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夢夢表裏  作者: 皆麻 兎
Intoduction 少年が半夢魔と認識するまで
4/10

第2話 夢魔について知る

同級生・松臂夕慧(まつびゆえ)が僕に対して行った台詞は、すぐには信じられなかった。戸惑いを感じつつも、『榎本医院』という看板のある建物の中に入っていくのであった。


「おっ!君が二階堂君?」

「はぁ…」

中に入ると、沖拈華(おきねんげ)さんや星濫君に囲まれている一人の中年男性が僕に声をかけてくる。

室内は病人が眠れるようなベッドや、医師と患者が話すためにあるようなソファ。最新のノートパソコンが置いてあったりと、病院ぽくはないがそんな雰囲気を漂わせる空間であった。

「俺の名は榎本 音定(おとさだ)。精神科医で、不定期だが文面学園初等部のカウンセラーとして学園でも勤めている」

「…そんな男性(ひと)が、何故僕を…?」

 僕はいぶかしげな表情でこの榎本先生とやらを見上げる。

  おそらく、この先生が松臂さんらに声をかけて自分を連れてくるよう仕向けた張本人だろう。建物を構えている限りちゃんとした医師なんだろうが、どうにも怪しい雰囲気を感じる。そんな僕を見かねたのか…医師は腕を組みながら口を開く。

「…先日の脱線事故は大変だったみたいだね。君はあの場に居合わせたんだろう?」

「ええ…それが何か…?」

「元々は、その日に君と対面するはずだったんだ。…お母さんから何も聞いていないかい?」

「母さん…?」

榎本先生が何故母の名を出したのかはわからないが、不思議に感じた僕はあの日の出来事を思い返そうとする。

 そういえば、事故の日の朝…母さんが何か言っていたような…?

おでこに指を当てながら考える。しかし、どう頑張っても母さんが僕に何か言ったのかを思い出せなかった。

「テレビで見たけど…あれだけ悲惨な光景目の当たりにすれば、前後の記憶も曖昧になるんじゃねぇの?」

「うーん…どうやら、その線の方が濃いかもねぇ…」

 考え込む僕を見た星濫君は、けだるそうな口調で医師に伝える。

「まぁ、いいや。細かい事は!…これから、俺らが君に伝えること。教える事がたくさんあるから、覚悟しておいてね」

「??」

意味深な台詞に、僕は首を傾げた。

「さっき夕慧ちゃんが君に呟いていたけど…君が人間と夢魔の血を引く“ハキュバス”なのは、本当だよ」

そう言いながら、医師は彼女の方に視線を向ける。

「ちっ…やっぱり、聴こえていたか。相変わらず、地獄耳だね。先生は」

視線を向けられた松臂さんは軽く舌打ちをしていた。

「そもそも…夢魔…って何ですか?」

ここまでいろんな事が起きると、いちいち驚いている暇がないくらい僕は冷静になり始めていた。

今はとにかく、「わからないもやもやした気持ちをなくしたい」思いでいっぱいであった。

すると、近くにいた沖拈華さんがこちらに視線を向けて口を開く。

「それについては、私から説明しますね」

「沖拈華さん…?」

「“美雨”でいいですよ」

「あ…了解」

穏やかな笑みを浮かべた美雨は、下の名前で呼ぶ事を了承してくれた。

「夢魔とは…別名を淫魔ともいい、キリスト教の悪魔の一つ。夢の中に現れて性交を行う下級の悪魔を指します」

「せ…性交!!?」

僕はその単語につい反応してしまう。

「あはは…一言聞いただけで頬を赤らめちゃうとか…もしや君、童貞かい?」

「どっ…!!?」

榎本先生が僕をからかうので、余計に頬が赤くなったであろう。

 ってか、美雨(このこ)も、何故こう淡々とそんな話ができるんだ!!?

