表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢夢表裏  作者: 皆麻 兎
Case1 初めてづくし
6/10

第4話 初めて見る”敵”

白い扉を抜けた先には、終わりのない空間が広がっていた。周囲にガラスの破片のような物が宙に浮いて止まっている。興味本位で触ってみようとしたが、夕慧に止められてしまう。

「その破片みたいな物が皆、個人の個人的無意識だ。直接触るのはあたしらにもその人物にとっても危険だから、触るなよ」

「…了解」

物凄い剣幕で言われたので、僕は少しタジタジになりながら答えた。

その後、僕らは黙ったまま先へと進んでいく。

「ところで、あんた…他人の夢に自分が出てくる…って言われた事あるか?」

「え…」

その台詞を聞いた途端、僕は背筋が凍るような感覚に陥る。

「…あたりか」

後ろに振り返り僕の顔を見た夕慧は、フッと笑っていた。

こんな風に笑うんだ…

内心でついそんな事を考えてしまった僕だったが、一方で何故自分が他人(ひと)の夢に現れるのを知っているかという疑問が生まれる。

「半夢魔の特徴の一つだ。まだ自分がそうと自覚していない時、知らぬ間に他人の個人的無意識に侵入しているのが原因らしい」

「そうだったんだ…!」

密かに気にしていたせいか、原因がわかっただけでもすごく嬉しい気分だった。

半夢魔(ハキュバス)かぁ…。普通の人間じゃないって言われたのはショックだったけど、それなら存外悪くないかもなぁ~」

少し得意げな口調で僕は呟く。

しかしそれが、夕慧の気分を害するとも知らずに―――――――

「何も知らねぇくせに…」

「え…?」

か細い声の呟きだが、僕は全身に鳥肌が立ったような感覚を覚える。

 何…これ?夢の中なはずなのに…体が震えている…!!?

これはおそらく、一種の殺気だったのかもしれない。こちらを横目で睨み付けてくる彼女の瞳が憎悪のようなものに満ちていた。恐怖と共に感じたのは、疑問。「己の事なのに、怒るほどに嫌悪しているのは何故か」というものだった。


「…着いたぞ」

その後、気まずいながらも僕たちは患者さんの個人的無意識が散らばっている場に到達する。

僕の視界に入ってきたのは、行く先々で見かけたのと同じガラスの破片みたいな形をした”個人的無意識”であった。

「…手をかざしてみろ」

「こう…?」

夕慧に促され、僕は恐る恐る右手を欠片に近づける。

「あ…!!?」

この時、僕の脳裏に空を飛んでいる人物の映像が浮かんでくる。

飛んでいるのは黒い髪の少女で、セーラー服を着ている。その飛んでいる上空はどこか都心部なのか多くのビルが見え、近くには東京スカイツリーも見える。

「この女が見えたよな?」

「!」

夕慧に声をかけられた途端、僕は我に返る。

同時に、頭の中に浮かんでいたイメージも消えていた。我に返った僕に対し、彼女は書類の入ったクリアファイルを目の前に突き出していた。

「うん…確かに…この子…だった」

「…これが第一段階。”患者の夢の一端を透視()る”…だ」

初めての事なので体力が消耗したのか、僕は息切れをしながら問いかけに答える。

僕が見せられたのは患者のカルテとそれに映っている写真。僕の頭の中に浮かんだ人物そのものであった。これで、少し前に説明された患者さんの夢の一部を体感できたといった所か。

「あ…れ…?」

息切れも直ったと感じた直後、今度は頭の中に文字が浮かんでくる。

「上…子…村…知…?」

「…よぎったか」

僕は無意識の内に、頭の中に浮かんだ漢字を読み上げていた。

それを聞いた夕慧は特に驚くことなく、まるで当然のように僕を横目で見る。

「今のは…?」

「…今のは半夢魔の…いわば、夢魔が持つ特有の能力だ。その浮かんできた漢字はその患者の名前を指し、それを並び替えると姓と名が判明するわけだ」

「名前…?」

僕は首をかしげながら呟く。

「具体的な理屈かはわからないが、夢魔は皆、その名前の漢字をパスワードにして人間の夢の中へ入り込む。そんな奴等の血を引くあたしらも、結局は奴等と同じ方法で人の夢に干渉するというわけだ。…皮肉だよな」

「夕慧…?」

この時、夕慧はフッと嗤っていた。

しかし、その表情はどこか遠くを見つめているようであり、寂しそうにも見えたのである。

「…まぁ、とにかく。今から浮かんだ文字を口にしながら、個人的無意識(なか)に入る…」

「わ…わかった!」

一瞬だけ、彼女の瞳が潤んでいるように見えたが、すぐに反対側を向いてしまう。

胸がキュッと痛んだのと同時に、僕は同意の言葉を口にした。こうして、今回の患者である”村上知子”さんの名を、字が浮かんだ順に口に出し始める。それと同時に、両手を欠片の目に突き出しながら―――――

