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再開

翌日、セレナと共に大講義室の扉を潜った。 高い天井に魔力の光が灯っており、教卓には何かの魔道具が置かれている。いかにも最高学府といった趣の教室だ。


中央付近に、ひときわ目を引く黒髪を見つけた。 「レイン! もう来てたの?」


声をかけると、彼はにこやかに笑った。 「おはよう。……そっちは?」


私の背後で震えるセレナを紹介する。 「彼女はセレナ・アークフェル。軍武卿の令嬢よ」 「レイン・エルドだ。よろしくな」


武の双璧を担う両家の跡取りが揃ったことで、教室の空気が一変した。 周囲が遠巻きに伺う中、私は隣に座る金髪の少年に目を向ける。


「……セオン・レイヴェンだ」 彼は無機質な声で言い捨て、教科書に目を戻した。


「こいつは一般入学の特待生だ。成績は規格外だよ」 レインが肩をすくめて補足する。


血筋の補助なしでこの門を抉じ開けた実力者。 私が観察していると、彼は不機嫌そうに睨んできた。 「……じろじろ見るな。お前は?」


「フィア・アステリオスよ」


その名を告げた瞬間、教室内が再びざわついた。 案の定、華やかなドレスを纏った女子グループが近づいてくる。


「あなた、本当にアステリオス家の方?」 リーダー格の少女が、扇の隙間から私を射抜く。


「そうだけど。何か問題でも?」


「いいえ。ただ……アステリオス家の前当主様には、お子様は二人しかいないはずですわ」


少女は扇の隙間から、勝ち誇ったような笑みを漏らす。


「長男のヴァルター様、次男のオルド様。……それなのに、聞き慣れない『娘』が急に現れるなんて。ねえ、皆様?」


取り巻きたちが、くすくすと下品な笑い声を重ねる。 スキャンダルを餌にする貴族特有の、粘りつくような視線だ。


背後ではセレナが怯え、セオンは我関せずと窓の外を見ている。 そして隣のレインは――私がどう切り返すかを楽しみにしているのか、肩を震わせて笑いを堪えていた。


(……やれやれ)


私は深く、長く溜息を吐き出した。 「私は、アステリオス家前当主の娘よ。間違いなくね」


「まあ! それはまた、ずいぶんと自信満々ですこと」


少女はわざとらしく声を上げ、一歩踏み込んできた。


「では、教えていただけます? なぜ、その大切な『娘』の名前が、私たちの耳に入ってこないのでしょう。」


「なにか、表に出せない事情があるということですわね?」


彼女たちは「待ってました」と言わんばかりの、醜悪な笑みを浮かべる。 逃げ場をなくし、私の口から「屈辱的な言葉」を吐かせようと、執拗に言葉を重ねてくる。


「それは……つまり、どういうことですの? どなたかのお間違い? それとも、ただの厚かましい自称かしら?」


「はっきりおっしゃったらどう? あなたのその立ち位置を」


突きつけられた下俗な問いに、私は隠すまでもない事実を淡々と返した。


「つまり。私は前当主が、正式な婚姻関係以外でもうけた子――いわゆる『不義の子』ということよ。これで満足?」


一瞬の沈黙。 その後、彼女たちは待望の答えを得たといわんばかりに、露骨な蔑みの眼差しを向けた。


「あら、あら……。ご自分の口から認められるなんて、なんて厚顔無恥な」


「アステリオス家の歴史に泥を塗った汚点として生きる気分は、さぞ惨めでしょうね?」


「アステリオス家の歴史に泥を塗った汚点として生きる気分は、さぞ惨めでしょうね?」


取り巻きの忍び笑いが響く。 実に幼稚だ。私は小さくあくびを噛み殺し、頬杖をついた。


「それで? 話は終わり?」


「……なっ!?」


「自分ではどうしようもない『血』にしかすがれないなんて。あなた、よほど自分自身には誇れる価値がないのね」


淡々と告げた私の言葉に、少女の顔が怒りで真っ赤に染まる。 「貴女に何がわかるというの!」


感情の高ぶりと共に、彼女の周囲の魔素が乱れ始めた。 パチリ、と指先に赤い火花が散る。寄りにもよって火属性の魔法か・・・


「教室内で攻撃魔法? 湿度が低いこの場所で、そんな練り方をすればどうなるか習わなかった?」


「黙りなさいッ!」


逆上した彼女が放とうとした火球は、不安定に揺らぎ、制御を離れて急速に膨張した。 熱波が彼女自身を焼き、自慢の髪がチリチリと爆ぜる。


「嫌、嫌ぁ!」


無様に炎を振り払おうとする彼女を横目に、私は深く息を吐いた。

指先を宙に滑らせ、大気中の水分を呼び水にする。


「――水界アクア・レルム


透き通るような水流が火球を包み込み、断末魔のような蒸発音と共に炎を鎮めた。 床には無数の飛沫と、水溜まりだけが残る。


私は膝をつき、魔力が枯渇して震える彼女の顔を、ハンカチでそっと拭った。


「だから言ったでしょう? 分に合わない魔術は身を滅ぼすと」


彼女は地面にへたり込んだまま、震える唇から音を出すことすらできなかった。

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