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ep.74 戦利品の鑑定と『届かぬ至宝』

川崎、パシフィコ横浜。

カビ臭い空気と、死霊たちが発する微かな腐敗臭だけが漂うその場所で、鈴木一郎は床に腰を下ろした。

肩に食い込んでいた戦利品の袋を無造作に放り出す。ズシリと重い金属音が響き、一郎の口から長く、熱い溜息が漏れた。


「……さて、命を懸けた対価を精査するとしようか」

「……まずは、これか」


最初に取り出したのは、埃を被った古めかしい『Medicine Chest(薬品箱)』だ。

【クエスト:慈悲の任務(Mercy Mission)】の目標物。

これを提供すれば、報酬として移動速度を爆発的に高める『クイックシルバーフラスコ』が手に入る。


「……慈善事業ではない。これは、私の『機動力』を買うための正当な取引材料だ」


一郎はそれを丁寧に脇に置くと、本命の鑑定作業に入った。


「……ゴミだな」


最初に手に取った古びた盾を、一郎は一瞥して捨てた。


「わずかに腕力を補強するようだが、そのために左手の自由を奪い、重圧を増やすなど割に合わん。鉄屑としての重み分、私の生存率を削るだけの代物だ」


だが、次に手に取った鈍い光を放つ靴――それは違った。

装飾用のソケットこそ開いていないが、手にした瞬間に伝わる重量感が、一郎の渇いた心を潤す。


「……これは良い。純粋な肉体の底上げ(STR+20)か。複雑な術式など不要。基礎能力の底上げこそが、不測の事態への最大の備えとなる」


一郎は満足げに頷き、その靴を履き替える。

足元から力が伝わり、背筋がわずかに伸びた。


そして、袋の底から取り出したのは、禍々しい骨の装飾が施された一本のワンド――『Montregul's Grasp(モントレグールの掴み)』。


その詳細を脳内のシステムで読み取った瞬間、一郎の心臓が跳ね上がった。


「Montregul's Grasp(モントレグールの掴み)/ Unique」

・蘇生したゾンビの最大数が50%減少する

・蘇生したゾンビの最大ライフが+5000される

・蘇生したゾンビの全ての耐性が+28%される

・蘇生したゾンビのサイズが50%増加する

・ゾンビのヒットにより倒された敵は爆発し、そのライフの50%を火ダメージとして与える

・蘇生したゾンビの物理ダメージが109%上昇する


「なんだ……この、暴力的なまでの力は……!」


死霊の最大数を半分に減らすという凄まじい『制約』。

しかし、それと引き換えに得られるのは、一体一体を爆発的な怪物へと変貌させる狂気的なまでの性能だった。

ライフの底上げ、全身への耐性付与、さらには倒した敵を爆破して炎を撒き散らす副次的効果。


「これだ……。これ一本あれば、私の軍勢は単なる肉の壁から、歩く戦略兵器へと昇華する。一体が十体分の価値を持つ、究極の少数精鋭エリート……!」


一郎は震える手でその杖を握りしめ、天に掲げようとした。

――だが、腕に鉛を流し込まれたような重い『拒絶』が走る。


【警告:身体能力(レベル68)および知性(122)が不足しています】


「……っ!? なぜだ、なぜ使えん!」


脳内に表示される無機質な数値。

必要とされる『知性』の深淵と、現在の彼自身の『器』の乖離。

最高級の性能を約束しながら、手にする資格すらないという非情な現実。


「ふざけるな……! 目の前に、これほど確実な未来がありながら、私自身の熟練度が足りないというのか!? あと一歩……あと、わずかな成長さえあれば……!」


廃墟の静寂を、一郎の歯噛みする音が引き裂く。

手に入れた『至宝』は、今の彼にとってはただの「飾られただけの棒切れ」に過ぎない。

どれほど価値があろうとも、行使できなければゼロと同じだ。


「……いいだろう。ならば、無理やりにでも『器』を広げてやる」


一郎は荒い呼吸を整え、蓄積していた経験のすべてを、脳内の『最適化の極致パッシブ・ツリー』へと叩き込んだ。

狙うは一点。

愛用するユニーク兜『男爵(The Baron)』の秘められた真価を引き出すための、絶対的な閾値。


「すべてを……注ぎ込め!」


全身の筋肉が膨張し、骨が軋む。

視界の端で、一郎が執着し続けた数値が跳ね上がった。


【STR:520】達成。


その瞬間、一郎の頭部を覆う『男爵』の兜から、黒い魔力の波動が吹き出した。

この兜には、ある特殊な法則が刻まれている。


――『筋力が500に達するごとに、蘇生できるゾンビの最大数が1増加する』


一人一人への魔力共有が安定し、使役できる死霊の『枠』が、一気に拡大する。


「……フン。杖の損失を補うには、やはり数の暴力が一番か」


一郎の背後に、新たな死霊が這い出した。

四体から五体へ。

数が増えただけでなく、一体一体の立ち姿に、先ほどまではなかった圧倒的な「威圧感」が宿っている。


一郎は『モントレグール』を大切に懐に仕舞い込んだ。


「待っていろ。すぐに、お前を使いこなしてやる……。私の平穏を邪魔するすべてを、その炎で焼き尽くすために」


五体の死霊を従え、男は再び、冷徹な支配者の瞳で闇の先を見据えた。


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