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放課後

「フィア、かっこよかったよ」


授業が終わり、騒がしくなった教室でセレナがそっと声をかけてきた。 物怖じせず凛としていた私の姿に、憧れの眼差しを向けている。


「まあ、経験の差ね」 私が少し照れくさそうに笑っていると、呆れた顔のレインが近づいてきた。


「初日から目立ちすぎだ。お前がやり合い始めた時は心臓が止まるかと思ったぞ」


「あら、結果的に上手くまとまったのだからいいじゃない」


私が平然と言ってのけると、背後から軽やかな足音が聞こえてきた。


「今日は、大変だったね」


爽やかな、けれど芯の通った声。振り返ると、柔らかな笑みを浮かべた見知らぬ少年が立っていた。


「レイン、知り合い?」 「いや……多分、初対面のはずだ」 戸惑う私たちに、背後でセレナが震える声でささやく。


「フィア、この方は……この国の第二王子、ノア・アルヴェイン殿下よ」


「へぇ……」 つい素っ気ない返事をしてしまった私に、彼は苦笑した。


「あまり知られていないのかな。兄の方が優秀だから仕方ないけれど」


「そんなことありません!」 慌ててフォローするセレナに、ノアは静かな笑みをこぼした。


「ありがとう。改めて、よろしくね、フィア嬢」


王子様が何の御用かと思えば、彼は「これから職員室に行くだろう? 僕が証言すれば教師たちも無下に疑いはしないはずだ」と、存外に親切な提案をしてくれた。


「助かるわ。でもいいの? あなたに嘘をつかせることになってしまうけれど」


「……火球を放ったノエル嬢は、僕の兄の妃候補なんだ。彼女が問題を起こせば王家の信頼に関わる。彼女、昔はもっと素直な子だったんだよ」


彼の言葉には、貴族社会で棘を纏ってしまった彼女への、切ない想いが滲んでいた。


私たちは寮に戻ったセオンを除いたメンバーで、夕闇の迫る廊下を歩き、職員室へと向かった。重厚な扉を前にして私が意を決してノックをすると、中から現れたのはハロルドさんだった。


「ああ、フィア。事情は聞いていますよ。成果を上げてくれたようで」


目の奥が笑っていないのが一番恐ろしい。ノアが証言しようと一歩前に出たが、ハロルドさんはあっさりと言った。


「その件なら片付きました。原因は教卓に放置されていた古い魔道具の暴走。……そういう処理になっています。相違ありませんね?」


私の失態すら、なかったことにする見事な事後処理。


「……はい。ありがとうございます」


「礼には及びません。それよりフィア、選択科目は本当に『美術』でいいのですか?」


最後に問いかけられた言葉に、私は迷わず頷いた。


「そうですか……ラウラが悲しみますね。では、報告ご苦労様」


外に出ると、窓から差す光は深い褐色に変わっていた。


「っていうかお前、剣術を選ばなかったのかよ」


驚愕するレインに、私は美術を選ぶメリットを淡々と説明したが、彼は「俺は知らないからな」とげんなりした顔で頭を掻いた。


対照的にセレナは、「自分の受けたい科目を選ぶのが一番です」と私を応援してくれた。


「そういえば、セレナは何を選んだの?」


「私は……剣術です。これでも、アークフェル家の一員ですから」


自信なさげに俯く彼女に、驚きが隠せない。


「えっ、剣術の経験があるの?」


「一応は……。でも、そこまでの腕前ではないですけども……」


男子寮との分岐点で二人と別れ、私はセレナと女子寮への道を歩き出す。


「選択授業、楽しみね」


「うん……でも、少し怖いな」


不安がる彼女に、私はかつてのハロルドの言葉をそのまま伝えた。


「大丈夫よ。ラウラ先生は厳しいけれど、あくまで学院の授業だもの。命まで取られたりはしないわ」


「だといいけど……」 不安げな表情のセレナと共に、私たちは寮の扉を潜った。 夕暮れの静寂の中、二人の賑やかな声が寮までの道を温かく満たしていた。



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