19.宇宙の閑話
古代書 「始まりの書」
第一章 黎明-猫
アーシェイク様は、闇によって、今まさに滅びゆく星から、七日かけて猫族全てを光の船に収容した。猫族は、アーシェイク様にとって最初の庇護者となった。
第二章 立国
『アーシェイク様。何故私をお連れ下さらぬのか』アトラースの偉大なる長・ブリタニクが問う。『そなたが死ぬと、私が悲しいからだ』アーシェイク様が、寂しげな顔で答えられた。それがお二人の最後の会話だった。
第一章 黎明
猫族を引き連れ、アーシェイク様は金色に光る長い髪をなびかせて、アトラース人の前に降り立った。その時、一陣の風が舞い、アトラースの王子にして首領たるブリタニクの長い黒髪を乱した。
第四章 出立
愛しきアーシェイク様が姿をお隠しになったとき、ブリタニクは、悲しみのあまり十日間泣き暮らした。*5)涙が枯れた十一日目に『アーシェイク様復活の際は、一緒に私も転生致します』と誓われた。それ以後、アトラース最強の魔法使いであった長は、人々の為にのみ魔法を使い、自らの為に使われた事はなかったという。
(注釈*5) ハスクバナード王室には、アーシェイクの遺品を前に胸元で手を組み跪く長の姿絵が伝えられている。
最終章 未来の書
遠い未来。光の恩人アーシェイクと偉大な長ブリタニクが出会うことは約束された事実である。
第三章 余震
闇との戦いで、鉄の住民は数を致命的に減らしてしまった。彼らは子孫を増やすことを諦めて、各地に散らばった。永遠の命を持つ彼らはアーシェイク様の復活を信じ、再びアーシェイク様のお力になるために、今も何処かでひっそりと生きている。
第二章 立国
敵であった者が一族に加わことについて、アトラース族の大勢が反対した。アーシェイク様はこうおっしゃった。「強敵であるど同族に迎え入れれば心強い」
こうして最後の一族、鉄の民がハスク・バナードへ住まいを移した。
第一章 黎明
七つの眩しい光の球体が、かの者の周囲に浮かんでいた。
金に輝くその巨大な姿は、人を模したもの。
その長い髪は、雪のように白く、目は燃える炎のように赤かった。
その身体は光り輝くしんちゅうのよう。口からは、鋭い牙がつき出ており、背には強く照り輝く太陽を背負っていた。
それは光の船、その御名はハスク・バナード。いずれ偉大なる国の名前となる船である。
第一章 黎明
アトラース大陸に住まう者は貧しい者、富める者、高貴なる者、卑しき者、その全てが第二の能力を持っていた。
ゆえに脱出への統率に事欠く事はない。
ブリタニクは光の恩人と共に歩んだ。
崩壊するアトラース大陸より全ての民が、全ての家畜と穀物の種が、かの者の中へ(以下、一部識別不能)
憲法第九条
ネコはいついかなる場所でも出入り自由。
憲法第三十三条
捕まえられるものなら捕まえてごらん。
「……ワケ解らん」
ブレットが頭をかしげる。
「拾い読みするからよ」
ロゼがバカにした目でブレットを見下ろしている。
「一つ、ハスク・バナードという船の名前が、まんまハスクバナードの名前になった。二つ、ハスクバナードは、私たちアトラース人と、ネコ耳族、そして鉄の民の三者による混成国家だということ」
ばんばんと机を平手で叩くロゼ。
ファム・ブレイドゥー号内図書館で、現代地球語約版「始まりの書」を広げるブレットとロゼであった。
「でもさ、『始まりの書』って名前の宗教書なんだよね?」
特定の宗教を持たないブレット。とくに昨今、考えるところあって特に神や天国を信じていない。
「宗教書なんかじゃないわよ! 神様なんてハスクの人は信じてないわ。特にネコ耳族は神様の概念自体持ってないもの。光の恩人を崇拝しているだけよ」
「光の恩人……ねぇ……」
指に唾を付け、眉毛を整えるブレット。ロゼたちにその習慣はない。
「そうよ、光の恩人、アーシェイク様。その愛は無限。誰にも分け隔てなく接してくれるって。……きっと私にも……」
