後始末
騒動の鎮圧から、教師への対応、そして令嬢への「格の違い」を見せつける対話までを、スマホで読みやすく構成しました。
「……さて。少し、派手にやりすぎちゃったかな」
呟きながら、私は指を鳴らした。 床に散らばった水滴が、淡い光を放ちながら粒子の霧となって消えていく。 そこには、先ほどまでの騒乱を証明する一滴の水すら残っていない。
だが、轟音までは消せなかった。 廊下からは、異変を察知した教師たちの慌ただしい足音が近づいてくる。
「フィ、フィア……どうするの……」
涙目で袖を掴むセレナに、「座ってなさい」とだけ静かに告げた。
教卓へ移動すると、勢いよく扉を開けた教師と鉢合わせた。
「な、何事だ! 今の衝撃音は……っ?」
私は動じることなく、淡々と答える。
「失礼いたしました。私が誤って魔道具に触れてしまい、魔力が暴走したようです。幸い怪我人はおりませんし、備品の破損も防ぎました。後ほど、始末書を提出に伺います」
「な……魔道具だと? しかし、今の音は……」
教師の視線が、床で震えている令嬢たちに向く。 彼女たちは炭を被ったような顔で、呆然と立ち尽くしていた。
「彼女たちは、急な暴走に驚いてしまったようです。……ねえ、そうでしょう?」
冷ややかな、しかし有無を言わさぬ微笑を向けると、彼女たちは弾かれたように首を縦に振った。 ここで真実を話せば、先に術を仕掛けた彼女たちには退学処分が待っている。
「……む。怪我人がいないなら良いが、放課後、必ず職員室へ来なさい」
教師を体よく追い払い、私は自分の席に戻った。
騒ぎは収まったが、教室の空気は一変していた。 先ほどの少女が、信じられないものを見るような眼差しをこちらに向ける。
「……どうして。どうして、私をかばったの?」
掠れた声で問いかける彼女に、私は静かに視線を向けた。
「ここであなたを失うのは、この国にとって『損失』だからですよ」
意味を理解できず、呆然とする彼女に語りかける。
「失敗を糧に己を律することを覚えた魔導師は、何も知らない秀才よりもずっと価値がある。一度死にかけた今日で、感情の暴走は卒業でしょう?」
私は彼女の目を見て、ささやいた。
「今は己を焼くことしかできない未熟な炎でも、正しく育てれば多くの人を温める光になる。そんな芽を摘むのは、国の未来を捨てることと同じだと思ったのよ」
そっと手を伸ばし、彼女の頬に残った火傷を指先でなぞる。 微かな魔力を流し、その疼きを優しく鎮めていく。
「……次は、もっと理解して魔術を使いなさい。あなたには、その才能があるのだから」
子供を諭すような柔らかな微笑みを向け、私は手元の本に視線を戻した。