「上…子…村…知…」

瞳を閉じながら詠唱するように漢字を読み上げる僕ら。

すると、黒い霧のようなものが出現し、僕らの体を闇に溶かしていくのであった――――



「あれって…!!?」

「…ああ、奴が夢魔だな。それに、横たわっている方が…」

黒い霧に包まれた後、僕らが目にしたのは顔にソバカスが点々とあり、黒毛のガリガリで目がほっそりしている男。そして、その足元で横たわっているセーラー服を着た少女・村上知子さんだった。男は少女の身体の至る所を探るように触れていた。

「あれが、夢魔…!!?」

初めて夢魔を目にした僕だったが、想像していたものと大きく異なるため、目を丸くして驚いていた。

 仮にも悪魔なんだから、ゲームや漫画に出てきそうな容姿端麗のイケメンかと思った…!!

漫画やゲームの好きな自分にとって、少し期待を裏切られたような瞬間だった。

「あの野郎は、雑魚だ。強い夢魔ほど、より人間を惑わせる姿に化けれるからな」

視線の先にいる夢魔・イキュバスを目にしても、彼女は全く動揺の色を見せていなかった。

「誰が雑魚だぁ!!?」

「わっ!!!」

夕慧の言葉が聞こえたのか、イキュバスがこちらを睨みつけてくる。

「あんただよ、ガリガリ。てめぇなんざ、目を閉じたままでも殺れるぜ?」

「んだと~!!?」

不気味な笑みを放ちながら、相手を挑発する夕慧。

 夕慧(このこ)、絶対Sだな…

僕は彼らのやり取りを聞いていて、ふとそんな事を考えていた。

「ガキが、言うじゃねぇか…。なら…!」

怒りを抑えようとしている敵は、知子さんから手を離し、立ち上がる。

「てめぇを食らって、返り討ちにしてやるぜ!!!」

そう叫んだイキュバスは、物凄い速さで夕慧に襲い掛かってくる。

「夕慧っ!!!」

「…遅い」

それに対し、彼女は動揺する事なく、その姿を晦ます。

 何これ…!!?動体視力には自信はあるけど、それでも目で追うのが精一杯だなんて…!!

僕は今起こっている事に対し、動揺を隠せなかった。夕慧が姿を消したのは魔法とかそんな曖昧なモノを使ったのでない。目にも見えないくらいの速さで足を動かし、移動したに過ぎない。あまりに早かったので、敵は空振りとなって床に転げる。

「ぐぉっ!!!」

しかし、敵もそこで簡単にはやられない。

直撃していれば気絶していたかもしれないが、夕慧が繰り出した足技を右腕で防御したのだ。

「反射的に、攻撃を防いだ…か。雑魚にしては、まぁまぁかな」

「ぐっ…」

脚についたゴミをはらうかのように、彼女はそう口にしながら靴を地面にこすりつける。

「糞が!!!」

「!!?」

目の前にいる敵に敵わないと悟ったのか、イキュバスは、俺の方に視線を定め、襲い掛かってくる。

「…ちょうどいい。せっかくだから、あんたの一撃をお見舞いしてやれ」

「えーーーー!!!?」

夕慧が口にした言葉に、僕は目を丸くして驚く。

 実戦って…いきなりイキュバス倒すの!!?

内心はパニックになっていたが、敵を見据えた途端、時間が止まったような心地を感じる。

 あ…

この時間が止まったような感覚には覚えがある。それは、剣道の試合で竹刀を構え、相手を見据えた時に感じるもの。

 この速さなら…いける…!!

