あのイベントは先輩が顔を離して終わりだったから、そこから先の流れは分からない。たしか自己紹介はなく、噂で名前を知るという流れだったからここで名前を知っても問題はないだろう。



 「天王寺がここまで連れて来てくれのか。ありがとう。僕が連れて帰るから、君は自分の仕事に戻ってかまわないよ」



 三晴センパイと優孝は同じ3年生ではあるが、面識はなかったはずだ。しかし、優孝は知っているのかよそ行きの愛想のよさで三晴センパイに頭を下げる。



 「はいはーい。じゃあね、瑛莉チャン、またおしゃべりしよーね! あ、もちろん今度は元気な時に!」


 「はい、ぜひ」



 ひらひら手を振ってあっさり出ていった三晴センパイの足音が完全に聞こえなくなってから、優孝はふうと肩の力を抜いた。



 「なんともなくてよかったよ。今日はもう帰ろう。どうせ教室へ行っても自己紹介くらいしかしないから大丈夫だよ」



 「うん、そうするわ」



 ベッドからそろりと降りて優孝の隣に立つ。


 帰ろうかと微笑む優孝はいつも通り。大して重くもないカバンを持ってくれるのもいつも通り。それにようやくざわつく心が落ち着いた。


 廊下に出ると少し騒がしかった。どうやら入学式が終わり、新入生が移動を始めたらしい。ざわつく生徒たちの声をBGMにわたしは隣を歩く優孝を見上げる。



 「優孝、生徒会の仕事はもういいの?」


 「うん、一応新入生を講堂まで送り届けるっていう仕事もしたし、あとは片付けだけだから。僕がいなくても大丈夫」



 その言葉に落ち着いたばかりの心が毛羽立った。


 新入生。送り届ける。……ああ、やはり。



 「し、新入生って、」


 「あ、さっきの先輩!」



 背後から聞こえた声にびくりと動きを止める。鈴が鳴るような可愛らしい声。


 ゆっくりと振り返れば、ゲームから飛び出してきたような完璧な美少女が満面の笑みを浮かべて立っていた。お姫様と同じ色、同じ顔。主人公にボイスはなかったけれど、その外見にぴったりの声。


 どうやら優孝の姿を見つけて、集団から飛び出して来たらしい。何事かと何人かの生徒がこちらに視線を向けている。



 「さっきはありがとうございました! ほんとに助かりました」



 素直で、真っ直ぐ。礼儀正しくて、間違ったことは大嫌い。ヒロインになるために生まれたような、そんな女の子。……わたしとは正反対の女の子。



 「……瑛莉?」



 固まったまま動かないわたしを心配したのか、お姫様の言葉に返事もせず優孝がわたしの顔を覗き込む。


 その瞳に自分の情けない顔が映り込む。千条瑛莉らしくない、眉の垂れた顔。千条瑛莉はもっと強くなければならないのに。



 「瑛莉、どうしたの。ひどい顔色だ」


 「なんでも、ないわ」


 「なんでもないって顔じゃないでしょう。まだ具合が悪い? もう少し休んでから帰ろうか?」


 「……だいじょ、「あの、先輩?」



 遠慮がちに、けれどはっきりとかけられた声に心配を浮かべた瞳がふいと逸れる。


 ああ、ここで気を失えるか弱さがあればどんなによかったか。そうしたら、優孝をあの子から引き離せるのに。


 そんなことしか考えられないわたしに、残念ながらそんなか弱さの持ち合わせはなく。



 「どうかされたんですか? 具合が悪いなら保健室行った方が……わたし連れていきましょうか?」


 「いいよ、大丈夫。君、Cクラスなんだろう? ここからは少し遠いから、早く行った方がいい。この子は僕が連れていくから」


 「わっ、そうなんですか? 急がなきゃ! あ、先輩お名前教えてもらえませんか? わたし、相原妃花っていいます!」



 気遣わしげに向けられた視線はすぐにそれ、その瞳は真っ直ぐと優孝に向けられている。


 ゲームと同じデフォルト名。何から何までシナリオ通りの台詞。まごうことなき、お姫様。



 ……やめてよ。優孝を見ないで。



 「千条優孝。3年生だよ」


 「優孝先輩? かっこいい名前! これからよろしくお願いしますね!」



 やめて、やめてよ。その口で、その声で、優孝のことを呼ばないで。優孝をとっていかないで。優孝は、わたしのものなのに。あなたは愛されて生きてきたんだから、優孝でなくてもいいでしょう?



 涙を流す儚さもないわたしには、始まりのワンシーンをただ見つめることしかできない。その代わりに、心の中で誰かが声の限りに泣き叫んでいた。



 わたしをひとりにしないで。





王道を逸れて突っ走っております。「こんなはずじゃなかった!」とヒロインより先に叫びつつ、こういうお話書くの大好きだったり。



優孝視点を入れたいのですが、まだ早いような気も……。もう少しお姫様が出てきたら、きっとたぶん、優孝視点でお姫様のイベントの話が入ります。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