僕はそんな想いが密かに浮かんでいた。

「グダグダうるせぇな…言っておくが、美雨の家は代々“ハキュバス”やエクソシストのいる一族だから、こういった話に詳しいだけ!さっさと話を進ませてやれよ」

「ご…ごめんなさい、松臂さん…」

いまにも声を張り上げそうな表情を松臂さんに、僕は完全にびびってしまう。

「…夕慧でいいよ」

「へ…?」

「同い年なのに“さん”で呼ばれるのは、気持ち悪くて仕方ねぇ…。それに、あのチャラ男だって下の名前で呼んでもいいと思うぜ!」

夕慧の意外な台詞に、僕はきょとんとしていた。

「あんたに決められるのは癪だが…まぁ、いい。俺も君呼ばわりは好かないからな…好きに呼べ」

「…じゃあ、竽喜竹」

「ん…」

僕に名前を呼ばれた竽喜竹は、眠そうな表情をしながら俯く。

「えっと…話を戻していいですか?」

「あ…!ごめん、大丈夫だよ!!」

美雨が物欲しそうな瞳で僕を見上げていたので、つい慌ててしまう。

「では、続きを。夢魔の内、男性型の夢魔をイキュバス。女性型の夢魔をサキュバスといいます」

「サキュバスって…あの漫画や小説の世界に出てくるような奴の事?」

「…はい。イキュバスは女性を襲って精子を産み付け、妊娠させる。サキュバスは男性を襲い、精を搾り取ります。しかし、近年では「悪魔の子を孕ませる」や「男を誘惑して精子を奪う」よりも、「人の夢に干渉して精神を汚す」“夢喰い”をする場合の方が多いのが現状です」

「夢喰い…」

その言葉を聞いた途端、僕は事故以来会っていない親友の志愧(しき)の顔が思い浮かぶ。

「そして、“ハキュバス”とは…人間とその夢魔の両方の血を引く者達の事。語源については、また後日として…」

「はーい!丁寧な説明、ありがとうね美雨ちゃん♪」

「榎本先生…」

すると、ふらふらと周りながら、榎本先生が彼女の近くに寄る。

「君は本当、教えるのが上手だな!俺は鼻が高いねぇ~♪」

そう言いながら、美雨の肩に手を回す。

しかも、何故か医師の視線は、ソファから顔をのぞかせている竽喜竹の方に注がれる。視線に気が付いた竽喜竹は、目を細めながらこちらを睨んでいた。

 先生が美雨を使って竽喜竹をいじって遊んでいるような気がするのは、僕だけ…?

台詞は何もなかったが、彼らの間に殺気みたいなものを感じていた僕であった。


「先生――――!!!あたしだよぉーーーー!!」

「!!?」

すると突然、玄関の方から甲高い女の声が聞こえる。

「…来たか」

その声を聞いた榎本先生は、瞬時に美雨から離れて玄関へと歩き出す。

あまりの変わり身の早さに、僕は茫然としていた。その後、少し微妙な雰囲気になっていた僕らの前に、オレンジ系の茶髪に一筋だけ灰色の髪が混じった女性が現れる。

「今日、バイトが休みの日でもあるから、寝坊しちゃったよぉ~~~」

「真央さん、こんにちは」

甲高い声をした女性は、走ってきたせいか息があがっていた。

そんな女性に驚く事なく、美雨は挨拶をする。

「やっほー美雨!…ってあーーーーーーー!!!!」

彼女に挨拶を返した女性は、僕の顔を見るなり声を張り上げる。

「榎本ちゃん、このラブリーな男の子が新メンバー??」

「…そうだよ、真央ちゃん」

「ラブリーって…」

僕はこの時、この単語に苛立ちを覚える。

仮にも自分は男なのに、女子を褒めるような言い方はあまり好きではないからだ。

 それにしても…榎本先生をちゃん呼ばわりするとは…この女性(ひと)、何者?

