大目付
「出井勝押・参議院議員、条例違反により逮捕する」
有力な首相候補と言われてきた出井は、その瞬間、驚いたように目を見開いた。
日本国憲法第50条に基づき、国会議員はこれまで汚職等があった場合でも、会期中は逮捕する事が出来なかった。
だが大震災後の混乱で、各党の足の引っ張り合いが常態化したことにより、事態は一変した。
国民の怒りが頂点に達し、それまで政治の主導権を握った事のない新・政党が衆院選で過半数を握ったのだ。
「我々は完全なる政治浄化を目指し、国会議員に与えられている特権を全て廃止します」
それが、この政党が国民に約束した唯一のマニフェストだった。
こうして創設されたのが、我々大目付だった。
むろんこれは江戸時代の制度を現代に適用したものだ。
「国民の為に誰をも恐れず、徹底的にやってくれたまえ」という、首相の言葉に従い、
我々はがむしゃらに政治家達の裏を暴きだしてきた。
政治資金法違反、収賄、脱税、挙句の果ては恐喝にいたるまで、出るわ出るわ枚挙に暇がなかった
もちろん、我々は野党だけでなく、与党にも手を抜かなかった。
「閣僚といえども特権は認めない」とする大目付法の原則に従い、罰すべき者は公平に処分を下して行ったのだ。
すみやかな逮捕には、ツイッターやウィキリークスからの情報が役に立った。
しかし、それでも逮捕に至る為に大いに苦労した者もいる。
この出井勝押もそうだった。
出井は自身が『鉄壁の高潔漢』と名乗るように、その裏がなかなか見えなかったのだ。
「君達は上司である、この私を逮捕しようと言うのか!」
初代大目付長官・出井勝押はなおも食い下がったが、
「法令に違反した者は、親でも逮捕しろと言ったのは貴方ではありませんか。大丈夫、後は我々役人にお任せ下さい」
そう言うと、出井は「なるほど・・・」と言って、観念したように両手を差し出した。
「では、出井勝押・参議院議員、『野良猫に餌を与えてはいけない』という、条例違反で逮捕する!」
俺はあらためて逮捕状を読み上げ、その身柄を警察官に引き渡した。
「やりましたね! これで衆議院480人、参議院242人、全員逮捕で、コンプリート達成です!」
部下の若林が、うれしそうに俺の手を握った。
今夜はうまい酒が飲めそうだ。
( おしまい )
※・・・この物語はすべてフィクションです。




