『あなたのために、生きている』
書きたかったはずの乙女ゲームもの。なにがどうしてこうなったのか。
王道を外れて逆ハーエンドを目指す彼女の物語。最後は「こんなはずじゃなかった!」と叫ぶ未定な予定。
20禁乙女ゲーム、『あなたのために、生きている』略して『あないき』は、私立藤咲学園を舞台に繰り広げられる恋模様を描いた、わたしが生前こよなく愛した乙女ゲームである。
ダブル主人公という乙女ゲームでは珍しいタイプで、攻略対象全員がヤンデレという買う人を選ぶゲームだった。そのうえ、ダブル主人公各々に攻略対象がいるのではなく、同じ攻略対象を奪い合うという斬新な設定まであった。故に一部に熱狂的なファンはできたが、大きく騒がれることもなく消えていったゲームである。
このゲームを語るにはまず、2人のヒロインについて説明した方がいいだろう。
まず、1人目のヒロイン。彼女は言うならば、お姫様タイプのよくいる乙女ゲーム主人公だ。
ピンクベージュのふわふわミディアムへアにみかん色の瞳、自分に向けられる好意には鈍感すぎるくらい鈍感で、他人の心の痛みには敏感すぎるくらい敏感。誰からも愛されて、気づけばみんなの中心にいるような典型的な主人公。襲いくるヤンデレたちが「君には俺だけだろ?」と言おうものなら、「うん? ごめん、なんて言ったの?」と返すような突然耳が遠くなるタイプ。現実にいたら殴り倒したくなること請け合いだが、なにせ可愛いので全てが許される。可愛いは正義。
そして、もう1人のヒロイン。こちらはなかなかの新タイプだった。まず乙女ゲームや少女漫画に出てくるライバルキャラを思い浮かべてほしい。それがそのまま、このヒロインだと思ってくれていい。
金髪のくるくるロングヘアに性格きつそうな赤色のつり目。体はボンッキュッボンのナイスボディで、背は高め。自分に向けられる感情なら、悪意であれ好意であれ敏感に感じ取り、悪意なら倍返し、好意なら鈍感なふりをしながら絡めとる。基本的に同性からは嫌われて、異性からは女王様と慕われる、典型的な悪役キャラ。襲いくるヤンデレたちが、「君には俺だけだろ?」と言おうものなら、「あなたにもわたしだけなら、わたしもあなただけを愛してあげる」と返すような女王様タイプ。現実にいたら絶対に友だちになりたくないが、なにせ美人で権力もあるので誰も逆らえない。長い物には巻かれるべき。
この2人のヒロインのうち、プレイヤーはどちらかを選んで物語を進めることができる。どちらを選んでも全ての攻略対象キャラを攻略することが可能。エンディングは各ヒロインごとに異なるが、物語の大筋はだいたい同じ。だけど、全てのエンディングを見ると各ヒロインにつき1つずつ隠しエンディングが存在する。言ってしまえば、どちらも逆ハーエンドなのだが、その種類が大きく違った。
お姫様ヒロインの場合、隠しエンディングは純愛エンドだ。
総勢5名のキャラクターたちがお姫様ヒロインを取り囲み、「君を愛してる」「君だけが好きなんだ」と愛を囁く。それまでのシナリオで少しばかりヤンデレ気味だったキャラクターたちは「自分は大事なお姫様に何をしようとしていたのだ」と深く反省し、純粋な愛を捧げるわけだ。それに鈍感ヒロインが何を返すかと言えば、「わたしもみんなが大好きだよ! ずっと仲良くしようね!」と返す。純愛エンドではなく友情エンドだろうというツッコミは、ファンの間では使い古されたツッコミである。
別にこのエンディングのせいだけではないのだが、お姫様ヒロインはファンの間でフラグクラッシャーと呼ばれている。なにせ立つフラグ立つフラグ全てを折っていくのだ。よくもまあ、ハッピーエンドにたどり着けたものである。
そして、物議をかもしたのが女王様ヒロインの隠しエンディングである。その名も、退廃エンド。
総勢5名のキャラクターたちが女王様ヒロインを取り囲むところまでは同じだが、こちらの場合キャラクターたちはヤンデレ街道をまっしぐら、イノシシも真っ青なスピードで突き進んでいる。「おまえには俺だけだろう」「俺だけを愛してくれないなら殺す」などなど物騒な愛を囁く彼らに、女王様がなにを返すかといえば「わたしのために生きてくれるのなら、わたしもあなたたちをずっと愛してアゲル」という台詞である。足を組み腰かける彼女のまわりに侍る麗しの攻略対象キャラクターたちは軒並み目から光を失っていた。これこそ真のヤンデレとファンたちを興奮させたエンディングである。
だがしかし、このエンディング実は実際目にできた人はとても少ない。なぜなら、お姫様ヒロイン、女王様ヒロイン共に全てのエンディングを見た勇者に与えられたご褒美エンディングだったからである。
普通のゲームであればフルコンプくらいと思うかもしれないが、このゲームが普通であるはずがない。なにせ、あないきの売り文句は『ヤンデレ好きに贈る、ヤンデレ好きのための乙女ゲーム』だ。全5種のエンディングのうち、キャラクターたちがヤンデレないエンディングは1つもない。唯一ヤンデレないエンディングは幻の隠しエンディングのみというちょっとどうなのなゲームなのである。
ヤンデレ好きに贈る、というだけあって多種多様なヤンデレを取りそろえたこの作品、エンディングも多種多様、流血も多量、死者も大量であった。性描写があるとはいえ、なぜこのゲームがR18ではなくR20なのかといえば、この流血表現・残虐表現が非常によろしくなかったからだ。なにせ、注意書きには心臓の悪い人はプレイしないでくださいとまで書いてあった。
そんなグログロなゲームであったから、フルコンする前にリタイアする人が多く、全ての心抉られるエンディングに耐えることができた人しか見ることができなかったのである。わたし? わたしは数少ない、フルコンしたプレイヤーである。退廃エンドが一番のお気に入りだった。
……とまあ、長い長いゲームの説明はこれくらいにして。
「瑛莉、何しているの。ほら、おいで」
「待って、優孝。今行くわ」
そんなあないきの世界に転生したわたし、千条瑛莉はあないきの舞台となる私立藤咲学園の門をくぐった。……あないきダブル主人公の1人、女王様ヒロインとして。
説明回でした。
2015.4.28 修正