僕は疑いの眼差しを向けながら考える。私服を着ているので高校生ではないみたいだが、かといって僕らと年がかなり離れているようにも見えない。一見すると女子大生くらいの年齢の人なのだろうか。

「…ってか、真央。耳出てるよ」

「ありゃ…!興奮して気が付かなかったかも…」

夕慧があきれた表情でこの真央って人に何かを伝える。

「耳…?」

不思議に思った僕は、無意識の内に彼女の頭の上を見上げていた。

「え!!?」

視界に入ったものを確認して、僕は驚く。

茶髪の間に、白い何かが飛び出ている。しかも、右脳と左脳の両側に“それ”が見え隠れしている。

「ね…猫耳!!?」

「…そか。まだこの子、半夢魔の事詳しくないんだね、竽喜竹」

「…ああ。そういう事だ」

猫耳の女性は、何も驚く事なく竽喜竹に同意を求めていた。

「まぁ、彼女の事は追って説明するからー…次は俺の説明を聞いてもらってもいいかな?」

「は…い…」

気が付くと、僕の目の前に榎本先生が立っていた。

この時、何故か僕は悪寒を感じていた。それは、先生の眼差しが、獲物を見つけた肉食動物みたいに怖い雰囲気を醸し出していたから。

 …まさか、この先生…ホモ…!!?

眼差しが怖くて鳥肌の立った僕は、ついそんな仮説を考えてしまう。これについては後ほど、「自分は両生愛者だから、ホモではないよ~」と本人から聞かされる事となるのであった。



「…では、ここから先は俺が話すよ。その“夢喰い”をする夢魔は人間の夢界…心理学で言う普遍的無意識を通じて人間の心に入り込み、寝ている時見る夢に干渉。もしくは、破壊をしてしまう存在なんだ」

「あれ…?でも…」

榎本先生の説明を聞いていて、僕は違和感を覚える。

「夢魔っていうのが夢を食べるか壊すってのは理解できるけど…別に、現実世界では特に影響ないんですよね?それなのに何故…皆警戒するような表情(かお)しているんですか?」

 僕は怖気づいてはいるものの、周囲から感じる殺気に似たようなものを指摘せずにはいられなかった。

夕慧はわかるが、あの穏やかな美雨ですら深刻な表情をしていたからである。自分の台詞を聞いた先生は数秒間ほど黙り込むが、すぐに切り返すように話を本題に戻す。

「…ここ近年、日本で自殺者が増えているのは知っているよね?」

「あ…はい」

「…悪魔を祓う専門家・祓魔師(エクソシスト)の調べによると、近年における“それ”の原因は、夢魔に夢を破壊された人々によるケースが増えているらしい」

「え…」

それを聞いた途端、血の気が引いたような心地がした。

仮に先生たちがいう夢魔という悪魔が存在するとしても、日常に影響が出る―――――――――そんな現実離れした事はないとたかをくくっていたからか。

「!」

すると、真央という女子大生が僕の肩に右手をソッと置いていた。

「ま、だからこそ夢魔と人間の両方の血を受け継ぐあたし達が、奴らを退治しなきゃいけないの」

「退治…」

いろんな事をいっぺんに聞かされて、僕の頭の中に混乱していた。

 ああ…でも…

そんな中で、一つだけ悟った事がある。

 確証はないけれど…僕がこれまでいろんな友達の夢の中に現れていたのは…彼らが言う“ハキュバス”だからなのかもな…

確たる言葉は聞いていないが、自分が半夢魔だと認めればつじつまがあうような気がした。


「じゃあ、一区切りいった所で、自己紹介ついでにあたしがこの先を話すよ」

「おっ!助かる♪」

「そのかわり、今日夕飯食べさせて♪」

「…」

猫耳の女性と榎本先生の会話を聴いて、僕は何となく「コメディー」という言葉が浮かんでいた。

「えっとー…あたしは文面(ふめ)学園大学に通う、連光寺真央だよ!君はー?」

「に…二階堂乱馬です…」

最初と変わらぬ状態で話すこの女性(ひと)に対し、僕はそのテンションについて行くことができなかった。

「それじゃあ、乱馬!まず、さっきあたしが言った“退治”について!半夢魔ってのはね…夢魔と同じように人の夢に干渉できる唯一の存在であり、かつ夢魔を倒せる種族なんだよ!」

