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夢夢表裏  作者: 皆麻 兎
Case1 初めてづくし
7/10

第5話 皆の前で話せなかった事

「…目が覚めたようだね」

靄がかかっていた意識がはっきりした時に初めて聞いたのが、榎本先生の一言であった。

半夢魔(ハキュバス)として初めての実戦をした僕は、ゆっくりと身を起こす。周囲にいるのは、デスクに座ってパソコンをしていた先生と、ウトウトしている真央さん。

「あれ…?皆は、まだ…」

やけに周囲が静かだと感じた僕は、辺りを見回す。

すると、夕慧や竽喜竹。美雨の瞳は閉じたままで、まだ眠っているようであった。

「今回、君が先に“帰らせてもらった”…そういう事だよね?」

「そういえば…」

榎本先生の一言で、僕は目が覚めるまでの事を思いかえす。


男型の夢魔・イキュバスを倒した僕と夕慧は、夢界で初めて目にした“半夢魔の普遍的無意識”の空間へ戻っていた。

「おかえり、二人とも」

「ああ…」

扉を開けた先で待ち構えていたのが、微笑みを浮かべながら声をかけてくれた美雨だった。

彼女の第一声に対し、夕慧は少しけだるそうな声で答える。

「…乱馬君、初めての“夢魔退治”と“夢の干渉”はどうだった?」

「あ…えっと…」

美雨に感想を聞かれ、何と答えればよいか少し戸惑う。

 あの、久々に竹刀を握れた感覚…。それが思う存分に発揮できる事を思うと…

僕は自分の掌を見つめながら、その場で考え事をする。

「すごく力がみなぎったような…不思議な感覚だったかも」

考えて出した答えが、今の台詞であった。

「お前みたいな奴にとって、“夢の中”は…現実世界での怪我とか気にしなくていいから、気持ちよかったんじゃねぇの?」

「!!」

壁に突っ立っていた竽喜竹の台詞に、僕の表情が強張る。

「竽喜竹…何故、あんたが“それ”を知っている…?」

触れられたくない事に触れられた僕は、少し苛立ったような口調で彼を睨む。

僕は中学時代にとある事故がきっかけで腕を怪我し、二度と竹刀を握れない腕となってしまった。志愧(しき)のように、中学時代からの友人等は知っているだろうが、高校から入ったこの文面学園の生徒には誰一人として話していない事実だ。それなのに、竽喜竹の台詞はまるで僕の怪我の事を知っているような口ぶりだったのである。

「…お前、無意識の内に右手首とかよく触っていただろ?それに、竹刀を具現化できた時の表情から、“現実世界ではやりたくてもできない”のではないかという推測したに過ぎない」

竽喜竹は僕の眼差しに一瞬だけ怯んだように見えたが、すぐにけだるそうな表情に戻って口を開く。

「そんなちょっとした事で、見抜いたと…?」

「…それが、竽喜竹(そいつ)能力(ちから)だよ」

「夕慧…?」

僕が口にした疑問を答えたのは、先程まで黙り込んでいた夕慧だった。

「竽喜竹の場合、夢界にて強化されるのは“視力”。動体視力から、半夢魔(あたしら)や敵のオーラを感じ取る事とかできるんだ」

「…」

彼女の説明に対し、僕は黙って聞いていた。

 夢界で強くなる能力っていうのは、一概に運動能力だけではない…という事かな?

