1.宇宙運送会社、ロイヤル・ミルク・トレーダー
地球より出航した「彼女」は、アステロイド・ベルト軌道を迂回し、木星軌道に入ろうとしていた。
いきなりではあるが、彼女の左舷前方から、破壊の欲望に満ちあふれた凶悪な光の奔流が走った。
エネルギー弾は全弾「彼女」に命中した。
命中したと思いきや、元来た軌道を正確に反射逆行。本来の持ち主である宇宙戦闘艦に突き刺さる。
戦闘艦は、爆発こそしなかったが機関が停止。漂うだけの無害な入れ物と化した。
「彼女」としか言いようのない「それ」は蒼い色を基調とした女の子の姿をしている。
もし本物の女の子だとすれば、全長九百八十フィートの巨人になるが……。
巨人の少女を襲った戦闘艦は、一隻ではなかった。機能を停止した僚艦を中心に、左右二隻の戦闘艦が展開していた。
巨大な蒼い女の子は、現代物理法則を無視した機動性を発揮。一瞬で反転した後、右へ展開した敵戦闘艦と高速ですれ違う。
すれ違う一瞬のさらに一瞬、六本の光の枝で敵艦と接続されて切り離れた。彼女の二の腕より射出した六本の光が、敵戦闘艦を捕らえた一瞬。
――とても美しい光景なのだが――。
彼女から出力された光は、戦闘艦の自力航行能力に容赦ないダメージを与えていた。
残る戦闘艦一隻は、仲間を見捨て逃げの体制に入っている。元々、この戦闘艦三隻は仲間でもなんでもなかったのかもしれない。
蒼い女性型宇宙船は、見送るだけで攻撃しようとはしなかった。最初から興味を持っていなかったかの如く、きびすを返して超光速航行に移項していった。
少し離れた宙域に染みのような揺らぎが生じた。彼女が消え去るのと入れ替わるように、黒いボディの小型宇宙船が姿を現したのだ。
それは地球軍所属のステルス探査艦。
探査艦は、己が主に一部始終を報告。後に、彼女と同じ方角に超光速航法を用い、姿を消した。
彼女の名は、ファム・ブレイドゥー。地球人類の手による船ではない。
この事件の始まりは、先程のあっけない戦闘よりさらに数日前である。
時は未来、所は無限に広がる大宇宙……。
そのベタな大宇宙。生命感希薄な一角で、出会いがあった。
空間と時間は無限であろうとも、人と人の縁は限りがあり、限りがあるからこそ一期一会を大事にしなければならない。
ヨタヨタと危なげに走る旧式宇宙貨物船と、最新式流動エンジンを積んだ高速艇の出会いも何かの縁であろう。
たとえ初めて会った人であっても、互いが互いを敬い、出会いに感謝し、愛をもって接するのが人としての理想の姿であろう。
神が己が信じる者を等しく愛するのなら、人もまた全ての人に寛容でなければならない。
この時点で、一人の少年が通信に取り組んでいた。通信の内容は、以下の通り、慈愛に満ちたものであった。
「ド素人で手際の悪い宇宙海賊さん、見逃して」
「コロス!」
そう、宇宙は腐敗の自由と、暴力の自由に満ちあふれたステキな世界だったのです。
今回、SFっぽいのに挑戦しました。
あくまでSFっぽいのです。SFではありませんとも!
難しい言葉をいっぱい考えました。
難しい理論もたくさん考えました。
大脳皮質が大変なことになっています。
このままでは、ピンクの象さんの幻覚を見てしまうかもしれません。
水玉模様の象さんなら、窓の外を歩いてますが。