「夢に干渉…?どうやって…???」

僕は頭の上にクエッションマークが浮かんでいるくらい、疑問でいっぱいであった。

自分の頭が非現実的な話についていけていないためかもしれない。

「んー…それを理屈で説明するのは厳しいかな。ただ、この子達がする事は、夢をいじろおうとする夢魔を強化された自分の力で倒す事。それが“夢に干渉する”って事…かな?」

「……」

ここまでの説明を聞いた僕は、一旦情報を整理するために黙り込む。

自分がその“半夢魔”である事は認識できたが、それ以外の事はただ漫然と説明を聞いていただけで、あまりはっきりと理解できていない。


「…あとは、実戦でたたきこんだ方がいいんじゃねぇの?」

数秒間の沈黙を最初に破ったのは、ずっと黙り込んでいた竽喜竹だった。

「んー…だね。真央ちゃんも来てくれたし…」

竽喜竹と榎本先生の会話の意味を、僕がすぐに理解できなかったのは言うまでもない。

「あら?先生、どちらへ行かれるんですか?」

その場から去ろうとする医師を美雨が呼び止める。

「キッチンだよ。さっき真央ちゃんに夕飯食わせるって約束したし…ね」

「わーい!夕飯だぁ~♪♪」

 まだ夕飯食べるには、早いような…?

彼らの会話を聞いた僕は、スマートフォンの待ち受け画面を表示させる。スマホのデジタル時計は17時20分。時間があっという間に過ぎていたのにも驚きだったが、何よりも何故今から夕飯を食べるのかが疑問だった。

「先生!まだ、話は終わっていないんじゃ…?」

僕は呼び止めるように、医師に声をかける。

すると、こちらへ振り向いた榎本先生はさらにこう付け足す。

「そうだね。ただ、竽喜竹君が言うように口で言うより実戦で学んでもらった方が早い。それに、後でまた話すけど、俺や真央ちゃんはその時、その場で説明できないからな」

「??」

首を傾げている僕に対し、先生はクスッと哂う。

「とにかく、“腹は減ってちゃ戦はできぬ”というだろう?…腹ごしらえが済んだら、話の続きと実戦練習の解禁だからな!」

そう言った先生は僕に対してウィンクをした後、その場を去って行った。

これを皮切りに、少しの間だけフリータイムとなった。

「あの…乱馬君」

「美雨…?」

混乱している僕を察したのか、近くに寄ってきた美雨が声をかけてくれる。

「いろいろ混乱されてるかと思いますが…。とりあえず、今日はまだ時間がかかるでしょう。今の内に、ご両親へ連絡を入れておいた方がいいかも…」

「そ…そんなに時間かかる…の?」

「…ええ。でも、私達にしかできない事だから…」

僕の問いに対して、彼女はしっかりとした答えをくれる。

この時の表情がとても真剣で、とても冗談を言っているようには見えなかったのである。

 これから先…僕には一体、何が待ち受けているんだろう…?

僕は母さんに送るメールの本文を打ちながら、先生が夕飯を作り終えるのを待つのであった―――――――――――




いかがでしたか。

今回だけでも、情報量の多さに皆麻は少しパンクしそうかもです。

いろんな事を短時間で書き上げたからでしょうか?(汗)


とりあえず、「夢魔とは何なのか」という根本的な説明的文章の多い今回でした。でも、まだこの物語の世界観を語るにはページが足りないくらい…かもです。

また今回で、主要キャラとサブキャラ二人がどんな人物が理解して戴ければ幸いです。

ただ、書いていて思ったのは…今作ではキャラの濃い奴らを創り出したなぁ~と。笑 両性愛者の榎本先生とか、ハイテンションな真央とか…。乱馬は自分の事を「普通の人間じゃない」って悟る回ではありますが、割と”普通の男の子”っぽいのは彼なんでしょうね。おそらく…


さて、次回ですが…

榎本先生が言った通り、次回は実戦を通じて夢魔や半夢魔について皆が彼に教える回となるでしょう。振り回されつつもちゃんと飲み込んでいく主人公を見守ってあげてくださいね★

それでは、ご意見・ご感想があれば宜しくお願い致します(^^


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