僕は腕を組みながら、そんな事を考えていたのである。

「ちゃんとした説明どうも…。んな事より、終わったんならさっさと戻ろうぜ」

すると竽喜竹は、興味なさそうな口ぶりで呟きながら、一歩二歩と足を動かし始める。

「戻るって、どうやって…?」

夢の干渉もそうだが、今回の全てに関する事が初めてだった僕が、彼にこう尋ねるのはごく自然な流れであった。

「最初と一緒!心の中で、“夢夢表裏”という言葉を繰り返し言うの!」

「成程…ありがとうな、美雨!」

しっかりと応えてくれた美雨に対し、僕は穏やかな笑みを浮かべながら礼を述べる。

戻ろうと思い僕は足を動かすが、自分以外の3人がその場を動く気配がなかった。

「皆…戻らないのか?」

不思議に思った僕は、彼らに問いかける。

「…あたしらは少し、3人で話があるから…先に戻っていてくれ」

「わか…った…」

その問いに答えてくれたのは、夕慧だった。

 夢夢表裏…夢夢表裏…

僕は皆と少し離れた場所で瞳を閉じ、来る時に唱えたのと同じ言葉を心の中で繰り返し唱えるのであった。


「…初めてな事だらけで、寝たとはいえ疲れたろ?…ほら」

「あ…ありがとうございます」

ボンヤリしていた僕に対し、榎本先生がホットコーヒーの入ったマグカップを手渡してくれる。

 ブラックか…カフェラテやカプチーノとかだったら、よかったんだよな~…

頭がボンヤリしていた僕は、もらったコーヒーを飲みながら、まだ眠りについている夕慧達を見つめていた。

「あーそうだ。乱馬くぅーん…」

「真央さん…」

コーヒーを飲みほした後、目が覚めた真央さんが寝ぼけ眼で自分の方に近づいてくる。

「今日のお昼頃って、空いてるかにゃ…~??」

「あ…はい。空いてますが…?」

目をこすりながら話す彼女に対し、少し戸惑いながら答える。

 何だろう…別に薄着でも胸肌蹴ている訳でもないのに…この女性(ひと)を見つめていると、ドキドキする…?

僕は自分が感じているものの原因がわからず、心臓を強く脈打たせていた。また、昨日も見かけた猫耳が、彼女の頭から飛び出ていたのである。

「…猫又の力、丸出しだぞ真央ちゃん!」

「んにゃっ!?」

「なっ!!?」

すると突然、彼女の背後に立った榎本先生が、頭上にある猫耳にかじりついたのだ。

それに気が付いた真央さんは、身体を一瞬震わせ、目を見開いて驚く。おそらく、今のアクションで彼女は完全に眠気が吹っ飛んだんだろう。

「もー…教えただろう?猫又の力を放出したらい…世の男どもは、皆が君の虜になっちゃうんだから~…」

「にゃ…せ、先生…!わかったから…!!(そこ)はやめて~!!」

先生に後ろから羽交い絞めにされた真央さんは、頬を真っ赤に染めながら叫ぶ。

 く…くすぐったいの…かな?

僕は鼻血が出そうな鼻を押さえながら、彼らを観察していた。ものすごいアダルトな物を見てしまったせいもあってか、自分の頬も真っ赤に染まっていただろう。


「あー…もー…」

息切れをしながら、先生の腕から逃れた真央さん。

逃れたというよりは、当て身を食らわせて地面に落としたといった方が正確かもしれないが――――――――

「んー…うるせぇなぁ…」

竽喜竹による呟きが聴こえたのを確認した僕は、彼ら3人も目覚めようとしているのを悟る。

「今日のお昼、昨日話せなかった事も含めて君に説明があるからー…そうだ!学園のカフェに来てくれない?」

「あ…はい…」

僕は真央さんからの誘いを受ける事にした。

最も、知らない事だらけの僕にとって今は、とにかく「知る事」が何よりも大切なのかもしれない。また、先程見えていた猫耳も、先生に当て身を食らわせた後はもう隠れていた。

 耳が自由自在…。この人もおそらく、ただの人間じゃないんだろうなぁ~…

そう思いながら、僕は榎本医院を後にする。

目が覚めたのが早朝だったので、僕は始発で家に一旦帰り、それから再び学校へ行くのであった。



「あ、真央さん!」

「ごめ~~ん!待ったぁー??」

「や…大丈夫…です!」

「ふふ…相変わらず、嘘つくの下手だね」

あれからお昼となり、僕は学園内にあるカフェの席で真央さんを迎える。

 嘘だって見抜いていたなら、聞かなければいいのに…

今の会話で僕がそう思ったのは、言うまでもない。

因みにこのカフェは生徒や教職員も使える施設で、全科共通なので中等部・高等部・大学生でお昼の時間は賑わう。広いとはいえ、全校生徒が使う分席を取るのはたやすくはない。ただ、今日はどういう偶然か、たまたま席を確保する事ができたようだ。