ロゼはブレットを見ていない。遠くを見ている。
私生児である自分を愛してくれる人。今のところはアーシュラ様だけ。
だけど、伝説の超人、アーシェイクなら、そんな自分にも無差別に接してくれるだろ宇。そんな淡い希望を抱いている。
「それって結局シューキョーじゃないか」
「なんか言った?」
「えっとね――」
怖い目で睨まれたため、ブレットは、話題を変ようと頭を巡らした。なるべく過激な話がいい。
「でもさ、第三者的立場からみると、『始まりの書』は神話にないか見えない。だってそうだろ? 年代も物証も残っていない話しなんだから、アーシェイクだって――」
「アーシェイク様!」
怖い目をした人から訂正が入る。
「ア、アーシェイク様……、読む限り超人じゃないか。局地制圧兵器なみの能力なんか、普通の人間ではもてないよ。恩人ったって、神様と同義語じゃないか」
ちちちち、とロゼが口先で音を鳴らす。指を振りながら。……うぜぇ。
「だからあれほど最初から読めと。……四千と二十年前の話よ。年代もはっきり残ってるわ。第一、『始まりの書』には曖昧な表現はされずに『光の宇宙船』と明記されているし、『荷電粒子砲』って表現も入っているわよ」
ふふん、と自慢そうに、年相応以上に豊かな胸をそらすロゼ。
ロゼ、調子が出てきた。
「必ず生まれ変わって、この世に再び現れる。って遺言を残して亡くなられたのよ。人を超越した力を持っていらしたから、輪廻転生だって必ずやってのけるはずよ。何時か必ず!」
瞳にお星様を宿す少女の物まねが上手なロゼである。こうやってるところばかりだと、美少女で通せるのだが……、とブレットが惜しがっている。
なんにせよ。
「どう説明聞いても『始まりの書』って、ロゼ達ハスクバナードの聖書や法典の様な物じゃないか」
納得いかず、首をひねるブレット。
ふと、思いついた意地悪。
「じゃあ、宇宙に進出したのも二千年前の事なんだ!」
どうだ! 痛いところを突いただろう! とばかりに、イタチのような目をしてロゼを見る。
「フフン! どこ読んでたのよ! その通り。我々は四千年前から恒星間航行技術を持っていたのよ!」
「えっ?」
キツネ目をしたロゼの答えに、固まるブレット。
「『光の船』ってのは、ファム号の様に人型をしているの。ファムとは比べ物にならないくらい巨大だったそうだけどね。一説では惑星サイズって話だけど、アーシェイク様没後は行方知れずになっているの」
どうよとばかりに胸を反らすロゼ。鼻の穴が丸見えである。
「人型の船を所有出来るのは王室限定。『光の船』をモデルに、少しでも光の恩人に近づこうとしているからかしら? 貴族って案外情けないわね、ほほほほ。除くアーシュラ様」
天井を向いたまま、手の甲を口に当て、わざとらしい笑い声をあげるロゼ。
「自慢じゃないけど、私たちアトラース人も、昔は超能力を持っていたのよ。……今は失って久しいけど」
ブレット、窮地に立たされる。
ブレットの腕時計がピンカーを鳴らした。
「あ、呼ばれてる。じゃ、僕はこれで!」
しゅたっと手で合図し、ロゼから……もとい、図書館から素早く逃げ出すブレット。
「あ、コラ待ちなさい! 何でこういうときだけ素早く動くの!」
ロゼの声が遠くで聞こえる。
さっきから頭の中で引っかかっている単語があった。
「崩壊するアトラース大陸?」
ブレットは走りながら頭の中で疑問符を浮かべた。
「アトランティス大陸だったりして」
自分の思いつきを自嘲気味に笑うブレット。それっきりで頭の中から追い出した。
アトランティスとはギリシャ神話にでてくるアトラスの女性形。ちなみに、アトラスの正しい発音は「アトラース」である。
関係ない話と言えば関係ない話。
次回20話「宇宙軍より仕事が回ってきました」
どうやら、話の舵が極右方向へきられた様です。
閑話休題。おもかーじ!