最初口にした叫び声とは裏腹に、心はすぐに冷静さを取り戻す事ができた。

僕は、竽喜竹(うきたけ)から借りたペンを両手に構える。少し念じると、それは竹刀へと変わり、それを見た敵の瞳にも映る。

「やぁぁーーっ!!!」

竹刀を両手で構えて相手を見据えた僕は、イキュバスに対して突きを繰り出す。

「ぐっ!!?」

相手は勢いよくこちらに走っていたのもあり、僕の突きは見事わき腹に食い込んだ。

あまりの激痛に、膝をつくイキュバス。わき腹を抑えて歯を食いしばっているのを見た所、結構効いていたのかもしれない。

「はぁ…はぁ…」

ここが夢の中とはいえ、久しぶりに竹刀を握った僕は息を切らしていた。

「…まぁ、最初はそんなものか」

「夕慧…」

すると、近くで傍観していた夕慧が僕のいる方へと近づいてくる。

「女…」

「!?」

ゆっくりと歩いてくる夕慧に対し、膝をついている敵は不意に何かを呟く。

何を言っているのかは聴こえなかったが―――――

「夕慧…危な…!!」

その後、僅か一秒も満たない時の中で、何とイキュバスが反撃に出たのだ。目にも止まらない速さで立ち上がった敵は、夕慧に襲い掛かり、彼女は地面に組み敷かれてしまう。

「殺られるのならば…てめぇも道連れだ…!!」

「っ…!!」

敵の殺意に満ちた瞳の前に、彼女は目を見開いて驚く。

 何か…様子がおかしいような…?

僕は竹刀を構えながらそんな思いが浮かぶ。おそらく、イキュバスの方は最期の断末魔のように狂暴化しているから、冷静ではないのだろう。しかし、夕慧はどうだ。動揺する姿を出逢ってから一度たりとも見た事のない彼女が、酷く驚いている。というより、怯えているようにも見られる。このままだと喰われてしまうのではと思うくらい、双方の距離が近づいていた。

 とにかく、イキュバス(やつ)をどかせなきゃ…!

「怖い」と感じつつも、目の前で起きている事を見過ごせない僕は、竹刀を持ち直して敵に攻撃を仕掛けようとしたその時だった。

「負けるわけには…いかねぇんだよ…」

「あぁ??」

か細い声が、その口から紡がれる。

しかしかすれ声だったせいか、敵の耳には届いていないようだ。

「ゴフッ…」

一瞬、敵の身体が揺れたと思いきや、その原因は彼の心臓辺りにあった。

夕慧に覆いかぶさっていた敵の背中から、彼女の指先が見える。おそらく、手を手刀のようにして敵の心臓を貫いたといった所か―――――――

「その…()…」

黒い灰となって空気に溶け始めるイキュバス。

その瞳は下にいる彼女に向けられていた。

「…んな…まさ…か…?」

敵は何かを言いかけたが、その苦悩に満ちた顔も黒い灰となり、空気に溶けて消えた。

僕にとっては「半夢魔が夢魔を倒す」というのを初めて見た瞬間であった。



「これで…あの患者の“夢”も大丈夫だろ」

「え…?」

その後ゆっくりと起き上った夕慧は、息を切らしながら倒れている村上知子さんに視線を移す。

「あ…」

彼女の言葉の真意を考えようとすると、患者の身体の周囲に映像のような物が映る。

「これ…さっき話していた夢…?」

その映像に移るのは、大空を気持ちよさそうに飛んでいる村上さんの姿。

倒れている彼女は微笑みさえも浮かべて、空を飛んでいる。

「一般的に“夢”ってのは…何度も何度も繰り返し見る事で…起きた後にも“覚えている”んだ。…あたしらが夢魔を排除すれば…こうして患者の夢と…その心が汚される心配はなくなる」

「…」

息を切らしながら語る夕慧。

その瞳はどこか遠く―――――――誰にも理解できないような先を見ているような気がしてならなかった。

 怖い物知らずの女子()かと思ったけど…

僕は彼女も女の子なんだなと実感したのであった。

 でも…あの怯える表情は尋常じゃなかったような…?

敵に組み敷かれた時に見せた彼女の表情が、脳裏に焼き付いて離れないのであった。

「本当に僕…半夢魔(ハキュバス)…なんだよね…」

いろんな想いが交錯するが、何より実感したのが、今の一言。

現実ではもう握れないと思っていた竹刀が握って、昔のように振るえた事。そして、夢界(こっち)の方が、威力が増して強くなれる事――――――――――――――何か新しい可能性ができたようで、嬉しいような哀しいような…不思議な気分であった。

「…やっと、チームが確立できそう…かな」

いろんな事を考えている僕の近くで、夕慧はボソッと呟いているのであった。


いかがでしたか。

相変わらずですが、序盤はわからない事だらけかと思いますが、無駄な事は書いていないつもりなので、ご了承ください。(汗)


”何度も見ることで夢の内容を覚えている”という件ですが、これはTVとかいろんな資料で見聞きした事があるので、本当らしいです。

後々にも説明入れると思いますが、乱馬達ハキュバスはこの繰り返し見る夢の正室から患者の夢を読み取り、そこから夢魔がどの辺りに干渉しているのかを当てるといった具合です。

作者が考えたフィクションな理屈ですが、ご理解戴ければ幸いです。


序盤では世界観や半夢魔についての説明的要素が多いですが、主人公達がお年頃なので、面白い場面も次々載せていく予定です。


ご意見・ご感想があれば、宜しくお願い致します★


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