「さって!君ら高等部は、大学生(あたしら)より次の授業始まるの早いから…手短に済ますね」

そう言った真央さんは、片手に持っていたノートパソコンを取り出す。

「それって…」

「そう!あたしら大学生は、学生証を提示すれば、決まった時間だけノートパソコンを学校から借りられるの!」

そう得意げに話しながら、真央さんはパソコンのスイッチを入れて起動し、きーぼーどを手早く動かす。

「“DONE”…。これって、確か…」

その後、彼女がパソコンの画面を僕に見せてくれる。

そこに映っていたのは、某有名アプリを発信している会社のホームページだった。

「そ!今後のために必要なんだけど…君はやってる?」

「あ…はい。最近始めたばかりなんで、あまり詳しくはないですが…」

口を動かしながら、僕は自分が持っているスマートフォンを取り出す。

“DONE”とは、近年の日本において最大ユーザー数を持つといわれる無料通話やチャットができるスマートフォン用のソフト。チャットの作動環境が良かったり“コニュニティー”といわれるグループ機能が人気あるとかで、僕も最近始めたばかりであった。

「登録しているなら、話が早いわ!君にはこれから、とあるコミュニティーに入ってもらうから…携帯のアドレス教えてくれない?」

そう言いながら、真央さんも自分のスマートフォンを取り出す。

「あ…はい。じゃあ、赤外線送信してもいいですか?」

「OK!私のはできる機種だから、大丈夫だよ」

そう言うや否や、僕は慣れた手つきで自分のプロフィールページを出し、赤外線送信を選択する。

僕は元々パソコンや機械関係が好きで、お金があればスマートフォンなんかは1年ごとに買い替えたいくらいだ。しかし、高校生になったばかりだし、何よりバイトしていないからお金がないのが現実。なので、高校生活では部活をやらないでバイトを始めようかと思っていた所だった。

「よし!…来たかな?」

「あ…はい!…“四面楚歌”…?」

僕からの赤外線送信を受けた後、真央さんも慣れた手つきでスマホを操作し、気が付くと僕の方に“コミュニティーのお誘い”というメッセージが届いていた。

「このコミュニティーって一体…?」

スマホの画面を見た僕は、すぐに顔をあげて真央さんに尋ねる。

「…?」

すると彼女は、人差し指を口元に当てて、“静かにして”というジェスチャーをしていた。

何故そんな事をしたのかはわからなかったが、その直後に真央さんがパソコンのキーボードを動かす。

「そういう事…ですね」

画面を見た時、何故彼女が僕を黙らせようとしたのかがわかった。

 “ここから先の話は、他に聞かれたくない話だから、パソコンの文字を使って説明するね”…か。成程、確かに半夢魔(ハキュバス)の事とかは、大きな声では言えなそうな話だよな…

僕はパソコンのメモ帳に書かれた文字を読んで納得した。そんな自分を確認した真央さんは、再びキーボードに両手を添えて動かし始める。

“これは祓魔師(エクソシスト)協会公認のコミュニティーで、あたしたち半夢魔が所属するものなの”

文面を読んで、読み終えた所で僕は頷く。すると、次の文章が映し出される―――――――――それの繰り返しであった。

「でも、何だってそんな名前?」

この時つい、今の言葉が口から洩れてしまう。

周りに聴こえても大丈夫な台詞なので良かったが、もし半夢魔に関する内容だったら危ないところだった。でも、疑問に思ったのは本当で…“四面楚歌”といえば、四方を敵に囲まれて容易には逃げられない状況からつけられた言葉。彼女曰く、その名前の由来は、三国志で出てくる有名な言葉なので「歴史好きのコニュニティー」と世間や敵に錯覚させるためではないかと述べていた。

また彼女の説明により、半夢魔による組織は祓魔師と比べると少なく、規模も小さい。国や協会から予算が出ないため、こういったネット上のコミュニティー等でしか組織を運営できないという。そこには、半夢魔が夢魔と人間の両方の血を受け継ぐために忌み嫌われた過去の歴史がそうさせているのだと、真央さんは言う。

“DONEのコミュニティー機能は、一人の発言を皆で共有できるでしょう?これを使って私達は、榎本先生から患者の話を聞いたり、お互いの情報交換や連絡。祓魔師協会からの指令等を伝えるの”

続けて出てくる真央さんの文。それを最後に、コミュニティーの説明については終わった。

「ちょっと…いいですか?」

「何…?」

僕が声をかけると、そこでようやく真央さんは口を開く。

了承を得た僕はノートパソコンを自分の方に向け、キーボードで打ち始める。

「!」

僕がキーボードに打ちこんだ文字を読んだ彼女の表情が強張る。

“榎本先生も先ほど言ってましたが、”猫又“とは何の事ですか?”――――――――これが僕の書いた質問であった。画面を見た後、真央さんは深刻な表情を浮かべながら手を動かし始める。

“猫又…っていう妖怪の名前は聞いた事あるよね?…結論から先に言うと、あたしはその猫又と人間の両方の血を引いているの”

「え…」

画面を見た僕は、驚きの余り硬直してしまう。

“猫又は魅惑の術で男を誘惑する事から、サキュバスの一種だと言われている。だから、あたしも君らと同じ”半夢魔“ってわけ”

真剣な表情をしながら、真央さんはキーボードを打つ。

 でも、見た目が普通の人間と変わらない僕らと違って…

そう思った僕は再び、パソコンのキーボードに触れる。

“見た目が普通の人間と大して変わらない僕らと違い、貴女は時々猫耳が現れてましたね。あれってどういう事なんですか?”

打ち終えた後、僕は少し用心深い眼差しで真央さんを見上げた。それを目の当たりにした彼女は、フッと哂いながら手を動かす。

“あたしの家は古来、先祖が猫又と交わった事で繁栄したと聞いている。そんであたしの場合、一種の先祖がえり――――――――――要は、先祖の力が一族の他の奴らより強いってわけ”

「そう…だったんですか」

この辛辣そうな言葉に、僕は胸が少し痛む。

それは“あまり触れてほしくない事”だと直感でわかってしまったからだ。人間は誰でも触れてほしくない事の一つや二つはある。彼女とて、例外ではない。


「って、あ…!!!」

その直後、ノートパソコンに表示されている時計の時間を見て僕は突然立ち上がる。

「しまった…あと3分で、次の授業始まっちゃう…!!?」

気が付けばお昼時間がまもなく終わってしまう所だった。

「ま…真央さんっ!」

僕は急いで教室に戻ろうと席を立つが、走り出す前に真央さんの方に振り返る。

「いろいろ話してくれて…ありがとうございましたっ!!」

礼を告げた後、僕は猛ダッシュでカフェを後にした。

その姿を、真央さんは優雅に手を振りながら見送る。

「名前通り、“乱れまくりの仔馬君”って所かにゃー…」

僕が去った後、真央さんはクスクスと笑いながら呟く。

「あの子との関わりで、皆…。特に夕慧ちゃんの闇を癒せれば、いいんだけどなぁー…」

少し遠くを見つめるような眼差しをしながら、彼女は独り呟いていたのであった―――――――――――――――


いかがでしたか。

今回はサブキャラでもある真央の事や、乱馬が所属する事となるコミュニティーの事とかがかけて、結構満足な皆麻でございます★


やっている方はすぐにわかったと思いますが、作中に出てきたチャットソフトのモデルはもちろん、今も流行っている”LINE”です。

”コミュニティー”もLINEと”グループ”が元。こういったソフトを使おうと決めたきっかけは、彼らの”四面楚歌”が”活動拠点のない(持てない)組織”だったためです。

また今後は、この”DONE”の事もあり、スマートフォンという言葉が何度も行きかう事になりそうです。なので、今後は”スマホ”という略称を使わせてください。宜しくお願い致します。


さて、次回は…

この作品は今後、主人公・乱馬以外の視点でも物語を進めていきます。その区切りを話ごとか章ごとにするのかは、未定ですが…

今の所、主要登場人物3人を予定しています。ただ、場合によってはサプである榎本先生や真央視点もやるかもしれない?

今後見せる展開にもよりますかね。汗


そんなこんなで、ご意見・感想があれば宜しくお願い致します!


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